破天荒な先代主人が突然会社を辞めて開業!
女将と二代目が親子で暖簾を守る
文京区で創業40年の老舗酒場
料理をしない先代主人と天才肌女将の絶品料理
東京ドームのお膝元、文京区の後楽園駅から向かうのは、創業40年目を迎えた「遠州屋」。「でかい・安い・うまい」という看板に、「ザ・酒場って感じだね」と期待が膨らむきたろうさんと西島さん。店を切り盛りするのは、女将の鈴木とみさん(76歳)と二代目を継いだ息子の聡さん(48歳)だ。
今宵も焼酎ハイボールで「乾杯!」した、きたろうさんたち。さっそく最初のおすすめ「刺身盛り合わせ」をいただく。必ず毎日仕入れに行く旬の魚は新鮮そのもの(この日は、中トロ、カンパチ、タコ、アジ、甘エビ)。豪華に盛られた大ぶりの刺身に「ダイナミックなお刺身。おいしい〜」と西島さん。「うまいっ! 贅沢だなぁ〜」ときたろうさんも感激だ。
40年前に店を開業したのは、とみさんのご主人・寿男(ひさお)さん。「主人は大手の会社の経理部長だったんですが、急に酒場をやりたくなったと、突然会社を辞めてきた(笑)」と話す女将。「それまで13年間、ここはラーメン屋さんに貸していたんですが、開業したいからすぐ出ていってほしいとお願いして。最初は無理だと困惑していたラーメン店の社長も、主人が『13年分の賃料を返すから』と言って、結局、翌日出てもらった」というから、驚くしかない!
「料理の勉強は?」と聞くと、「主人は料理は全然で。会社で取引のあった焼き鳥屋さんに1か月ほど通っていろいろ教えてもらってきたけど、テーブルの大きさとかお皿の数とか、細かいことばかり大学ノート2、3冊にぎっしり書いてました。でも肝心な料理はできないまま。最後は私に料理を習ってこいって。結局、私が1日で女将さんから料理を教わってきたの」。
昭和40年に寿男さんと結婚し、三人の子宝にも恵まれ、専業主婦として過ごしてきたとみさんは、いきなり開店準備に追われ、気づけば酒場の女将に。「開店当初からお客さんがいっぱい来てくれたのは、お父さんのおかげ」というとみさん。一見破天荒なご主人の人柄を多くの人が慕ってくれたのだ。
ここで、お待ちかね「もつ焼き」(肉だんご、シロ、レバ)が登場。西島さん、まずはレバを頬張って「焼き加減も絶妙。噛んだ瞬間に新鮮だって分かる!」。「シロはさっぱりしすぎず、香ばしくておいしい〜」と止まらない。肉だんごは、ミンチにしたモツを団子状にして揚げてから焼く。「個性的な肉団子。まわりがカリカリで、おいしい」と西島さんも舌つづみ。「作り置きはしないので、その日の分だけ」というこだわりの一品だ。
二代目を継いだ息子が女将を支える
ちゃんこ鍋
お次は「もつ煮込み豆腐」を。その日仕入れた牛と豚のモツを味噌と塩で味を調え煮込む。とみさんが2日間の修業で覚えた味をご自身でアレンジした創業以来の味だと聞いて、「2日間って、素人の味でしょ!?」と言いながら一口食べたきたろうさん、「モツがうまいっ! レベルを低くみてたから余計うまいよぉ!」と笑いながらも大絶賛。「薄味なのに臭みがなくておいしい〜」と西島さんも感心しきりだ。
続いて「自家製 焼豚」。国産の豚肉を使った分厚い焼豚に「大きい! ジューシーで柔らかい」と大興奮。「こんなに分厚いの!? 上質なハムみたいだね」と口いっぱいに頬張って幸せそうなふたり。
高校生の頃から先代に頼まれて、少しずつ店を手伝うようになった次男の聡さん。7年前に寿男さんが亡くなり、二代目を継いだ。「店を閉めることは全く考えなかった」という女将をしっかり支える聡さんだが、「辛くてやめようと思ったことも、しょっちゅうある」と笑う。「でも助かりましたよ。長男と娘は出ちゃったから」と女将が言うと、「毎日お客さんとかかわっていくのは、自分の性に合っているから」と聡さんの笑顔が輝く。
最後の締めは「ちゃんこ鍋」。「すごい具だくさん!」と西島さんが喜ぶ名物ちゃんこは、野菜や肉類、タラやエビなど13種類の具材が鍋の中でぐつぐつ。「あ〜、醤油仕立てで、おいしい! いいダシが出てる」と喉が鳴る。
「酒場はストレス発散の場所」という聡さん。「その分、お客さんのストレスを自分が受けなきゃなんないよね?」と言うきたろうさんに、「うまく受け流しながら頑張ってます」と笑顔。
「主人と結婚したことは後悔していない」と語る女将にとって、「酒場は自分の生きがい。こういう運命だったんだから、生涯、やっていきたい。知らないお客さんとも話ができて、一日一日長生きできる。それで十分」。そんな女将に「お客さんがお金に見えてくることない?」といたずらっぽく聞くきたろうさん。女将が「ありますっ!」と返して大笑いになるのだった。