横浜市西区で創業60年の老舗酒場
新鮮な鶏料理へのこだわりと
先代の格言を胸に暖簾を守り続ける
豪快な“鳥の丸揚げ”を手づかみで!
2週にわたる“横浜スペシャル”で、やってきたのは神奈川県横浜市。みなとみらいにも近い西区浜松町で創業60年の老舗酒場「やまと」を訪れたきたろうさんと西島さん。二代目ご主人の墓前(はかまえ)豊さん(63歳)と女将の多恵子さん(62歳)が迎えてくれる。さっそく焼酎ハイボールで常連さんたちと「今宵に乾杯!」して、まずは店自慢の「焼き鳥」を。天日干しの国産塩を使った上品な「ハラミ」に、「塩おいしい! 甘みを感じる」と感激するふたり。「うちは全部、塩。先代から、『新鮮な鳥は塩のみの味付けで十分』と教えられた」とご主人。女将が丁寧に仕込む「皮」は、余分な脂を削ぎ落とし3時間ほど茹でてから焼くそうで、「柔らかくて溶けちゃう。衝撃的!」と西島さんも驚く旨さだ。
昭和33年、豊さんの父・豊松さんが母・登喜子さんとともに開業した「やまと」は、当時から新鮮な鶏料理が売りだった。豊さんは高校卒業後、調理師学校に1年通い、「やまと」で働き始めるが、2年後に豊松さんが病に倒れ他界。22歳の若さで二代目を継いだ。亡き父が生前語ってくれた言葉を胸に店を守り続ける豊さんの口からは、先代の格言が次々と飛び出す。『お金は汚く稼いで綺麗に使え!』、『仕入れ先を泣かせてもお客を泣かすな!』、『料理の技術は盗んで学べ!』。見栄を張らずに商売して、地道な努力を怠るな、という先代の強い思いが感じられる。
次の料理は店の名物、一羽を丸ごと揚げた「鳥の丸揚げ」がドドーン! 「先代曰く『鳥は手に持って食べろ!』。手でないと本当においしいところは食べられない」とご主人。脂の少ない手羽を食べてから脂の多いモモを食べるのがおすすめとのこと。手づかみで豪快にかぶりつく西島さん。「おいしい〜。こんなにワイルドなのに、味は繊細。新しい世界を見た気がする」と大興奮。モモを食べては「すごい、なんたる肉汁!」と感動が止まらない。「鳥肉は淡泊だから、時間をかけると旨味が逃げる。先代からも『鳥肉は素早く揚げろ!』と言われたが、いかに短時間で旨味を包み込むかが勝負」と自信のほどが伺える。
「先代は常々、『仕込みには手間暇をかけろ!』と言っていた。鳥は鮮度が落ちるのが早いので、毎朝届く新鮮なニワトリを1羽ずつ自分たちで解体します。だから仕込みは朝8時過ぎから夕方5時過ぎまでかかる」とご主人。これにはきたろうさんも感心するばかり。
「また来るよ!」が最高の褒め言葉
丸揚げ
多恵子さんとの出会いは、意外にも音楽つながりだそうで、豊さんが高校時代、プロのミュージシャンをめざして活動していたバンドのコンサートに来てくれたのだという。その後、音楽を断念した豊さんは、料理の道へ。結婚して、2人の子育てをしながら42年間、夫婦二人三脚で店を守り続けてきた。「主人は、誰に対してもすごく優しい人」と女将。「本当に一緒になってよかった」と常連さんに洩らすほどのアツアツぶりに、「言われたいー!」ときたろうさんも思わず叫ぶ。「夫婦仲がよくて、本当にいいお店。女将さんも大将も人間性がいい」と44年来の常連さんも太鼓判を押す。
さて次の一皿は、女将考案の「ピリ辛ネギ和え」。ササミと皮にネギを合わせ、醤油やラー油、ごま油などで味付けした中華風。「さっぱりした味に、皮がいいアクセント」と箸が進むふたり。
そこに、豊さんの長男・三代目の忍さんが登場。昼間は病院で調理師として働き、休日に店を手伝っている。「親父を超えたい」と忍さんが考案した自家製「レバーペースト」は、白レバーを使ったクリーミーでなめらかな逸品だ。「二代目は、厳しい面もあるが、普段は話の分かる優しい親父。尊敬してます」という忍さんに、豊さんは「息子の仕事ぶりもなかなかのもの。二代目を追い出そうとしているのをヒシヒシと感じるね」と笑う。
最後の締めは「雑炊」。新鮮な鶏ガラを弱火で2時間煮込む澄んだスープに、喉を鳴らすきたろうさん。「沁み渡る上品なおだし。幸せ」と西島さんも夢中で雑炊をすする。
「美味しかったよ」よりも、「また来るよ」と言われたいとご主人。「この店は酒の肴も旨いが、一番旨いのは人間味」と言ってくれるお客さんもいるそうで、「店全体の雰囲気がいいんだよね」ときたろうさんも納得する。「初代を超えた?」と聞くと、「崇拝してきた親父を超えたと思ったら、自分はそこで終わってしまう。終着駅に着いたときに、まわりから『あいつ親父を超えてたよな』と言われるのが目標」と語る。「私は、ちょっと超えたかなって思いますよ」と声をかける女将に、思わずご主人も「オメエ良い女房だな! 俺は、一生付いていくぞ!(笑)」となって、店内は大盛り上がり!
酒場とは「お客様が癒される場所でありたい」というご主人の、こだわりと人間味が詰まった、また来たくなる一軒だ。