母親の大反対を押し切って料理人に
料理愛あふれる主人が作る
手の込んだ絶品料理に舌つづみ!
見事に編み上げた太刀魚の塩焼きに感激!
おしゃれな街“ニコタマ”としてお馴染みの世田谷区二子玉川(ふたこたまがわ)で、創業15年目を迎えた「川よし」が、今宵の酒場。ご主人の川口敦士さん(45歳)と母親の優子(68歳)さんが店を切り盛りしている。まずは、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」した、きたろうさんと西島さん。最初のおすすめ「刺身2点盛り」をいただく。この日は、タコとアズキハタの昆布締め。見るからに新鮮なタコは、隣に座る常連客のひとり、“仕入部長”こと湯澤恵子さんが東京湾で釣ってきたものだという。釣りが趣味の彼女は、釣れたばかりの新鮮な魚を店にもってきてくれるそうで、「市場で仕入れるより、さらに新鮮!」と感激するふたり。
「サラリーマンだった父に資金を出してもらって店を開業した」というご主人の敦士さんは、幼い頃からずっと料理人を夢見て、中学を卒業後、すぐに働きたいと両親に相談したという。母・優子さんからは「厳しい修業に耐えられるわけがない」と大反対され、仕方なく高校に進学したが、夢は変わらなかった。高校を卒業すると、優子さんは調理師専門学校への進学を薦めるが、それは、息子を応援するためではなく、「辛くてやめるだろうと思った」から。優子さんは、息子がサラリーマンになることを望んでいたのだ。それでも敦士さんの意思は固く、調理師専門学校を卒業後、母の反対を押し切り、料理人としての道を歩み始めた。約11年間、都内の和食店で修業を重ね、30歳で独立し、「川よし」を開業。ずっと反対してきた優子さんも、ついに息子を支えていくことを決意し、以来15年間、二人三脚で店を切り盛りしている。
さて、次のおすすめは、「太刀魚の塩焼き」。三つ編みのように身を編んで焼いた太刀魚に驚くふたり。「太刀魚は骨が細かいので、食べやすくするために丁寧に骨を取り除き、身を4つに切って編み上げて焼く」そうで、一口食べて「旨っ! いやぁ、これは旨い」ときたろうさんは大興奮!
開業当初はなかなか客が入らず、大変だったが、徐々に口コミで繁盛しだしたのは、「お客様のおかげ」と優子さん。「『川よし』って名前が高級感あるんだよね。でも入ってみると、こんなに気さく(笑)」と、きたろうさん。ご主人は、「とにかく料理を作るのが楽しくて、つらかったことなんて思い浮かばない。だからこそ、この道を選んだ」と、料理愛があふれる。
裏方に徹して支え続ける父への感謝
太刀魚の塩焼き
お次は、「蓴菜(じゅんさい)」を。優子さんの故郷・会津若松から取り寄せるそうで、「ところてんみたいにプリンプリン。さっぱりする」と西島さん。「今でも辞めてほしいと思う時はある?」と優子さんに聞くと、「今は楽しい。いろんな人と話もできるし、おいしいと言ってもらえるのもうれしい」と話し、「サラリーマンだったら、一緒に働いたりできないよ」と言うきたろうさんに、幸せそうな笑顔を見せるのだった。
ところで、店内の壁には、達筆な書画が。「『風の盆』と書いてます。富山の祭りの名前で、父が書きました」とご主人。季節に合わせた言葉を書いて店内に飾っているそうで、店の看板やメニューも修さんが書いた文字をもとに作っているという。
ここで、「秋刀魚の山椒煮」が登場。「どの料理も品がある。山椒がほんのり効いてて、まぁおいしいこと!」と西島さん。「いいつまみだね」ときたろうさんも箸が止まらない。
「やめる、やめない、で、数えきれないほど口喧嘩した」という親子だが、最後は、いつも、父・修さんが出てきて「絶対やめさせない」となったそうで、「父からは、続けるからこそ意味がある、と言われてきた」と敦士さん。きたろうさんが、「親父さんいるの? ちょっと顔見せてよ」と頼むと、厨房の奥から出てきてくれた修さん。「すごくいい男!」、「かっこいいっ!」と思わず盛り上がるふたりに、「息子には、一旦やりだしたら辞めるのは男の浪漫じゃないと、ずっと言ってきた」と力強く語る。今年で76歳を迎えた修さんは、定年後、少しでも息子の力になれればと、趣味の書道を活かして店内を飾り、裏方に徹して皿洗いを買って出るなど、息子を応援し続けている。
最後の〆は、「つみれ鍋」。手作りのつみれをカツオと昆布の合わせ出汁でいただく。「つみれの味がすごく濃い〜」と西島さん。「市販のとは百倍も味が違う!」ときたろうさんも感心しきり。「今日の素材は、カツオ、ヒラメ、イサキ、アジ、ごぼう、人参、ねぎ、大葉……」と聞いて、「そんなに入ってれば、旨いわけだ!」。
これからの夢は、「今のまま続けていくこと」だとご主人。優子さんも同じ思いだ。「酒場とは何か?」という質問に、「お客さんに自分の料理を食べてもらいたいからこそやっているんで……」と言い表しがたい様子のご主人に、「難しいね、哲学だから」と頷くきたろうさん。隣に座る常連客の湯澤さんに尋ねると、「“癒し”でしょ!」と素晴らしい一言でずばり答えて、店内はまたいい雰囲気になるのだった。支えあう家族が営む、温かい酒場がここにもあった。