台東区上野で暖簾を守って半世紀
家族で営む老舗酒場の
温かい雰囲気に心が和む
おでんに染みた出汁の旨味に悶絶!?
しとしと降る雨もどこか似合うJR上野駅にやって来た、きたろうさんと西島さん。今宵の酒場は、台東区上野で昭和45年創業の「ふみ作」だ。店を切り盛りするのは、ご主人の三関雄三さん(73歳)と二代目女将である娘の川田ゆかさん(40歳)。そして厨房では、女将のかほるさん(68歳)が腕を振るう。焼酎ハイボールで常連さんたちと「今宵に乾杯!」したふたり、まずは「おでん」をいただく。きたろうさんのチョイスは、大根、はんぺん、じゃがいも。西島さんは、たまごとさつま揚げを。フーフーしながら口に入れると、具材に染みた出汁がじゅわりと広がり、舌も心も震える旨さ! 「開店当初から同じ味」という出汁は、透き通った黄金色で、薄口醤油仕立てのお吸い物のよう。「旨いなぁ〜。出汁がもう、京都にいるかと思うくらい」と、きたろうさん大感激!
ご主人の雄三さんは、昭和21年、上野で缶詰などを扱う卸問屋「文作商店」の末っ子として生まれた。大学卒業後は長野県の食料品メーカーで働き始めたが、就職から2年後、突然、呼び戻される。卸問屋を閉め、酒場を開業した父親の持病が悪化し、店を手伝ってほしいと言うのだ。雄三さんは、「悩みましたよ。逃げようかと思った」と言うが、24歳で店を任され、「ただもう夢中でやるだけ。料理も板前を見て自分で学んだ」と振り返る。そんなご主人の隣で、手際よく料理をしながら、「この人、いまだにやりたくないの。サボってずっとギター弾いてたいのよ」とハスキーボイスの女将が笑う。
次のおすすめは、「鶏の唐揚げ」。アツアツを頬張って、「お母さんの唐揚げだ〜。おいしい」ときたろうさん。「衣が竜田揚げ風にカリカリでうれしい」と西島さんも絶賛だ。
ふたりの出会いを尋ねると、「私が働いていた近所の喫茶店です。付き合って2年後、21歳で結婚しました」と女将。「どっちが好きになったんですか?」と、いたずらっぽく聞く西島さんに、照れながらも、「もちろん、私が惚れたんです」とご主人の優しい笑顔がこぼれる。「21歳の頃はこんなハスキーボイスじゃなかったよね?」と、冗談交じりのきたろうさんには、「ソプラノのような声でしたかね」とご主人も茶目っ気たっぷりだ。結婚と同時に酒場を手伝い始めたかほるさんは、6年後に長女のゆかさんを出産し、その後もずっと店を支えてきた。「想像以上に大変でした。子供を背負ってね……」と当時の苦労を思い出す。常連さんの世話になることも多かったそうで、娘のゆかさん自身も、「町内の人が育ててくれたようなもの。店の営業中は、よその家でごはん食べさせてもらったり」。そんなゆかさんのご主人が、きたろうさんの隣の席に! 近くにある鈴本演芸場に勤めているそうで、結婚前から店の常連客だったとか。ゆかさんの仕事ぶりを見て「よくやってると思います。接客もうまくて勉強になる」とベタ褒めで、仲の良さを見せつけてくれた。
トロトロの牛すじシチューに舌つづみ!
牛すじシチュー
お次は、「揚げ出し豆腐」を。大根おろしとなめこが入った、天つゆベースの出汁に、「自己主張しないのに旨いね」と喉を鳴らすきたろうさん。「なめこが入ってるのもうれしい」と西島さんも箸が止まらない。
「ふみ作」という店名は、「両親がお世話になった二人の女性『お文さん』、『お作さん』の名前から命名したと聞いてます」とご主人。「粋だね〜、色気を感じる」ときたろうさん。ゆかさんは「初耳!」とちょっと驚いた様子だ。
10年前、雄三さんが食道がんを患って入院したのがきっかけで、店を手伝うようになった、ゆかさん。かほるさんは「もう閉めようかと思った」と言うが、母娘で力を合わせ、休むことなく営業を続けた。今ではゆかさんが社長として頑張っている。「じゃあ、ご主人たちも、ただの従業員!?」というきたろうさんに、「父に会いに来るお客さんも多くて、パフォーマーとして雇ってます(笑)。母のガラガラ声で店を思い出すお客さんもいて、二人にはまだまだ頑張ってもらわないと」と快活なゆかさんだ。
さて、次は「さば南ばん漬け」が登場! 「さばの南ばんって珍しい」と驚く西島さんに、「小骨がなくて食べやすいんです」とゆかさん。パクリと食べた西島さん、「おいしい〜。肉厚で贅沢した気分!」と納得する。
ここで、ギター歴55年のご主人が、“仕込みをサボって”磨いた腕前を披露。フランス映画『禁じられた遊び』の主題曲を演奏すると、「うまいよ!」ときたろうさんも思わず聞き入るのだった。
そして最後の〆は、「牛すじシチュー」。ホロホロになるまで煮込んだシチューは、まるで高級洋食店の一皿。西島さんは、添えられたガーリックトーストにも目を輝かせながら、「おいしいよぉー! もう最高!」と大興奮。「この味を引き継げば、お客さんは絶対来る」ときたろうさんも太鼓判を押す。
店を長く続ける秘訣を聞くと、紀伊國屋書店創業者・田辺茂一の「啼かず翔ばずも藝のうち」という色紙を指さし、「無理せず、啼かず翔ばずでいってます」と女将。最後に三人にとって酒場とは、「生まれ育った場所であり、人が集まる場」とゆかさん。ご主人は、「みんながホッとする場所」。そして、女将にとっては「人生勉強の場」とのこと。3人の想いに包まれて心が和む、温かな酒場だった。