故郷をこよなく愛する主人が
静岡の良さを伝えるために作った酒場
絶品静岡グルメに舌つづみ!
原点は父親が作ってくれた“静岡おでん”
今宵、きたろうさんと西島さんが訪れたのは、新宿区・高田馬場で創業八年目を迎えた「静岡おでん ガッツ」。堂々たる赤富士の絵が飾られた店内で、ふたりは、さっそく焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。ガッツさんことご主人の市川徳二さん(42歳)に最初のおすすめをお願いする。まずは、看板メニューの「静岡おでん」と聞いて、「真っ黒なやつだね……」と微妙な反応のきたろうさんだが、飴色に輝くおでんにたっぷりと削り節がかかった一皿が登場すると、「あぁ、いい香り」と、食欲がそそられる。この日のおまかせは、黒はんぺん、牛すじ、こんにゃく、卵、大根。魚の粉末と青のりを混ぜた、だし粉という薬味をかけるのが静岡流だ。イワシやサバのすり身が入った黒はんぺんは、「普通のつみれより歯ごたえがよくて、味が濃い〜」と西島さん。「牛すじも、脂の甘みにパンチのある魚の出汁が、めちゃめちゃ合う!」。きたろうさんも、「期待してなかっただけに、余計うまいよ(笑)」と感激もひとしおだ。
静岡で生まれ育ったご主人は、18歳の時に上智大学に進学するため上京。大学卒業後は、テレビCMの制作会社に就職し、その後、独立して、27歳でダーツバーを始めた。しかし、経営に陰りが見え始めると、見切りをつけ、36歳で「静岡おでん ガッツ」を開業する。料理経験がないまま酒場の世界に飛び込んだのは、父親の影響があった。ご主人の父・弘三さんは、地元静岡で酒屋と角打ちを経営しているという。「私がダーツバーで行き詰った時、自分の一番の“武器”は何かと考えたら、心の奥にあったのが、父が作る“静岡おでん”だっんです」。そう聞いて、きたろうさんは、「やっぱり原点があるんだね」と納得する。
さて、次のおすすめは、「桜エビと生しらすの紅白セット」。静岡県由比町(ゆいちょう)から直送される貴重な生桜エビと、透き通るほど新鮮な生しらすを盛り合わせた贅沢な一皿だ。近年、漁獲量が減少している桜エビをありがたくいただいた西島さん。「こんな小っちゃいのに、身がトロトロなの」と大感激。生しらすを食べたきたろうさんも、「とれたてだね! 浜辺で食べてるみたい」と感心しきりだ。
月に一度は旨いものを探しに静岡へ!
静岡おでん
続いて、ご主人の地元・用宗(もちむね)産のしらすを使った「用宗しらす餃子」が登場! パリパリの羽根つき餃子の中は、しらすの出汁がきいた肉汁がたっぷり。月に一度は地元に帰り、おいしいものを探すというご主人。いいものがあれば、直接、仕入れ交渉するそうで、しらす餃子も地元のメーカーにお願いして仕入れさせてもらっている。「料理人というよりは、“静岡を広める人”ですかね。静岡の場所や空気、人の温かさや料理、すべてが愛すべきもの」と言うが、高校時代は地元での生活を退屈に感じていたとか。「田舎だし、閉鎖的で何もないと思ってました。でも、上京して20年たって、地元がなんて輝いているんだろうって。今一番大事にしたいのは静岡。静岡のいいところを広めたいという情熱は誰にも負けません」。
次にいただくのは、浜松地方の郷土料理「遠州とん平焼き」。豚肉、桜エビ、キャベツ、もやしを入れたお好み焼き風の一品に「これはたまらんヤツだ!」と興奮しながら頬張った西島さん、「具だくさんで食べ応えある〜」と大満足。すると、ご主人が「遠州焼きならではの具材がもう一つ入ってるんですが、わかりますか?」と聞く。きたろうさんが、「コリコリするね」と気づいて、西島さんが「たくあん!?」と、大正解! 静岡西部・遠州地方ではたくあん入りのお好み焼きが一般的なのだそうだ。
「10年後は、静岡愛が消えて、商売になっちゃってるかもよ?」と言うきたろうさんに、「それだけは、やってはいけないこと。商売には、愛情がないとだめですから。もうけることと、お客さんに喜んでもらうことのバランスですね。利益ばかり追求したり、ズルして近道するつもりはないです」と、真っすぐだ。
静岡おでんは、父の弘三さんから教わったそうだが、「それまでは、父との距離は近くなかった」とか。「東京の大学に行かせた息子が、会社も辞めて、突然、酒場を始めるなんて、親の心中察するものがありますよね(笑)」とご主人。そんな親子のわだかまりを解消するきっかけとなったのが、故郷の味・静岡おでんだった。「父の味を継いで、静岡のいいものを伝えたい、と言ったら、納得してもらえて。それからは一緒に酒を飲む回数も増えましたね」。弘三さんも静岡から何度も店に足を運び、喜んでくれているという。
最後の〆は、静岡のご当地グルメ「富士宮やきそば」を。富士宮焼きそばと名乗るには、「肉かす(豚の背脂)が入っていること。“富士宮やきそば学会”指定の麺を使用すること。風味付けにだし粉がかかっていること。そして、学会指定の“麺許皆伝書”を取得した者が作ること」が必須だそう。「麺がモチモチで、すごくおいしい!」と、ふたりの箸はとまらない。
「毎日、静岡のいいところを伝えられるのがうれしい」というご主人にとって、酒場とは「感謝」だと言う。「お客様はもちろん、スタッフや、協力してくれる静岡の方たち、すべてに感謝です」。そう聞いて、「百点満点!」と、珍しく文句なしのきたろうさんなのだった。