東京・北区滝野川で創業15年目
子供の頃からの夢を叶えた息子が
母親とともに営む人気酒場!
小学生の時から将来の夢は料理人
きたろうさんと西島さんがやってきたのは、東京・北区滝野川。付近を流れる石神井(しゃくじい)川は、大正時代頃までは滝のような急流で、滝野川と呼ばれていたのが地名の由来だとか。ふたりは、夕焼けの石神井川をあとに、今宵の酒場「酒処 粋」へ。常連客で賑わう店内で、ご主人の宮井奨(すすむ)さん(44歳)と母親の洋子さん(72歳)に迎えられ、さっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。「ご主人、優しそうな雰囲気で、“粋”って感じじゃないよね」と言うきたろうさんに、「昔から祭りが好きで、“粋”という言葉に憧れがあって」とご主人。一方、西島さんは、若々しい洋子さんに、「一瞬、ご夫婦かなと迷うくらい」と、驚きを隠せない。
さて、最初の料理は、「お刺身盛合せ」。この日は、気仙沼産のカツオ、北海道産のサンマ、高知産県産のハマチに宮城県産のイシガレイとタコの豪華5種盛り。軽く炙ったサンマを食べて「香ばしい。旨いよなぁ〜」ときたろうさんが舌つづみを打てば、西島さんはイシガレイに「素晴らしい! コリコリして、旨味がすごい」と感激する。
東京で生まれ育ち、小学6年の時から調理師を夢見ていたご主人。「子供の頃、近所の居酒屋さんで両親と食べた料理がすごくおいしくて。あんな料理を作りたいと憧れました」と言う。高校卒業後、調理師専門学校へ進学し、専門学校を卒業した後は、埼玉県川口市の日本料理店で5年間修業した。その後、都内の日本料理店で修業を重ね、平成17年に30歳の若さで自分の店を開業。母とともに切り盛りしてきた。「修業時代は、怒られて怒られて、覚えては、怒られて、の繰り返し。でも今となっては、それが自分のためになったし、若かったからこそ、勢いで独立できたのかも」と振り返る。「お母さん、よく手伝ってるね」ときたろうさんが声をかけると、「少しでも息子が楽になれば」と奨さんを思いやる洋子さんだ。
次のおすすめは、「もつ煮込み」。白味噌と田舎味噌をベースに、豚もつ、牛もつなどを半日煮込む。「甘みを感じますね。おいしくて、あったまる〜」とふたりは大満足。
名物「カレー鍋」の絶品スープに感激!
お刺身盛り合わせ
開業当初から地元の仲間や先輩など、多くの人に支えられてきたというご主人。常連さんたちも、「料理の味と、マスターとママの人柄にひかれて通ってます」と、みなさん温かい。「ご主人は、人懐っこくて、すれてない感じがいいよね」と、きたろうさん。洋子さんも、「お客さんとの会話が楽しい」と充実した様子で、夫も認めてくれているという。開業資金も貸したそうだが、「ちゃんと返してもらいましたよ」と洋子さん。「夫にも文句は言わせない(笑)。息子のためにやるんだから」と言うと、「まだ息子離れができてないんじゃない!?」ときたろうさんがツッコむ!
ここで、オリジナルメニュー「たこ焼き風厚揚げ」が登場。絹ごし豆腐を素揚げして、ソースとマヨネーズ、カツオ節をかけた一皿に、「本当にたこ焼きみたい。これは罪悪感が少なくていい!」と西島さん。きたろうさんも、「子供も大喜びだね」と感心する。
基本的に店で料理は作らない洋子さんだが、「これは私の手料理」と出してくれた「ポテトサラダ」の家庭的な味に、ほっこりするふたり。続いてのおすすめ「イカとトマトのガーリックマリネ」が登場すると、きたろうさんは「気取ってるね」と言いながらも、「さっぱりしてて食べやすい」とパクパク。ニンニク風味も効いて箸が進むのだ。
「店をやめようと思ったことはない」と親子で口を揃えるが、開業3年目には、ご主人が体調を崩して入院し、しばらく店を閉めた時期もあったという。洋子さんは「心配しました。でも、私ひとりではできないから、閉めるしかなくて」。再開後は、「お客さんが戻ってくれて、本当にありがたかったです」とご主人。きたろうさんは、「ふたりを見てると、お母さんが息子を相当甘やかしてるのが分かるよ(笑)。子供の頃、自転車やゲームが欲しいと言われたら、すぐ買ってたでしょ?」と聞くと、「そうですね」と頷く洋子さん。きたろうさんは「ほらね!」と笑いながら、ご主人に、「いつもお袋がそばにいるってどう?」と聞くと、「頼もしいです」と素直な答えが返ってくる。
最後の〆には、「カレー鍋」を。ぐつぐつ煮えたカツオ出汁ベースのカレースープに、豚バラやエビ、春菊やキノコなどの具材がたっぷり。「あぁ、おいしい〜。カレーうどんのスープより和風で、出汁とカレーがすごいバランスで成り立ってる」と感動する西島さん。「お酒のおつまみにもなってるね」ときたろうさんも喉が鳴る。
「お客さんとの出会いや会話を大切にしています。おいしいと言ってもらうのは最高の幸せ」と言うご主人の夢は、「まずは現状維持。でも、できれば、もう一店舗やってみたい」とのこと。「酒場とは何か?」を尋ねると、「相田みつをさんの言葉“一生勉強、一生青春”」だという。それを聞いて、「一生勉強かぁ、ヤだな〜」と軽口をたたく、きたろうさん。洋子さんが、「ホッとできる場所です」と答えると、「それを作るのはふたりだからね。大変な仕事だよ」と感じ入るのだった。