ミュージシャンの夢をあきらめ
楽しい酒場を作り上げた若き主人
センスが光るオリジナル絶品料理の数々!
驚きの「牛もつ一本焼き」に舌つづみ
世田谷区でも人気の住みやすい街・千歳烏山(ちとせからすやま)にやってきた、きたろうさんと西島さん。京王線・千歳烏山駅から商店街を通って向かったのは、創業5年目の「笑広」(えこう)。暖簾に描かれた「笑」の文字は、笑顔に見えるデザインで、こだわりを感じさせる。厨房で腕を振るうのは、スキンヘッドとにこやかな笑顔が印象的な、ご主人の北方尚仁(なおと)さん(36歳)。まずは、いつも通り、常連さんと焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。店内の雰囲気に、「若いお客さんが多そうだね」ときたろうさん。「そうですね。朝まで営業してるので、時間帯によっても変わりますが」と聞いて、「朝まで!?」と驚くふたり。
最初のおすすめは、厚切りの「馬刺し」。“厚切り”は“通常”の4倍の厚さだそうで、「贅沢〜。噛み応えのある厚みと赤身の柔らかさが、ちょうどいい感じ」と西島さん。きたろうさんも「おいしい!」と噛みしめる。
「料理の世界に入って20年ほど」というご主人はまだ36歳。高校を中退し、17歳で飲食店で働き出したそうで、「当時、音楽をやっていて、音楽で食べていきたかったんです。でも親は大反対。高校の学費も、アルバイトして返しました」と笑う。一時は芸能事務所に所属し、ソロ歌手として活動していたが、結局、芽が出ることはなく、26歳で音楽活動を断念。新たな目標に選んだのが、自分の店を持つことだった。「歌よりも、飲食業の方が楽しいなと思い始めてた?」と聞く西島さん。「そうですね。未練なく、スパっと切り替えられたので。生活を考えれば、音楽より飲食業だったんですね」とご主人。
次のおすすめは、「牛もつ一本焼き」。なんと、牛の小腸を一本、そのまま炭火で焼く豪快な一品。もつを好きなサイズで食べたいというお客さんの要望に応えたそうで、長いままこんがり焼けたもつに、「こんなの見たことない。すっごくいい香りがする!!」と大興奮の西島さん。ハサミで切って口に運べば、「おいしい〜。脂も旨みも、全部に閉じ込められてる」と感激。切らずに焼くことで、肉汁の旨みが逃げないのだという
4年前、勤めていた酒場が閉店し、同じ場所に自分の店を開いたご主人。まず手を付けたのは、内装のリニューアルだった。「お客さんにゆっくり過ごしてもらえるように座敷を作ったり、目線を合わしやすいようにカウンターを改良したり。建築業をやっている父に手伝ってもらいました」。父親の雪雄さんは、ご主人の理想とする店作りに協力してくれたのだという。「勘当されてもおかしくない息子なのに、よく助けてくれたね」と、感心するきたろうさん。雪雄さんは、今も毎日のように店に足を運んでくれるのだそう。
お客さんの笑顔が一番うれしい!
もつ鍋
続いて登場したのは、ご主人オリジナルの「紅生姜焼き」。紅生姜をふんだんに使い、チヂミのように焼き上げた、目にも鮮やかな一皿に、西島さんはビックリ。「紅生姜もメインになって大喜びだね。この安い素材が!」と、きたろうさんも予想以上のおいしさに舌つづみをうつ。
ここで、創業時からの常連さんが来店。もちろん、きたろうさんとは初対面だが、「おぉ、久しぶりじゃない!」といきなりジョークを飛ばして、みんなで大笑い! 明るく賑やかな常連さんたちに、きたろうさんも、「なんかこの店の雰囲気が分かるね」と打ち解ける。店名の「笑広」も、音楽の「ECHO(エコー)」と、「笑いが広がるように」との思いから名付けたというご主人は、とにかく「楽しいことが大好き」なのだ。
次にいただくのは、「自家製玉子焼き」。一目見るなり、「うわぁ、おいしそううう〜」と震えんばかりの西島さん。「このタイミングで出し巻き出されたら、もうたまらんですよ。ふわふわでおいしい〜」と叫ぶ。「小さい時から、家で作ってましたから」と言うご主人。子供の頃から、簡単な料理は、母親から任されていたのだそう。「開業のとき、お母さんの反応はどうでした?」と尋ねると、「その頃はもう、母は他界していて……」。母・就巳(なるみ)さんは、13年前に47歳で帰らぬ人となったのだ。当時23歳だった尚仁さんは、定職に就かず、母を心配させてばかりだったという。店名の「笑広」には、亡き母への想いもこめられているそうで、「母が自分に付けたかったという名前『広大(こうだい)』から、「広」を使いました。店を開業したことを自分の口で母に伝えたかったですね」。
〆には、店自慢の「国産牛もつ鍋」を。何度も試行錯誤を重ねて作り上げた自家製とんこつスープで、牛の小腸を煮込む。「プルプルで、旨みがすごい。期待を裏切らないおいしさ」と、箸が止まらなくなる西島さん。野菜ともつから出る自然な甘さに「やっぱり出汁だな〜」と、きたろうさんも喉を鳴らす。
毎日が楽しいというご主人。「お客さんが楽しそうに帰っていくのが、一番うれしい。根がポジティブなので、落ち込む事もなく、どうやったら良くなるかしか考えないですね」と、ひときわの笑顔。ご主人にとって酒場とは、「素直な自分が出せる場所」。常連さんたちも、「ここでは、みんな自分を作らない。素が出てますよ」と頷く。きたろうさんは、「いいね〜」と言いながら、「ちょっと、出しすぎだけどね(笑)」とオチをつけて、またまた、みなさん、賑やかに大笑い。