25年続けた公務員を辞めて酒場を開業!
夢をかなえた主人が作る
ひと手間かけた自慢の魚料理の数々
甘みと旨みが凝縮した昆布〆に舌つづみ!
JR中央線・武蔵小金井駅にやってきた、きたろうさんと西島さん。駅の北側には、桜の名所として知られる玉川上水や小金井公園があり、春には多くの花見客で賑わうエリアだ。ふたりは、さっそく今宵の酒場「十魚や(ととや)」へ。カウンターに座って、まずは焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。厨房で腕を振るうのは、ご主人の濱田勝規(かつのり)さん(47歳)。「魚の種類が豊富な店」というイメージで名付けたという店名どおり、魚料理が自慢の店だ。
最初のおすすめは、「珍味3種盛り」。あん肝、イカの塩辛黒作り、自家製カキのオイル漬けの盛り合わせに、きたろうさんは、「ザ・酒場って感じ! いっぱい飲めってことだな」と、さっそくエンジン全開。西島さんも、「カキおいしい〜。炙ってるからめちゃめちゃいい香り! これはどんどん飲んじゃう!」と満面の笑みを浮かべる。
5年前まで公務員だったというご主人。高校卒業後、生まれ育った和歌山の労働局で25年間働いてきた。「なんで公務員から、こんな不安定な仕事に?」と聞くきたろうさんに、「40歳を過ぎて、あと20年も公務員を続けるのが嫌になって……。実は高校を卒業した時から調理師になりたいって気持ちがあったんですよね」と明かす。「じゃあ、夢がかなったんだ」ときたろうさんも納得だ。和歌山労働局を43歳で退職した勝規さんは、上京して寿司職人養成学校に入学。魚の扱いなどを勉強した後、都内の寿司店や居酒屋で1年半修業し、平成30年に46歳で独立した。「資金はあったの?」ときたろうさんに聞かれて、「調理師学校や引っ越しもあって、貯金を切り崩してやってますね」と苦笑いのご主人だ。
さて、次の一皿は常連さんにも人気の「昆布〆5種盛り」。この日は、サーモン、コウイカ、カレイのエンガワ、キンメダイにホタテ。エンガワをパクリと食べて、「おいしいーっ、脂の甘みと昆布の旨みがものすごく合う!」と大興奮の西島さん。「このひと手間がうれしいよね」ときたろうさんも舌つづみを打ちながら、「開業してまだ短いのに、料理がおいしい。研究してる」と感心しきり。ご主人は「ひと手間加えたほうが面白みがあって、ウチならではの料理を味わってもらえると思って」とこだわりを見せる。
珍しい鮪のテール煮はホクホクでプリプリ
珍味3種盛り
「開業時、不安はなかったですか?」と西島さんが聞くと、「いやぁ、今でも不安」と正直な答えで、「そりゃ、まだ1年半だもんね」ときたろうさん。「奥さんは?」と質問すると、「結婚してた、ってパターンですね……。今、独りだから自由にできるんです(苦笑)」。
ここで、カウンターの上でひときわ存在感を放つ巨大な生ハムの固まりに気づいて、「えぇーっ、なんで!?」とビックリするふたり。ハモン・セラーノというスペイン原産の生ハムだ。魚料理中心の店ながら、ご主人の大好物という理由でメニューに加えたのだとか。刻み山葵と味噌マヨネーズを添えて食せば、「う〜ん、深い香りとコクがあっておいしい」と大満足。
「大将は全然気負ってないのがいいね。儲けたいっていう意欲を隠してる!?」ときたろうさんが言うと、常連さんも「そもそも儲けるつもりあるのかな、と思っちゃいます」。公務員時代の収入からは半減したと言うご主人。店の2階で一人暮らしだそうで、「想像するとなんか寂しいねぇ」ときたろうさん。ご主人も「正直、ちょっとわびしい」と言いつつ、「お客さんのおいしいという表情が喜びです。収入は2分の1でも、楽しさは10倍」と明るい笑顔だ。
ここで次の一皿が登場! 出てきたのは、なんと、輪切りにした大きな魚の煮付け。「何、これ?」と驚きながら、「鮪?」と推測した西島さん、大正解! 珍しい「鮪のテール煮」はホクホク、プリプリで、そのおいしさは感動ものだ。
最後の料理は、「十魚や特製シーフードカレー」。サバ、ハガツオ、エビなど7種類以上のアラで丁寧に出汁を取り、玉ネギやセロリ、トマト、シメジ、エノキなど5種類の野菜を加え、最後にカレー粉を入れて約18時間煮込む。完成までに20時間以上かかるという、ご主人自慢の一品。一口食べたきたろうさん、「うまいっ! たまんないね」と喉をならす。「おいしい〜。野菜と魚の旨みがクセになる」と西島さんも感激。その日のアラの種類により味が変わるのも魅力のひとつだ。
ご主人にとって酒場は、「くつろげる場所であることが一番」だと言う。そして、これからの夢は、「常連さんでお店がいっぱいになること。さらに、一見さんもウェルカムな雰囲気を作ること」。それを聞いて、きたろうさん、「難しいよね。お客さんと一緒につくるものだからね。味はもう大丈夫だから、これからはお客さんの勉強だね!」とエールを送るのだった。