ファッションデザイナーから酒場の店主へ
異色の経歴をもつご主人の個性が光る
オヤジたちの憩いの酒場
ごま油と塩で食す「くじら刺」に舌つづみ!
今宵の舞台は千代田区秋葉原。中学生の頃によく電気街に来ていたというきたろうさんだが、当時とは全く違うJR秋葉原駅前の様子に目を丸くする。そんな秋葉原エリアで創業25年目を迎えた「なおじん」が、本日の酒場。出迎えてくれたのは、スキンヘッドに赤シャツ、シルバーのネックレスという個性的な装いのご主人・梅田芳春さん(68歳)。きたろうさんと西島さんは、さっそく焼酎ハイボールを注文して、ご主人や常連さんたちと「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、一番人気の「くじら刺」。筋が少ないミンク鯨の背中の赤身をごま油と塩でいただけば、もう、やみつきになる旨さ。「なんでこんなトロけるの!」と感激するきたろうさん。「これはおいしい。さっぱりした赤身にごま油が最高〜」と西島さんもうっとり。
続いては、「牛すじ煮込み」を。温玉のトッピングに、目を輝かせる西島さん。生姜やコチュジャンが入ったピリ辛の牛すじに卵を絡めて一口、「卵が合う! スパイシーな味付けがちゃんと計算されてますね」と感心しながら、「ご飯にかけたい! 絶対おいしい〜」と大興奮だ。
酒場を開業して24年のご主人だが、それまでは、ファッションデザイナーとしてアパレル業界で25年間も働いていたという。19歳で愛知県から上京し、世界的ファッションブランド「KIMIJIMA」を立ち上げた君島一郎氏に弟子入り。「専門学校にも行かず、いきなり門を叩いて弟子にしてもらって、オートクチュールの世界に。2年間で8年分くらいの仕事をしましたね」。がむしゃらに働き、21歳で独立して、参宮橋に自分のアトリエを構えたという。きたろうさんは、「すごいね、能力あるんだ。21歳で独立って、めちゃくちゃ早いよ!」と感心しながら、「そういう顔に見えないから余計にびっくり。全然、威張ってないんだもん(笑)」。
独立した翌年、師匠の元で出会った清美さんと結婚したご主人。公私ともに充実した日々を過ごしたが、44歳の時、突然アパレル業界を離れる決意をする。「バブルがはじけて、うまくいかなくなって、人生をやり直そうと思ったんです。板前を雇って秋葉原で酒場をやれば、僕はお客さんをたくさん呼べるから、繁盛するはずと思って。不安はあったけど、なんでもできる自信もあったから」。そんなご主人の支えとなったのは、アパレル時代の同期で飲み仲間の露口さん。この日もカウンターで飲んでいた常連客のひとりだ。「応援するしかないと思いましたよ。精神的に後押ししたり、お客さんを連れてきたりね」と話す露口さんも、現在、飲食店を経営中。「お店どう?」と尋ねられて、「ぼちぼちでんな!」。賑やかな笑い声が響いた。
楽しいトークと絶品料理がお客さんの心を開く!
牛すじ煮込み
さて、次の一皿は、ご主人が月島まで足を運んで見つけた、絶品の「わさび昆布」。「いいおつまみ。わさびの風味とシャキシャキ感がたまらない」とチューハイが進む西島さん。きたろうさんも「これは最高だね!」とご機嫌だ。
酒場を開業した当時、妻の清美さんは何も言わずについてきてくれたという。店名は、長男・直人(なおと)さんのニックネーム「なおじん」に決め、清美さんと二人の子供たちが店を手伝ってくれた。店の人気を支えたのは、看板娘だった長女・一奈さん。お客さん一人一人の好みを細かく把握し、接客に活かしていたという。一奈さんが店を辞めて十年以上経つが、今だにお客さんから「娘さんは?」と聞かれることも多いとか。ご主人も、一奈さんを見習い、お客さんと積極的に会話することを心掛けているそう。「それ嬉しいですよね。距離が近いのが魅力なんですね」と言う西島さんに、「『ここは俺の馴染みの店』とか言ってみたいもんねぇ」ときたろうさんも同意する。「新しいお客さんとどんどんつながっていくのが楽しい」というご主人の笑顔に、充実ぶりが伺える。
続いていただくのは、カレーコロッケ。ゴロゴロしたジャガイモの食感を残すのは、ご主人が信頼する板前・飯迫さんのアイデアだ。ハフハフ食べながら、「歯ごたえが楽しめるね」ときたろうさんも舌つづみを打つ。料理は一切できないというご主人は、「初めは板場に入ったんだけど、お客さんから、マスターはこっちで一緒にしゃべってくれなきゃ、って言われて」と笑う。「だから料理するのは板前さん。それぞれの得意料理を僕が見極めて、それを活かしたメニューを決めるんです」。
最後の〆には、「なおじん鍋」を。ふぐや牡蠣、鶏肉に野菜など、豪華な食材をふんだんに使った寄せ鍋に、「贅沢だなぁ〜」と喉を鳴らすきたろうさん。途中で軟骨入りのつくねも投入して、「うわぁ〜、おいしい。これは旨味出てる。すごい鍋だわ!」と西島さんも感動する。
酒場とは「憩いの場所。楽しくお酒を飲むところ」と言うご主人。「そのために、ご主人がいないとだめなんだね。こんなオヤジたちと飲むのもいいねぇ」と、同世代との賑やかで楽しいひと時に、きたろうさんも大満足!