江東区森下で創業52年の老舗酒場
運命的な出会いに導かれて
54歳で人気酒場の暖簾を継いだ男の物語
半世紀以上愛される絶品焼鳥
江東区森下にやってきた、きたろうさんと西島さん。心地よい風が吹く隅田川をあとに、“高橋のらくろ〜ド”商店街を通って、今宵の酒場「鳥長」へ。店先で焼鳥を焼きながら、「へいっ、いらっしゃいっ!」と満面の笑みでノリよく迎えてくれたのは、二代目主人・石田勝巳さん(67歳)。創業52年目を迎えた店内のカウンターに座って、ふたりは、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは「刺身の盛り合わせ」。この日は、豊洲で仕入れた、ブリ、平目、マグロの赤身。分厚く切られた刺身は、コリコリと歯応えもよく、「鳥の店だと思ったら、お刺身が食べられるとは!」と感心するきたろうさん。「刺身好きなお客さんも多いから、おろそかにできないんですよ」と言うご主人に、「最初は鳥だけだったんでしょ?」と聞くと、「その頃のことは、こちらに……」ときたろうさんの隣に座るご夫婦に話をバトンタッチ。実は、このご夫婦は、先代主人の塩島長二さん(78歳)と先代女将のサダさん(73歳)。塩島さんは、昭和43年、焼鳥とうなぎが名物の「鳥長」を開業し、サダさんとともに38年間、人気酒場を切り盛りした。そして、平成18年に石田さんに店を引き継いだのだ。
石田さんは、高校卒業後、調理師になるために群馬県から上京し、焼鳥チェーン店に就職。3年後には料理の腕を見込まれ、厨房を仕切るように。さらに経営の才能も発揮し、支配人として10店舗以上の管理を任された。転機が訪れたのは53歳の時。独立を目指し、30年以上勤めた焼鳥店を退職し、翌年、「鳥長」と運命的に出会う……。
ここで、話を一旦おいて、次のおすすめ、「おまかせ串盛り」を。しいたけ、ねぎ、ししとうなどをはさんだ焼き鳥5種の盛り合わせ。「プリップリでジューシー」と口いっぱいに頬張る西島さん。きたろうさんが、「焼き方うまいね〜」と感心すると、先代女将のサダさんは、「最近、やっと上手になりましたよ」と辛口コメントで、石田さんはタジタジだ(笑)。
先代から続く名物うなぎに舌つづみ!
おまかせ串盛り
さて、話の続きを伺おう。独立するための店を探していた石田さんは、知人から、店主が引退を考えている店があると、「鳥長」を紹介された。店を見に行ってみると、「即効でこの店に惚れました!」と石田さん。「この感じ、この雰囲気がたまらなかった」。奥さんにも相談せず、どんどん話を進め、「鳥長」の二代目となった。「お客さんも、気持ちよく受け入れてくれて、ありがたかったです。中には、味が違うって言う人もいらっしゃったけどね」と話す石田さん。代が替わっても常連は変わらず店を訪れてくれているそうで、先代ご主人は、「私も石田くんも、お客さんに育てられてるの。跡を継いでくれて本当によかったよ。立派なもんだ」と穏やかな笑顔で見守る。
お次は、「とり皮煮込み」。首とモモの皮をタマネギなどと一緒に合わせ味噌で4時間煮込む。先代考案のメニューだが、時代に合わせて味付けをマイルドに変えたのだとか。サダさんに味見をしてもらうと、「ちょっと甘いかな」と、またまた手厳しく、石田さんは笑うしかない!?
店で一番長く働いているのは、サダさんの妹・西尾てるさん(64歳)で、先代の頃から40年以上の大ベテラン。明るく愛らしい笑顔に、「てるちゃん、若い!」と思わず叫ぶきたろうさん。「代替わりのタイミングで辞めようと思わなかった?」と聞くと、「急にみんな変わっちゃったら、お客さんが寂しくなるかなと思って」と優しさが滲み出る。「これは、てるちゃんファン、絶対多いよね! てるちゃんが店を支えてるんだな〜」と、目じりが下がるきたろうさんだった。
次は、二代目考案の「じゃがいもチーズ焼」を。ホワイトソースとチーズでグラタン風に仕立てた、アツアツ、トロトロの一品は、ご主人が「女の子受けを狙った」というメニューで、大人気!
「新しく店をやるのは、簡単なことじゃないのに、先代から気持ちよく継がせてもらって、お客さんにもかわいがってもらった。店を続ける秘訣は、欲をかかないことだと思ってます。とにかく、お客さんの笑い声が大好きだし、大切にしたい」というご主人。ひょうきんで明るい笑顔の奥に、感謝を忘れない誠実さが垣間見える。
〆には、「うなぎの3種焼き」を。タンザク焼、かぶと焼に肝串。うなぎの頭を使ったかぶと焼は、「すっごくやわらかく仕上がってる! それでいて表面はパリっとしてすごくおいしい」と西島さん。「うなぎが食べられると思わなかったな。いろいろ食べられて楽しいよね」ときたろうさんも大満足だ。
ご主人にとって酒場とは、「幸せを分かち合える所。みんなが同じ目線になって、飲んだり、食べたり、しゃべったりできるところ」。これにはサダさんも「いいと思いますね」。ようやくお墨付きをもらえて、めでたしめでたし(笑)