杉並区方南町で創業21年
両親が作った店の暖簾を守り続ける
兄弟の物語
驚くボリュームの刺身盛り合わせに舌つづみ!
今宵の舞台は、きたろうさんも、お馴染みの杉並区方南町。平成11年創業の「歓喜」は、ご主人の片岡秀雄さん(45歳)と弟の達雄さん(43歳)が、兄弟で営む人気酒場だ。きたろうさんと西島さんは、鉄板のすぐ前に陣取り、さっそく焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。最初のおすすめは、なんといっても豪華な「刺身盛り合わせ」。厨房を担当する達雄さんが毎日豊洲で仕入れてくる新鮮な刺身が9種類も並ぶ、驚きの一皿。マグロや白子、赤海老など、どれを食べても、「おいしい〜!」と感動するばかり。
創業21年になる店は、「もともと両親が開業したんですが、素人なのに、勢いで始めて。無謀な話ですよ」と秀雄さん。高校卒業後、和食料理店で修業をしていた秀雄さんが24歳になり、転職を考えていた矢先のことだったという。店を手伝い始めたものの、常に火の車。当時は父・常雄さんとぶつかる事も多かったという。「店の借金やローンもあるのに、ギャンブル好きな父親が許せなくて。僕が父を追い出したようなもの」。開業して数か月ほどで、秀雄さんは母親とふたりで店を営むことになった。
そんな話を隣の席で笑いながら聞いていた常連さんに、きたろうさんが、冗談で「兄弟!?」と話しかけると、なんと、彼は本当に秀雄さんの弟! 三男の光雄さん(41歳)だ。光雄さんの同級生で常連客の丸山智弘さんも加わって、話が盛り上がる。「よく親子で喧嘩してましたよ。僕が仲裁に入って。『ちょっとやりすぎだよ』って秀雄さんを止めてましたね」と丸山さん。一方、次男の達雄さんと三男の光雄さんは、父親とも仲がよかったとか。「長男だけが犬猿の仲だったんだね。弟たちは甘えてんだよね。長男が受けて立ってたんだよ」と、きたろうさんも長男を察する。
次は、目の前の鉄板でご主人が焼いてくれる、こんがりトロ〜リの「チーズ焼き」。チーズが焼けるいい香りが漂って、待ちきれない様子の西島さんは、「カリカリのところもおいしい〜」と大興奮。お好みではちみつをかけて食べると、「これはキケン! 全部食べちゃう」と、もうとまらない。
兄弟の信頼と開き直りが、店を救う!
富士宮焼きそば
「歓喜」という店名は、母親の郁子さんがつけたそうで、当時は、串焼きや手打ちそばも出していたとか。「勢いでいろいろやってみたけど、全然ダメで(笑)。母と二人で店をやるのは、すごく嫌で、ずっと辞めたいと思ってました」と秀雄さん。しかし、そんな中、郁子さんが病に倒れ、12年前に他界。秀雄さんは、母の死をきっかけに、店を続けることを決意したという。7年後には父が亡くなり、お客さんも少ないまま、秀雄さん一人で、なんとか店を営業していかなくてはならなかった。
さて、ここで、そば打ちをしていた頃の名残だという「そばサラダ」が登場! 冷水でしめたそばに野菜を盛り付け、自家製ドレッシングをかけた、彩り豊かなサラダ。「これは女の子が喜ぶでしょ」ときたろうさん。西島さんも、そばとドレッシングの意外な組み合わせに感心しきりだ。
他店に勤めていた達雄さんが店を手伝うようになったのは、経営が瀬戸際の状態だった頃。「うまくいかなかったら、店を閉めよう」と決意してのことだったという。「もう、開き直ってましたね。刺身盛りをあのボリュームにしたのも、開き直りですよ!」と言う達雄さんに、きたろうさんと西島さんも、「確かに」と大爆笑! 達雄さんが店に入ってからメニューも増え、今では80種にものぼる。秀雄さんも、「こんなに安い値段でおいしいものを提供すれば、お客さん来てくれるだろうって。そしたら、実際、来てくれましたね」と満足げな笑顔だ。
次は「煮込み」を。添えられた柚子胡椒を溶かして食べると、「あ〜、旨い。ミルキーな感じがする」と喉を鳴らすきたろうさん。「かつお出汁? ラーメンのスープみたいで、すごくおいしい」と西島さんも絶賛すると、「人気店の味を独学で研究して完成させました」と、自信を見せる達雄さん。「煮込み」の人気が店を救ったのだ。
兄弟ふたりで店をやるのは、「けんかもするけど、やっぱり、やりやすい」と秀雄さん。きたろうさんは、「尊敬しあってる感じがするよね。弟の料理の腕とか、長男の頑張りとか。『兄弟船』だからね」と、父親の形見の船で海に挑む兄弟を歌った、鳥羽一郎さんの代表曲を引き合いに出すも、キョトンとする世代に、少々ガックリ!?
そして、最後の〆は、「富士宮焼きそば」。「富士宮焼きそば学会」の認定証を取得し、学会指定の麺を使用しなければいけないというB級グルメの代表格。目の前で焼いてもらって、「これはたまらんですね〜」とモリモリ。箸が止まらないふたりだった。
兄弟にとって酒場とは何かを聞くと、弟の達雄さんは「いろんなお客さんとの出会い」、兄の秀雄さんは「潤滑油」と言う。“あうんの呼吸”で暖簾を守り続ける、いい店に、今宵も大満足。