三代に渡り受け継がれる
創業60年を迎えた老舗酒場
お客さんに愛される誠実な親子の人柄
まぐろの脳天は衝撃的な旨さ!
中央区馬喰町(ばくろちょう)にやってきた、きたろうさんと西島さん。江戸時代、馬にかかわる家業の人が多かったことが、地名の由来だという。そんな馬喰町にある「季節料理 小伝馬」が今宵の酒場。「小伝馬」は、隣町の名前だが、「以前は、店が小伝馬町にあったから」と聞いて、納得する。二代目ご主人の福間義行さん(62歳)と三代目を継ぐ長男の大地さん(35歳)が、厨房で腕を振るい、二代目女将の典子さん(62歳)が笑顔で店を仕切っている。ふたりは、さっそく、焼酎ハイボールで、常連さんたちと「今宵に乾杯!」。
「大将、二枚目だね」ときたろうさん。西島さんも「ダンディ! タイプです(笑)」と言いながら、まずは最初のおすすめ「本まぐろ刺三種盛り」をいただく。赤身と中トロ、脳天の三種類。希少部位の脳天に、「旨っ! これ、まぐろ!? 食べたことないよ」ときたろうさん。トロと食べ比べても、「脳天の衝撃度がすごい。脳天の勝ち!(笑)」。西島さんは、あまりのおいしさに言葉が出ない。「脂の甘みはトロが勝つけど、肉自体の旨味と柔らかさでは脳天ですね」と、もう頬が落ちそうだ。
馬喰町に移転して4年目。義行さんは、小伝馬町にあった店の常連客だったそうで、その時ホールを手伝っていたのが典子さんだった。典子さんの両親が、小伝馬町で酒場を開業したのは、昭和35年。娘の典子さんは、子供の頃から店を手伝い、迷うことなく継ぐことを決めていたという。「僕は先代女将と仲良かったんですよね。昭和54年に親父さんが亡くなって、養子に来てほしいって言われて」と話す義行さんに、「なんだ、お義母さんに口説かれちゃったんだ!」ときたろうさん。サラリーマンだった義行さんは、22歳の時、典子さんと結婚し、養子に入った。「私は、一緒になれれば、どちらでもよかったんだけど」と言う、典子さんのおのろけに、思わず照れる、きたろうさんたち。
ここで、次のおすすめ、「はまぐりの酒蒸し」が登場。国産の特大はまぐりに、「すっごい、大きい!」と目を丸くする西島さん。夢中ですすって、「おいしいぃぃ〜」と、もう、きたろうさんの言葉も耳に入らない。
養子になることには、やはり迷いがあったと義行さん。「最初はプレッシャーがすごかったですね。修業もせず店を継ぐことになって、従業員からの風当たりも強かった」と振り返る。22歳で店に入り、二代目としての重圧と戦いながら、ひとつひとつ仕事を覚えていったという。39歳の時、先代女将から暖簾を引き継ぎ、その6年後、女将は帰らぬ人となった。
酒場とは、お客さんが荷物を下ろす場所
本まぐろ三点盛
続いては、三代目の大地さんが考案した「紅生姜の天ぷら」。西島さんは、パクパク頬張りながら、「これは、合う〜!」とチューハイをグビグビ。「チューハイのためにあるようなもんだね」ときたろうさんも絶賛だ。以前は惣菜屋の店長だったという大地さんは、10年ほど前に、店を継ぐことを決めた。「小さい頃から馴染んでいた店なので、自分が継がないで無くなるのは辛いから」と大地さん。「両親はどんな感じ?」ときたろうさんが聞くと、「毎日、喧嘩してますけど、仲いいですね」と笑う。穏やかそうな二代目だが、江戸っ子気質で頑固なのだとか。「じゃあ、お母さんは耐えてるんだ?」と言うきたろうさんに、「いやいやいや、言い返してます!」と親子そろって全否定(笑)。なかなか“やり手”な雰囲気の大地さんを見て、「この息子がいれば安心だねぇ」ときたろうさんも太鼓判を押す。
次は「くじらの竜田揚げ」を。刺身で出していた新鮮なミンククジラを竜田揚げにしたところ、爆発的に売れたという、店の定番メニューだ。「クジラのおいしさが凝縮してるね」と、きたろうさんも大絶賛。
店を続けていく秘訣は、「まじめに、気を抜かないこと」と義行さん。「俺は絶対できない……」と苦笑いのきたろうさん。大地さんは、「頑張ります!」と力強い。店を継ぐことは、「後悔は1ミリもない。美味しく食べて、飲んでもらって、それが明日の励みになれば、うれしいですね」。「ほんと、いい仕事だよね」ときたろうさんも感慨深い。
最後の〆は、まぐろのホホ肉と下仁田ネギの「ねぎま鍋」。煮込んでもプリプリの食感を残したまぐろのおいしさは驚き。「まぐろの脂とネギが最高にあう!」、「出汁が旨いよ〜」と、感激止まらず。
最後に、恒例の「酒場とは何か?」を伺うと、典子さんは、「荷物を下ろす所。お客さんが背負ってきた荷物を預かって、気分よく家に帰ってもらいたい。母がいつもそう言ってました」と言う。「いいね、宿場町みたい」ときたろうさん。義行さんは、「いやなことを忘れて楽しんで帰ってもらう場所」。大地さんは、「明日また元気になれるための場所」と、家族3人の思いは繋がるのだった。