サラリーマンから32歳で酒場の世界へ!
釧路市出身の店主が腕をふるう
絶品北海道料理を渋谷の隠れ家で
「ごだっぺの一夜干し」に舌つづみ!
渋谷の街にやってきた、きたろうさんと西島さん。昨年オープンした渋谷スクランブルスクエアの超高層ビルを見上げて、再開発による街の進化を実感する。そんな渋谷で、今宵訪ねるのは、創業10年目を迎えた「九四六屋(くしろや)」。地下一階の店へ続く狭い階段を下りると、街の喧騒から離れた隠れ家のような空間が。階段の両脇には、お客さんの写真がズラリと飾られ、「愛されてる感じだね」ときたろうさん。ご主人の鵜沼(うぬま)憲宏さん(45歳)が、落ち着いた笑顔で迎えてくれた。かつて釧路駅の駅舎に表記されていた946(クシロ)が店名の由来だそうで、札幌出身の西島さんも、「釧路は、なんでもおいしいから!」とワクワク。さっそくふたりは、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」
最初のおすすめは、北海道最強の組み合わせ、「塩辛ジャガバター」。ホイル包みの中には、一口大のじゃがいもがコロコロ。塩辛をのせて、丸ごと口に入れたきたろうさん、予想以上の熱さにむせながら、「合うねぇ」と唸る。西島さんも、「なんて幸せな食べ物〜。この組み合わせ、天才的!」と感激する。
「渋谷で10年間も、よくもったね」と言うきたろうさんに、「最初は“北海道の店”のつもりじゃなかったんです。でもこの店名で、北海道のファンや出身の方がたくさん来てくれて。慌てて北海道の料理を増やしました」とご主人。
次の料理は「ごたっぺ」。ゴタッペとは北海道近海で獲れる出世魚で、ゴタッペ→コマイ→オオマイと名前が変わるのだそう。ゴタッペは未経験だが、コマイは大好きという西島さん。こんがり焼けた一夜干しのゴタッペに、「脂がおいしい〜! 甘めの味付けも、めちゃくちゃおいしい」と感動が止まらない。きたろうさんも「食感もいいね。食べたことない味だよ」と舌つづみを打つ。
北海道釧路市で生まれたご主人は、8歳からアイスホッケーを始め、中学3年の時には日本一に輝いた。その後、東京の大学を卒業し、都内の学習塾に就職するが、32歳で転機が訪れる。「当時、叔父が軽井沢で店をやっていて、継がないかと誘われたんです」と、料理の修業を始めた。叔父の店で3年間働いた後、店が釧路に移転することになり、ご主人は東京へ。「最初は、この場所にあった和食店で働こうと、面接に来たんですよ。そしたら、経営が行き詰っていることが分かって、試しに自分に任せてみてくれないかと頼んだんです」と言う。「場所も地下で条件悪いのに、よく勇気あったね」と驚くきたろうさんに、「当時は怖いもの知らずでしたね。流行っていない場所で成功したら、どこへ行っても大丈夫だろうと思って」と、開拓精神が垣間見える。
「のぞき穴」と「思い出ノート」!?
Aパターン
店を立て直すために、ご主人がまず最初に考えたのが、故郷・北海道の料理にこだわる事。そして、さらに、お客さんを楽しませる仕掛けも考案。店の天井付近に穴をあけ、お客さんが外から店内を覗けるように工夫した。「おかげで、“のぞき穴の店”なんて呼ばれる(笑)」とか。「毎回来てもらえることが当たり前じゃないですから」と、裏メニューも多数用意し、お客さんが何度も通いたくなる店を目指したという。
ここで、店の看板メニュー「かぶりつき若鶏」が登場! 鶏の半身を揚げたボリューム満点の一品が、なんと680円(税別)。驚きの安さだ。豪快にかぶりつくと、しょうがの利いたジューシーな旨味が口一杯に広がり、ご主人おすすめの「自家製ソース胡椒」をつけていただけば、ピリっと違った味も楽しめる。
お客さんを楽しませる工夫は、さらにもうひとつ。北海道から上京したお客さんをつなぐ「思い出ノート」だ。札幌と釧路の2冊を用意し、出身地や出身校などを書いて、故郷への想いを分かち合う。これには、札幌出身西島さんも書く気まんまん!?
続いては、「生ラムジンギスカン」を。生ラムは、肉質が柔らかくて臭みが少なく、「ラム独特の旨味と甘い脂がたまらない〜。 私にとっては懐かしい味」と、西島さんも太鼓判を押す。
店をやっていて楽しいのは、「人との出会いや縁。昔の知り合いが来てくれたり、思いがけないつながりがあったり」というご主人。実は、8年前に結婚した妻・恭子さんとの出会いも、お客さんがつなげてくれた縁だとか。「辛いことがあっても、楽しみの方が勝ってますね」。
最後の〆は、「豚丼とハヤシライスのあいがけ」。これからランチ営業も始める予定だそうで、新メニューを試食する。帯広名物の豚丼と、もともと裏メニューだったハヤシライスを半分ずつ盛り付けた、欲張りな一皿だ。「どっちから食べようか」と迷いながら、両方とも一気にすくって、パクリと食べたきたろうさん。「抜群においしい!」と大絶賛。
酒場は「人と人がつながる場所」というご主人。北海道出身という縁でつながった西島さんも、“札幌ノート”に想いを綴った。さて、その想いとは……。ご来店の際、ぜひ読んでみてください!