団地の一角でラーメン店を開業した男が
理想と現実の葛藤を乗り越えて作り上げた
「養生料理」がコンセプトの人気酒場
こだわりの絶品創作料理に舌つづみ!
緊急事態宣言が解除され、約3か月ぶりに酒場を訪問する今回。新型コロナ対策のため、ソーシャルディスタンスを確保し、カウンターにはアクリル板を設置。西島さんが店にうかがい、きたろうさんはリモート出演で、料理をデリバリーして自宅で酒場気分を味わうことになった。江東区・亀戸二丁目団地の一角に佇む「高の」が、今宵の酒場。料理一筋30年のご主人・高野定義さん(50歳)と女将の一美さん(45歳)が店を切り盛りしている。さっそく、焼酎ハイボールを手に、きたろうさんの音頭で「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「青魚のぬか〆刺」。祖母の代から100年以上受け継ぐぬか床で一晩漬けるというアジの刺身は、「青魚にぬかの旨みが合う!」と感動する西島さん。玄米のシャリで握った寿司も、「昆布〆とは違う爽やかさ。ぬかの香りが効いて、おいしい〜」と絶賛だ。
お次は、“からあげグランプリ”で金賞を二度受賞した「丸々素揚げ」。串に刺し、香ばしく揚げた鶏モモ肉は、ボリュームたっぷりでアツアツの肉汁がじゅわり。きたろうさんは、「そっちは揚げたてでいいなぁ〜。こっちはレンジでチンだからね」と恨み節(笑)ながら、一口かぶりついて、「これは止まらない! しつこくないから飽きないね」と大満足だ。特製スープに一晩漬けてから素揚げすることで、「スパイスや衣に頼らない大人の唐揚げになる」と、ご主人も胸を張る。
18歳から14年間、寿司店で修業を積んだご主人は、32歳で独立するも、開業した和食店はわずか3年で閉店。自分を見つめ直すため、ラーメン店で料理の修業を一からやり直すことを決意する。「新規ラーメン店の店長に誘われたんです。でも寿司屋への未練が断ち切れず、何度も断っていたところ、親友の一言に心が動いた」と言う。「絶対行け! お前にないものが、そこにある」と……。そして、5年の修業の後、8年前にこの店を開業した。「団地という立地から、当初はラーメンをメインにしたが、和食への思いは捨てきれなかった」とご主人。ある時、年配のお客さんに、「君の料理は養生料理だね」と言われ、「頭の中でバラバラだった想いが、一直線につながった」という。ビタミンBが豊富な糠や、血糖値の上昇を抑える玄米など、食材や調理法を工夫し、健康を気遣った養生料理にたどり着いたのだ。
ジビエを“漬け”にした珍味「山鯨の刺身」
続いて、「ジビエのステーキ」(鹿、猪、鴨)が登場! 鉄板の上でジュージュー音をたてるジビエに、テンション上がる西島さん。夢中で頬張って、鹿肉の柔らかさに驚き、猪の深い味わいに感激、鴨肉のプリプリ食感も堪能して、もう大満足! 「仕入れが大変では?」と聞くと、なんと、マタギになった常連客がいるのだとか。「ジビエ料理も、自分で調理法を模索しながらメニューを開発している」そうで、「できた、これだ!って瞬間はどんな気持ち?」ときたろうさんに聞かれて、「もう、たまんない!」と思わず笑みがもれる。そんなご主人を見守る女将の一美さん(45歳)は、もともと店の常連客。出会って2年で結婚した。「お店は子供みたいなもの。ふたりで楽しんでま〜す」という明るく笑う女将に、「またまた仲良さそうで、お腹いっぱいだなぁ」ときたろうさんもニヤニヤ。
さて、次は「山鯨の刺身」。山鯨は猪肉のことで、“漬け”にした猪肉を低温調理し、わさびで食す。ご主人のオリジナル料理に、「ジビエの漬けなんて初めて」と驚く西島さんだが、一口食べて「何、このしっとりした舌ざわり! ノックダウンだわ!」と思わず叫ぶ旨さだ。
〆には、店の看板メニュー「護摩蕎麦」を。つけだれの具材は、鴨、猪、鹿、鯨赤身、鯨本皮から選べ、西島さんは猪に。きたろうさんには鯨赤身が届けられている。よく噛んで食べてほしいと、幅広に切った蕎麦を3分茹でて冷水でしめ、自家製つけだれでいただく。鉄鍋にグツグツ煮立つ黒胡麻ベースのつけだれは旬の食材たっぷりで、「胡麻と蕎麦が合う!」ときたろうさん。西島さんも、「優しい味わい。具材を炭火で炙ってあるから、すごく香ばしい」と箸が止まらない。
残ったつけだれは、玄米、とろろ、とき卵を入れて、薬膳粥にも。「ウマいなぁ〜。出汁がきいてるね」と喉を鳴らすきたろうさん。7年間継ぎ足してきた蕎麦湯で大豆を炊き、栄養分を煮出しているそうで、「こだわりや想いを聞くと、料理がいっそう旨く感じるよね」と感心しきりなのだった。
「昔は、悔しくて、泣いたりもしましたが、今は、そんな苦労もすべて必要だったと思えます。辛い想いをしながらも続けてこられたのは、全部ゼロから自分で作ってきた自負があるから。僕の料理の良さをもっと知ってもらいたい(笑)」と、晴れやかなご主人。「酒場は、“大人の駄菓子屋”。ここに一軒しかない、という店を守り続けたい」と、心に響く言葉で締めくくってくれた。