創業何十年という酒場を紹介することが多い「夕焼け酒場」だが、今回訪れたのはオープン1年目の酒場「魚人」。西新井大師から歩いて十数分、「酒と魚がうまい店」の看板に、偽りなしの一軒だ。木の床、1枚板のカウンター、モダンささえ感じる店内は、酒場というには少々過ぎるほどに明るい。店を切り盛りするご主人の中野智徳さんは言う「明るい店を作りたくて。というのも、暗いと魚の色だったり鮮度だったり、色々ごまかせちゃうじゃないですか。全部見せたかったんで、なるべく明るくしました」。ごまかしがきかない店を作る、そんな心意気を持った主人の出す魚料理が、美味くないわけがない!
焼酎ハイボールで乾杯のあと、「やっぱり刺身を食べないとね。どの辺から仕入れてるんですか?」と訊く、きたろうさん。「長崎の五島列島と北海道の函館からですね。産地直送でやりたくて、いろいろ付き合いをさせていただいて、値段と品物が一番合致するところが、たまたま北と南の両極端だったんです」。魚は毎日、朝には函館から、夕方には五島から直送されるのだという。この日の刺身「魚人全部盛り」は6種盛り。黄門はたを食べた西島さんは「味が濃いですね、昆布締めにしてるわけじゃないんですよね。うまみが凄い!」と、新鮮な黄門はたの味に驚きを隠せない。しかも「歯ごたえも凄いですね。こんなに分厚く出していいんですか」と感激しきり。きたろうさんはマグロの味がするというスマガツオを食べて、「本当だ、カツオの濃厚さはあるんだけど、嫌みがないよ。おいしいマグロみたいな感じだね」と、最初の一品からこの店の魚のうまさに引き込まれたようだ。
ご主人は高校時代のアルバイトが楽しくて、料理人になろうと決意し、赤坂の料亭へ修業に入る。「安易に飛び込んだんですけど、すごく厳しい世界が待ってまして。初任給は9万8千円。24時間で終わらないくらいの仕事量が待ってる毎日で、日々、人間になりたいと思いながらやってました」。しかし今となっては、あの時があるからこそ今があると、ご主人は言う。その後、まだ26歳の修行中に結婚し、独立を考えた時には11歳と10歳の子供がいた。当然、周囲からは思いとどまるよう反対されたが、魚の目利きと料理に自信のあったご主人は、39歳にして「魚人」を開店。眼鏡をかけたスマートな印象から、苦節20数年の苦労を感じさせないご主人だが、ここまでの道のりは平坦ではなかった。そんなご主人に、きたろうさんは「なんかインテリっぽいよね、大将はもっと馬鹿っぽくないと」と、アドバイスして店じゅうを笑いに包む。
次のおすすめを訊くと「のどぐろの煮付けを」と、ご主人。これには、西島さんもきたろうさんも「待ってました!」「おすすめと言われちゃあ、食わないわけにはいかないよな」と、笑顔満面。注文を受けてから造り始める煮付けは、カツオ節で出汁を取り、みりん、砂糖、醤油で味付け。箸で持ち上げた身は白く、上品な甘みを備えている。きたろうさんは「これは幸せだなぁ。みんながのどぐろ、のどぐろと騒ぐわけが分かるよ」と絶賛。素材の美味しさをここまで引き出す、ご主人の腕は相当のものだ。
最後の一品は北海道のイカを使った、いしりみぞれ鍋をいただくことに。「イカが丸ごと一杯、肝まで入ってまして」という説明を聞いて、北海道出身でイカの肝が大好物の西島さんは大興奮。大根を荒くおろした鬼おろしと絡んだ出汁、そして濃厚なイカの風味がたまらない。「食べてみると、鬼おろしを入れる意味が分かりました。凄くさっぱりするんですね。これは染みます」と西島さんが言えば、「これは見た瞬間、うまいなって思ったね。やっぱり目なんだよ、うまい料理は目で分かる」と、きたろうさんが褒める。
西島さんがご主人に、これからの夢を訊くと「逆輸入じゃないんですけど、都心にこのお店を持っていきたいんですよね。神楽坂とか、あんな街に出せたらいいですね」と言う。きたろうさんは「料理にね、大将の“こういうのが好きだ”というのが前面に出てるから大丈夫だよ」と言うと「今はかなり楽しんでやってますから、充実してますね」と、ご主人。「じゃあ今こそ、客はこの店に来なきゃダメだな」というきたろうさんの言葉には、店への声援と、この日食べた絶品料理への最大の賛辞が込められていた。
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この日の刺身「魚人全部盛り」(2人前・1,740円・税込)は、五島列島から黄門はた、カンパチ、スマガツオ、マグロ、イサキ。函館からの根ほっけという盛り合わせ。
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のどぐろの煮付け(3,500円・税込)。のどぐろはホタルジャコ科の一種でアカムツの別名。のどの奥が黒いことからこの名で呼ばれ、市場では「超」がつく高級魚。白身のトロとも称され、脂がのっていて刺身、煮付け、干物などで食べると最高!!
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いしりとはイカの内蔵を原料に、自然発酵で熟成させた魚醤。イカを使ったこの鍋の味付けとしては、これほど相性の良いものはない。いしりみぞれ鍋(1,480円・税込)。
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都足立区西新井本町4−5−14
03-6807-1543
11:30〜15:00、17:00〜23:00
水曜(土日祝は夜のみ)
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