大田区萩中で創業40年目
家族で切り盛りする人情酒場
父から受け継いだ暖簾を守る兄弟の物語
焼き台は譲らない! 初代大将が焼く絶品焼鳥
今回の舞台は大田区萩中。羽田空港にも近い京浜急行・糀谷(こうじや)駅から、きたろうさんと西島さんが向かったのは、糀谷商店街。焼鳥の香りに引き寄せられるように、今宵の酒場「竹光」に到着すると、初代主人の五十嵐光男さん(77歳)が店先で焼鳥を焼いていた。店を切り盛りしているのは息子である二代目主人・禎央(さだひさ)さん(45歳)と昭吾さん(42歳)の兄弟だ。さっそく焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」したふたり。店内には、弟・昭吾さん手書きの、プロ顔負けのイラストメニューが掲げられ、「美味しいものが食べられそう!」と期待が高まる。
最初のおすすめは、「葱とろまぐろの塩ユッケ」。鮪の中落ちの上に卵の黄身をのせた一皿は、韓国料理のユッケ(肉の刺身)にそっくり。混ぜ合わせて海苔で巻き、パクリといけば、「しっかりした味付けで、おいしい!」と西島さん。きたろうさんも「すごい発想。旨いよ」と舌つづみを打つ。
続いて二皿目は、「アボチョ」。アボカドとキュウリをチョレギサラダ風に味付けしたおしゃれな一品に、「おつまみにぴったり〜」と、今日もチューハイがすすみそうな西島さんである。
店は今年で創業40年目。昭和56年に父の光男さんと母のセイ子さんが、川崎市で焼鳥居酒屋「竹光」を開業し、22年前に糀谷商店街に移転して家族で切り盛りしてきた。4月までは母のセイ子さんも店に出ていたそうだが、新型コロナ流行のため引退。弟の昭吾さんは、「小学生の頃からずっと両親に憧れていて、この仕事が夢でした」と言う。一方、兄の禎央さんには別の夢があったそうで、「大学で体育教師を目指してたんですよね。でも、在学中に親父が倒れて。急遽、店を手伝うことになった」。
しかし、酒場の仕事は想像を超える重労働。「最初はあまりに大変で、後悔しました。毎日毎日、1000本もの焼鳥の仕込みで……」と話す禎央さんに、「それ分かる。僕も焼鳥屋のバイト、2日で辞めた(笑)」と、意外な過去を明かすきたろうさん。現在も開店7時間前から仕込みを続けているが、「自分が仕込んだ焼き鳥でお客さんが『おいしい!』と言ってくれたことで、辛さを乗り越えた」と、今では全く後悔はない。
ここでお待ちかねの「焼鳥」(手羽先・豚なんこつ)を! 父の光男さんは、仕事を始めて62年。「若い人には任せらんねぇ」と、今でも焼き台は譲らない。自慢のタレは、継ぎ足し続けた40年モノで、「手羽先は皮パリパリで、甘めのタレが最高に合う!」と絶賛の西島さん。「豚なんこつも、これ一口でチューハイ2杯イケそう(笑)」と止まらない。
〆の「スパムチャーハン」に舌つづみ!
息子たちが店を継いだことには、「やっぱりうれしいね。一代で終わらせたくなかったからね」と素直に喜ぶ光男さん。22年前、店を移転オープンした当時は、「景気もよくて、とにかく大繁盛。すごかったよ」と振り返る。禎央さんも、「もう毎日満席。睡眠時間なんて2〜3時間あればいいほう。それが何か月も続いて、あまりの忙しさに、弟は入院しました。あの大変さを思えば、多少のことは楽勝ですね」。
ここで、一番人気の「もつ煮込み」が登場! 希少部位の「テッポー」(豚の直腸)を使い、下処理で余分な脂を落としてサラリと食べやすく仕上げる。息子たちが受け継いだ、父の代から変わらぬ味は、「親父も区別つかないはず」と、禎央さんも自信あり。
店をやる上で、禎央さんが大切にしているのは、「自分がおいしいと思う料理を常に考えて、お客さんに提供すること」。昭吾さんは、「両親が築いてくれた基盤をさらにレベルアップして、店を拡大したり、店舗を増やしたりできれば」と夢を明かし、「その時は、兄弟ひとりずつで!」と付け加えて、禎央さんはちょっと寂しそう!?
そして、最後の〆は「スパムチャーハン」! スパムと、卵、ご飯をラードで炒めたチャーハンに、「もう香りがたまらない」と大喜びのきたろうさん。「シンプルだけど、おいしい〜。最高!」とお米好きの西島さんも大興奮。禎央さんは、「賄いで、僕と弟のどっちがおいしいチャーハンを作れるか競争して、勝ち残ったのがこれだった」と、メニュー誕生の裏を教えてくれた。
親子で働き始めて22年。今、光男さんが二人の息子に伝えたいことを聞くと、「価格はあまり上げないで、なおかつタレの味を変えないで、やっていってほしいね」。息子たちの頑張りを認めながらも、「まだまだ一人前とは言えない。50%くらい」と、優しい笑顔から厳しい言葉が飛び出した。
最後に、恒例の「酒場とは何か?」を質問。禎央さんは、「いつもとちょっと違う食事をして、ストレスを解放する場所」と答えて、きたろうさんも「そうだよね」と納得。昭吾さんは「日帰り旅行」とセンス抜群の回答で、「うわっ、いいじゃん! これは弟の勝ちだね。ちゃんと考えてるよ(笑)」と言うきたろうさんに、兄はもうタジタジしながらも、その笑顔がみんなを癒すのだった。