品川区立会川で平成元年創業
20年以上苦楽を共にし
老舗酒場を守り続ける師弟の物語
まぐろの希少部位に舌つづみ!
2021年最初の放送は、品川区・立会川(たちあいがわ)から! 幕末頃、土佐藩の屋敷があったことで坂本龍馬と縁があり、京急本線・立会川駅の近くには龍馬像も。きたろうさんと西島さんは歴史を感じながら、今宵の酒場へ。映画のセットのような渋いたたずまいの店は、創業33年目の「やきとん道場 お山の大将」。焼き場に立つのは、ご主人の高橋雄二さん(66歳)だ。さっそく、ふたりは焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおつまみは、「まぐろの3点盛り」。「毎朝、大田市場で一番いいのを選んでくる」とご主人。柔らかくさっぱりした“中落ち”、肉厚で脂ののった“脳天”、噛み応えのある“ほほ”。垂涎ものの希少部位に、「中落ち旨い。まぐろの王様だ」と舌つづみをうつきたろうさん。「脳天は脂がすごい! 濃厚〜」とトロけそうな西島さん。常連さんにも大人気の一皿で、「とにかく安くていいものを食べさせてあげたくて」と胸を張るご主人だ。
大学卒業後、食品メーカーに就職したご主人は、10年間のサラリーマン生活を経て、酒場の世界に転身。もつ焼き店で2年間修業し、35歳の時に店を構えた。次のひと皿は、修業時代に習得したという「もつ煮込み」。なんとお値段150円(税別)! 合わせ味噌を使い、もつの脂が溶けだしたとろみのあるスープに喉を鳴らすふたり。新鮮なもつの味わいを引き立たせるため、具材はもつとネギのみを使用するのだそう。
「結婚は?」と聞くと、「56歳で」とご主人。10年前に趣味のウォーキングで出会った女性と3度目の結婚をしたそうで、「意外と飽きっぽいんだね(笑)」ときたろうさんに言われて、「いやいやいや、そんなことないです……」と慌てるご主人の笑顔もチャーミング。
ちょっと変わった店名の由来は、「お客さんひとりひとりが“お山の大将”になって、気分よくなってほしいから」。「自分が、じゃないんだね」と感心するきたろうさん。店内の壁一面には、ご主人の想いにひかれて足を運ぶ、多くの常連客の写真が。「お客さんが来ない時期もありましたが、そんなときは必ず誰かしらが助けてくれる。困っても、なんとかなるだろうって続けてきたら、33年経ってました」。きたろうさんは、「まさに水商売。流れてるわけだ」と頷く。
熟練の技に唸る! 絶品「もつ焼き」
いい話にすっかりチューハイが進んだふたりに、おかわりを運んでくれたのは、従業員の松本信二さん(40歳)。アルバイトとして18歳で店に入り、以来22年間働く大ベテラン。ご主人が最も信頼を寄せる一番弟子だ。「大将は、真面目でブレない」と言う松本さんに、「尊敬してるんだね。俺も、この人ならついていきたいと思うもん」ときたろうさん。「そうなんです。厳しいところもありますが、やっぱり尊敬の方が大きいですね」と言う松本さんに、うれしそうな笑顔がこぼれるご主人だった。
ここで、次のおすすめ「目玉焼き」が登場! その巨大さに唖然とするふたり。なんと玉子10個分だそうで、しかも1個〜10個まで同じ値段だという。もちろんお味も抜群で、カリっとした表面からトロリ半熟の黄身があふれ出し、添えられた野菜と一緒に食べるともう箸が止まらない。
今年67歳を迎えるご主人は、松本さんの仕事ぶりを「最高です」と太鼓判を押す。「何年かしたら、彼にこの店を全部譲って私は引退します!」と宣言。「親子じゃないのに!?」と聞くと、「かまいません。彼なら大丈夫」と揺るぎなく、松本さんは、「今は覚悟を決めて準備してます」と、しっかりと前を見据えている。
今では仕込みから調理まで、すべてを任される松本さんだが、唯一、ご主人に追い付けないのが、「もつ焼き」の味。続いては、その熟練の技が冴える「もつ焼き」タン(塩)、シロ(タレ)、レバー(タレ)をいただく。またまた、一本100円(税別)という驚きの安さながら、「レバーがプルンプルン!」と感激する西島さん。修業先で学んだタレは創業以来継ぎ足しているそうで、「シロも旨い! 素材がいい」ときたろうさんも大満足だ。お好みで自家製の味噌ダレをつければ辛みのあるパンチの効いた味わいも楽しめる。さらに、亡き母親から受け継いだぬか床で漬ける「お新香」もうれしい一皿で、野菜はもちろん、珍しいゆで玉子のぬか漬けも絶品だ。
店を長く続けるためには、「絶対、嘘をつかないこと。当たり前のことを当たり前にやるだけですね」と真っすぐなご主人。「きたろうさんも一緒でしょ? いつも全力投球でしょ?」と聞かれて、「そりゃ、全力……(笑)」とタジタジに。
最後の〆には、つけ麺スタイルの「鴨ねぎラーメン」を。細ちぢれ麺に、鴨と昆布の合わせ出汁がよく絡み、「甘味があって、コク深い。これはおいしい〜」と感激する!
ご主人にとって、酒場とは、「懐にやさしく、美味しいお酒と美味しいつまみを楽しめる場所。とにかく気軽に来てもらえれば」。きたろうさんは、「この味なら、いくらでも儲けられるのに。お客さんに優しいね。うれしいなぁ」と、新年早々、幸せな気分に浸るのだった。