鮮度にこだわる“釣り魚”の店
我流を貫き人気酒場を作り上げた男と
父の背中を追い続ける息子の物語
金目鯛、のどぐろ、黒むつの「炙り刺し」!
今宵の舞台は、東京都葛飾区亀有。きたろうさんと西島さんは、創業37年目をむかえた人気酒場「かずき 本店」へ。板場で腕を振るうのは、ご主人の由利八郎さん(63歳)と二代目を継いだ息子の一(はじめ)さん(42歳)だ。さっそく焼酎ハイボールを注文して、「今宵に乾杯!」。“釣り魚”が自慢と聞いて、「ものすごく期待してる!」と、前のめりなきたろうさんに、ご主人は「まかせて〜」と茶目っ気たっぷり。
最初のおすすめは、「炙り刺し三点盛り」。この日は、千葉の銚子沖で釣り上げた、金目鯛、のどぐろ、黒むつの豪華三種。「炙った皮も旨い。魚ってこんな甘みがあるんだね」と喉を鳴らすきたろうさん。西島さんも、「旨味が濃い! 出汁を飲んでるみたい」と悶絶する。炙ることで、皮と身の間の旨味成分が凝縮するそうで、ご主人は、「どうだ、参ったか(笑)」。
趣味の海釣りが高じて、自ら釣り上げた旬の魚をメニューに加えるようになったのは、22年前。釣った瞬間に活け締めにすることで新鮮さが保てるうえに、市場を通さず安価で提供できるという。次の料理も釣り魚。「ソイの煮付け」をいただく。ソイは「北海道の鯛」とも呼ばれ、煮付けにすれば、「ほんのりとした甘みが、おいしい〜」と頬が落ちそうな西島さん。「狙いどおり!」と、ご主人が見せてくれたのは、煮こごり。鍋に残った煮汁を保管し、毎回、継ぎ足すことで深みのある味わいになるという。「修業で学んだの?」と聞くと、「私の料理にレシピはありません。すべて我流。でも、お客さんがおいしいと思ってくれれば、それが本流に変わる」とご主人。「いいこと言うねぇ〜」と感心するきたろうさんに、息子の一さんも、「父は、自分をしっかり持っていて、決して曲がらない。そこがすごい」と尊敬の念を口にする。
秋田県湯沢市出身の八郎さんは、18歳で料理人を志し、上京。都内の老舗料理店に就職し、配属された岐阜県の食肉工場で2年間働いた後、ようやく浅草の日本料理店で料理人として修業を開始した。今では考えられない厳しい修業だったが、決して挫けなかった八郎さんは、わずか4年後、25歳で店長に抜擢された。その後、27歳で独立し、葛飾区のお花茶屋に「一樹」を開業。当時は、焼鳥や唐揚げなどを出す居酒屋だったそうで、「バブルの頃だから、高卒野球選手の契約金くらいは儲けたかな。一生懸命頑張れば、ちゃんと支持してもらえる」と胸を張る。そして、45歳で現在の亀有に店を移転し、鮮度にこだわった釣り魚中心の店に舵を切った。
「自家製からすみ」や「くえ鍋」で贅沢三昧!
続いては、名物「本まぐろねぎま焼き」を。西島さんが、「全部、部位が違う? 色が違いますよね」と尋ねると、「すごい! よく分かったね」とご主人。トロ、テール、脳天横の3種だそうで、「なんておいしいの。一口目のトロで、もうノックダウン」と涙目に。「ちゃんと脂の多い部位を選んでるんですね」とコメントすれば、「その通り!」とまたまたご主人がベタ褒めで、きたろうさんは「俺だって分かるよっ」とすねるのだった。
一さんは、20歳の頃、接客担当のアルバイトとして店に入り、八郎さんの影響で海釣りも趣味になったという。父親からは、「正しいことは曲げずに貫き通し、間違ったことは素直に謝る」ことを学んだとか。現在は、料理もこなしながら父を支え、「父は、“けなし”も強いですが、“褒め”も強い」と笑う。八郎さんも「今や、いいパートナー」とうれしそうだが、息子に教えることは、「まだまだ、腐るほどある!」。
さて、ここで、一さんが作る「自家製からすみ」が登場! 輝くようなからすみに、「ものすごく滑らか。塩加減も優しい〜」とトロける西島さん。完成まで1ヵ月以上かかるそうで、「僕の魂が入ってます」と、一さん。八郎さんも「これだけは、一ちゃんに全部任せてる。私が作るより旨い」と太鼓判を押す。
「嘘をつかないこと」が信条のご主人。「商売の原点は“心”です。鮮度の悪いものを出せば、嘘をついたのと同じ。おいしいものをおいしく出すだけ」と断言する。「社長の訓示みたい」と、思わず背筋が伸びる、きたろうさん。ご主人の夢が、「料理人の模範となること」というのも納得だ。
最後の〆は、なんと「くえ鍋」! こちらも、千葉の館山沖で、一さんが釣り上げた全長130センチ32キロの大物を使用。立ちのぼる湯気に「めちゃくちゃいい香り。一生浴びてたい〜」と興奮気味の西島さん、一口食べれば、「もう、弾力がすごいの!」と大感激。きたろうさんも、「贅沢だなぁ」とつぶやきながら、箸が止まらない。
幸せな空気の中、「酒場は、私の人生そのもの」と威勢よく宣言するご主人。すると、一さんも、「私の人生そのもの」と右にならえで、笑いも爆発! 元気になれる美味い店に大満足!!