若い夫婦が営むおしゃれな酒場
34歳の若さで開業したご主人が作る
ジャンルを超えた絶品創作料理!
「おまかせ前菜盛り」は心躍る楽しさ!
今宵の舞台は、東京都目黒区学芸大学。立ち寄った碑文谷(ひもんや)公園を後に、きたろうさんと西島さんが向かったのは、創業3年目の「酒場 浮雲」。モダンな暖簾をくぐり、狭い階段を上がると、白を基調とした明るい空間が広がる。ご主人の有川毅(つよし)さん(36歳)と妻の朋子さん(32歳)夫婦に迎えられ、さっそく焼酎ハイボールで、「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「おまかせ前菜3種盛り」。3種のはずが、出てきたのは、なんと6種! 「うれしい驚きを感じてもらいたくて」と、いつも3種類以上提供しているという。この日は、いくらをのせたポテトサラダや、ネットリした食感がたまらない熟成刺身、宮崎産の日向夏を豆腐とマスカルポーネチーズで白和えにした一品など。西島さんには、〆サバサンド、きたろうさんには、ホタルイカのガーリックトーストも添えられている。「楽しい〜、おいしい〜」と目を輝かせながら一品ずつ味わう西島さん。きたろうさんも、「旨いね。つまみになるね」と大満足だ。
宮崎県で生まれ育った毅さんが料理人を志したのは、小学校の頃。「自分が作った料理を二人の姉が褒めてくれたから」。20歳まで地元の調理師専門学校で学び、卒業後は、先生の紹介でスイス・チューリッヒの日本料理店へ。「スイスは給料も高く、20歳で月収40万円程度。週休2日で、毎年1ヵ月の長期休暇もあった」というが、「日本社会を知らないまま、こんな甘い蜜を吸い続けていたら、手遅れになる」と、1年半で帰国を決意した。帰国後は、東京のイタリア料理店やもつ鍋店で働き、「給料も激減。本当にきつかった」が、自らのために厳しい修業を課したのだった。
さて、次のおすすめは、もつ鍋店で学んだ「国産牛のもつ煮」。魚介出汁を使った醤油ベースのスープは澄んだ味わいで、「実に上品。止まらないね」と喉を鳴らすきたろうさん。西島さんも、「牛もつは臭みがなくて、旨みがすごい!」と舌つづみをうつ。
「日本では、料理のおいしさだけでなく、衛生面の管理や食材を大事にする精神を、一から学びました」とご主人。「何度も心折れかけたけど、応援してくれる家族を思って頑張った」と言う。きたろうさんは、「スイスでやってきた、なんて言ったら、それだけでカチンときちゃう人もいるだろうしね。そういうところから乗り越えてきたんだろうね」と感心しきりだ。
見た目も驚く名物「う巻かない」!
ここで、う巻きならぬ、「う巻かない」が登場! 特大サイズのふわふわ卵焼きに、うなぎの蒲焼がドーンとのったインパクト抜群の一皿に、「驚かせたいだけでしょ!」と笑うきたろうさん。倒れないようにバランスを取りながら、うなぎと卵を一緒に食せば、「アツアツの卵とうなぎ、最高!」と西島さんも絶賛だ。
結婚して6年目。ふたりが出会ったのは、たまたま居合わせた近所の居酒屋だったとか。「明るくて楽しい子だなと思った」とご主人。朋子さんは、「仕事に対してすごく真面目なところがよかった」と、照れながら笑う。そのキュートな笑顔に、きたろうさんは、「かわいい子に出会えてよかったねぇ」と、思わず目尻が下がる。平成26年に結婚し、「開業資金を貯めるために二人で節約して、六畳一間に4年間住んでいたんです」と朋子さんが明かすと、きたろうさんは、「『神田川』だよ! 愛さえあればよかった」とニヤニヤ。「当然、お風呂ないよね?」と聞くと、「お風呂……、ありました」と答えるご主人に、「『神田川』じゃないじゃないか!」と、まさかの逆ギレ(笑)!?
続いての料理は、「宮崎県産有田牛サガリ焼き」。強火で焼き上げ、余熱で火を通す工程を繰り返して作る自慢の一品に、西島さんは「しっかりした味わいで食べ応えがある。めちゃめちゃおいしい〜」と頬が落ちそう。
店のメニューは常時30種類。「宮崎県霧島鶏のもも肉唐揚げ」、「からすみそうめん」、「旬魚のチャーハン」など、おいしそうな料理が揃う。「当たり前のことを当たり前にやることが大事。おいしいものを出すのは、お店としての大前提」とご主人。「その上で、雰囲気づくりも大切。ほっとしながらも、ワクワクしてもらいたい」と語る。さらに、「お客さんに囲まれて楽しそうに働く奥さんを見ているだけで、僕はうれしいんです。ここまでやってこられたのは、奥さんのおかげ」とストレートな感謝の言葉も。それを聞いた朋子さん、大きく、大きく頷くのだった。
最後の〆は、「ラム肉のキーマカレー」。ライスやパンは添えず、おつまみとしていただくカレーは、スパイス香る異国の味。スイス時代にスリランカ人の知り合いが作ってくれたカレーを再現したそうで、ご飯好きな西島さんでも、「これは、めちゃくちゃ飲める!」と大満足だ。
いつかは地元宮崎にも店を出すのが夢だとか。「酒場とは、日常と非日常が混ざり合う場所。提供するのは店ですが、お客さんがいないと成り立たない空間なんです」。微笑ましい夫婦の明るさが心地よい酒場である。