銀座の高級クラブから転身!
夫婦二人三脚で作り上げた
江戸川区船堀の人気大衆酒場
自家製ダレが香る絶品「かつおの刺身」!
きたろうさんと西島さんがやってきたのは、東京都江戸川区船堀(ふなぼり)。江戸時代初期から花火の制作を手掛ける「宗家花火鍵屋」もこの街にあると聞き、「街のイメージが変わったね」と期待が高まるきたろうさん。ふたりが訪れる今宵の酒場は、昭和60年創業の「居酒屋 丸」だ。ねじり鉢巻きが似合うご主人の丸健二さん(72歳)と女将の祥子(よしこ)さん(78歳)夫婦に迎えられ、まずは焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおつまみは、「貝の盛り合わせ」。この日は、ホタテ、サザエ、ホッキの3種類。青森県産ホタテに「甘〜い。味が濃い」と、舌つづみを打つきたろうさん。西島さんは、軽く炙ったホッキを食べて、「香りも立って、食感も最高!」と感激する。
船堀に店を構えて36年。「新宿から船堀に引っ越してきたのがきっかけで、開業しました。それまで、主人は銀座のクラブに勤めてたんです」と女将の祥子さん。ご主人は、都内の中学校を卒業後、知人の紹介で銀座の老舗高級クラブ「club麻衣子」(昭和46年創業)に就職したそうで、きたろうさんは、「ええっ! 一般庶民は絶対行けないとこじゃん!」とビックリ。当時の写真を見せてもらうと、カウンターでシェイカーを振る蝶ネクタイ姿の若きご主人が! 店の厨房で一から料理を学び、一般社会では経験することのできない貴重な体験や人間模様を目の当たりにしたという。「チップもたくさんもらいましたね。一流の方たちは、私たち一般人にもとても優しい。中曽根元首相の秘書官が来店して、これから“内需拡大”が始まるから不動産や建築関係のお客さんが増えるよ、なんて教えてもらったり。長嶋茂雄(現読売ジャイアンツ終身名誉監督)さんも来られてました」と、懐かしそうに振り返る。
さて、次は、「かつおの刺身」をオクラやニンニク、青唐辛子などが入った自家製ダレで。きたろうさんは、「なんておいしいんだ!」と感激し、西島さんも、「タレがいい香り〜。かつおに合う」と目を輝かせる。「料理のアイデアは、自分の晩酌用に残り物をアレンジしながら考える」というご主人に、「相当、飲むのがお好きですね!?(笑)」と西島さん。おススメメニューも、「アボカドチーズ焼き」、「半助どうふ」(ウナギの頭で出汁をとる大阪の郷土料理)、「牛ロース焼き」と、納得の品揃えである。
「みそどうふ」×オリーブオイルに舌つづみ!
36歳で自分の店を構えたご主人。「銀座とはいえ、ネオン街はネオン街。子供も小学校に上がるし、自分の店を持ちたいと思ったんです」と、一大決心をしたという。「不安はありましたが、銀座時代のお客さんも背中を押してくれて。開店当初、店の前は黒塗りの車がいっぱいでしたよ」と笑う。「銀座と下町とでは、人間は違う?」と聞くと、「お金や持ってるものは別にして、心の中は、みんな同じだと思いますね」。
さて、ここで、「豚ばらオクラ巻き」と「つくね」が登場! 大ぶりのつくねは、実山椒をピリっと利かせたシビれる旨さ。思わず、「おいしい〜」と声を上げる西島さん。「オクラと豚ばらも合うね。旨い」ときたろうさんも箸が止まらない。
健二さんと祥子さんの出会は52年前。交際して1年後に結婚し、子宝にも恵まれた。当時、保険会社に勤めていた祥子さんは、職場近くの保育園に子供を預け、育児と仕事に奔走する毎日だったそうで、「子供は毎朝、通勤電車で大泣き。かわいそうでした」と言う女将に、ご主人は、「全然知らなかった」と頭を掻く。結婚から15年後、ご主人が酒場を開業すると、祥子さんは店を手伝いながら、「もし店が立ち行かなくなったら、自分が家族を支えなければ」と、昼間も仕事を続け、65歳までの23年間、二足のわらじを履き続けたのだった。
続いての料理は、「みそどうふ」。味噌に漬け込んだ豆腐を、オリーブオイルと塩胡椒でいただく。予想外の組み合わせに、「おいしい! オリーブオイルが合う」と大興奮の西島さん。「味噌が主張し過ぎず、豆腐の味を引き立ててるね」ときたろうさんも感心しきりだ。
「辛いとか、辞めたいとかは思ったことがない」とサラリと言うご主人に、「それだけ奥さんが頑張ってたんだよ。男は奥さんの苦労に気付いてないの。俺は女房にしょっちゅう言われてんだよ」ときたろうさん。「その言葉、自分自身に言い聞かせてるでしょ!」と西島さんが突っ込むと、きたろうさんはタジタジ……。「気付きませんでしたね」と反省するご主人に、女将は、「ここまで50年やってこられたんですから。出会えてよかったです」と優しく微笑んだ。
最後の〆は、「茶そば」を。香り立つ茶そばに、「さっぱりしますね〜。これからの季節、最高」と、大満足のふたり。ご主人にとって酒場とは、「嫌なことも悪いことも解決してくれる場所。ここでグチを話すだけで、リラックスできるんじゃないかな」。きたろうさんも、「そうだね。話を聞いてくれるだけでいい。ここで解決して、家に帰れたら最高だね」と、気分上々!