江東区門前仲町で生まれ育ち
亡き母の想いをかなえるため
44歳で酒場を開業した男の物語
鮮度にこだわる絶品料理の数々!
東京都江東区門前仲町(もんぜんなかちょう)の深川不動堂にやってきた、きたろうさんと西島さん。「下町情緒があって楽しい街!」とウキウキしながら、今宵の酒場「下総屋(しもふさや)」へ。モダンな店構えに、「若い子かな?」と、店内を覗いたきたろうさん、「おじさんだ!(笑)」。テーブル席と立ち飲みスペースのある店内をご主人の猪瀬孝泰(たかやす)さんが、一人で切り盛りしている。南国をイメージした明るい雰囲気の中、ふたりは、さっそく焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおつまみは、今が旬の「ホタルイカ」。艶やかな富山県産のホタルイカは、「プリプリ感がすごい! ボイルとは思えないフレッシュさ」と感激する西島さん。ご主人は、「酢味噌で出すところが多いけど、私は絶対に出さない」と、素材の味を楽しめるよう、わさび醤油で出すのがこだわりだ。
店は、まもなく創業12年目。「ここは僕の実家なんです」とご主人。祖父の代から約80年にわたり、同じ「下総屋」という屋号で履物店を営んでいたのだそう。しかし、父・政雄さんは、息子の孝泰さんに跡継ぎは強要せず、「これからは履物屋では食べていけない。寿司屋へ行け」と言ったとか。それでもご主人は、薦められた飲食店の道へは進まず、大学卒業後、清掃器具を扱う会社に就職した。そして、29歳の時、転機が訪れる。「母が病気で余命3ヵ月と言われて。1秒でも長く母のそばにいたいと思いました」。母・実(じつ)さん(享年70)は、亡くなる直前に孝泰さんに「手に職をつけて」と言い残し、その願いに応え、ご主人はサラリーマンを辞め、料理の世界に入ったのだった。
30歳で酒場の世界に飛び込んだものの、「それまで包丁を握ったこともない。なかなか雇ってもらえず、拾ってくれたのが、江東区海辺町の割烹居酒屋でした」。そんなご主人が最初に学んだ「焼き鳥」が、次のおすすめ。モモとハツをいただく。一口食べて、「新鮮!」と感激するきたろうさん。それもそのはず、ご主人は、新鮮で質の良い鶏肉が入った時だけ、仕入れ先から届けてもらうという。
「真鯛のかぶと煮」に舌つづみ!
割烹居酒屋で修業を積み、5年後には料理長として店を任されるまでになったご主人。しかし、「実際やってみると、頭で思っているのと、お客様へ出す料理が違ってしまって、だめなんです。自分で自分が納得できなかった」と挫折を味わう。一からやり直すため、別の店で修業を始めたが、「その店は、巨人軍みたいに、エースや4番バッターを引き抜いてくるようなところで、私は2軍どころか育成からのスタート(笑)。でもとても勉強になりました」。さらなる修業に励んだご主人は、平成19年、父・政雄さん(享年91)の他界を機に、独立を決意。平成21年に履物店を改装して酒場を開業したのだった。
「二人の姉には大反対されました。『どうせうまくいかないから、やめなさいよ!』なんて言われて」と茶目っ気たっぷりに真似してみせるご主人。「でも、今では、いろいろと気にかけてくれて、すごく応援してもらってます」と、少年のような笑顔を浮かべる。西島さんは、「可愛がられてるんですね」と、弟キャラのご主人に納得し、「地元の友達もすごく良くしてくれる」と聞いて、さらに深く頷いた。
さて、ここで、「真鯛のかぶと煮」が登場! ザラメを使ったまろやかな風味に、「優しい味。すごく上品!」と、大満足のふたり。続いていただいた「みそきゅうり」も、青森県産の特製にんにく味噌がクセになる旨さ。「派手さがなくていいね。シブい!」と大喜びのきたろうさん。西島さんは、「料理は、全然、南国のカフェバーじゃない! シブい和食〜」とツッコんで、大爆笑。他にもおススメメニューは、「ポテトサラダ」、「いわしのなめろう」、「長芋焼」など、和食中心。店の雰囲気とのギャップも、また楽し!
ご主人は毎朝、何よりも先に両親の仏壇に手を合わせ、「生んでくれて、育ててくれてありがとう。いつも守ってくれてありがとう」と心の中で唱えるという。「自分は、周りに恵まれているから、やってこられたと思います。祖父母や両親がこの場所を残してくれて、お客さんにも恵まれて」と、感謝の気持ちを忘れない。
最後の〆には、「豚ロースの西京焼き」を! 約4日間漬け込んだ豚ロースは、「あっさりした見た目だけど、食べたら味噌の味がしっかり!」と西島さん。「締まった肉質も、噛めば噛むほど味が出て、おつまみにぴったりですね」と、チューハイが進む!
「お母さんが、今のご主人を見たら、どう思うかな?」と聞くきたろうさんに、ご主人は、「空から見て、『まだまだダメだな』って言ってるような気がします」。西島さんは、「それって、最大限の愛情ですよね!」と言葉をかけ、きたろうさんも、「大将は、一つ一つこだわりがあって、自己反省する力も持ってる。ちゃんとここまでやってきて、すごいよ」と言って、「俺、相当、褒めただろ!」とドヤ顔。それを聞いて、少しはにかみながらも、うれしそうな笑顔を見せるご主人であった。