台東区上野で創業64年目
老舗酒場を受け継いだ三代目
母と共に暖簾を守り続ける男の物語
絶品鶏料理の数々に舌つづみ!
2か月ぶりの酒場訪問の舞台は、東京都台東区上野。「鳥鳥鳥の店」という看板を掲げる「鳥清(とりせい)」は、創業64年目を迎えた老舗酒場だ。きたろうさんと西島さんは、三代目ご主人・田中聰(さとし)さん(51歳)と、母・登美子さんに迎えられ、さっそく焼酎ハイボールで、「今宵に乾杯!」。
まずは、「焼き鳥」(ひな皮、もも)を塩でいただく。「ひな皮は、ボイルせず生の鶏皮を手作業で下処理しています。ほどよく脂が残って、食感もいいんです」とご主人。添えられた辛子も相性抜群で、「サラっと食べられて、脂の旨みはしっかり。だから塩が合うんですね!」と感激する西島さん。きたろうさんも、「塩で食べるもも肉も美味いね。鶏そのものが旨い!」と、酒場で食べる焼き鳥はやはり格別なようだ。
昭和33年、ここ上野で「鳥清」を創業したのは、登美子さんの母・静子さん。登美子さんは、昭和44年に23歳で結婚し、夫の博晃さんとともに二代目を継ぎ、店を守ってきた。2年前、博晃さんは79歳で引退し、現在は息子の聰さんと二人で店を切り盛りしている。
次は、秘伝のたれで焼く「焼き鳥」(レバー、つくね)を。「手づくりのつくね、最高〜。レバーも新鮮で、タレが合う!」と舌つづみを打つ西島さん。きたろうさんは、「タレの深みが違う。脂がうまい具合に染みてるんだよ」と絶賛。創業から継ぎ足し続けるたれは、「からみ方が全然違う」とご主人も胸を張る。
大学卒業後、一度は日用品メーカーに就職した聰さんだが、年をとった両親の姿を見て、「店がなくなるのは寂しい」と、36歳で会社を退職。店を継ぐ決意をした。「頑張ってくれましたよ。偉いです」と息子を褒める登美子さん。きたろうさんも「お母さんと一緒に働くって、親孝行だよね」と感心するのだった。
続いては、焼き鳥と並ぶ名物「からあげ」を。父親の背中を見て覚えた変わらない一品は、竜田揚げ風に仕上げる鳥清流。「親父は昔かたぎの職人気質で、あまり教えてくれない。見よう見まねで学びました」と聰さん。ジューシーな肉汁があふれ出す唐揚げに、「めちゃくちゃおいしい。家庭のとは違う」と、ふたりの箸が止まらない!
店を継いだ聰さんは、新メニューにも挑戦したが、お客さんの反応はいまひとつ。「それなら、中途半端にいろいろやるより、焼き鳥をちゃんとやろう」と思い直したという。「焼き鳥は、仕込みにも時間がかかる。うちは、鶏を一羽丸ごと仕入れて、僕が解体します。その方が、鮮度もいいし、質も上がる」と手間を惜しまず、「さび焼き」や「チーズ焼き」、「鳥ぞうすい」など、垂涎の鶏料理が並ぶ。
名物「鶏なべ」はすき焼き風!
2年前まで、14年間、共に働いた父・博晃さんについて、聰さんは、「親父とは、接客の仕方など意見が合わず、ケンカばかりだった」と言う。登美子さんも「何度も止めましたよ。みっともなくて」とあきれるほどで、お客さんの前でも構わず、時には殴り合いになったことも。「常連さんは“鳥清劇場”だって見守ってくれても、知らないお客さんはドン引きですよね」と苦笑する聰さん。そして2年前、博晃さんが、ある日突然、「来月から店に来ない」と宣言し、聰さんが三代目を継ぐ形となった。「今は応援してくれてる?」と聞く西島さんに、「僕は親父とほとんど話さないので……」と聰さん。きたろうさんは、「親父、いい歳して頑固なんだね」と聰さんの肩を持ちつつ、「親父がここにいたら、親父を応援するけどね!(笑)」。
さて、ここで、鶏肉を使わない唯一のメニュー「野菜焼き」(なす、ピーマン)が登場! 紀州備長炭で焼き上げ、塩だけで味付けした野菜は、みずみずしさが際立つ。コロナ禍で自家菜園を始めた聰さんが無農薬で栽培しているが、登美子さんは、「初耳です」とマイペース!?
店を長く続ける秘訣は、「当たり前のことを当たり前にやること。その日の分だけ仕入れて、その日の分だけ仕込む。ズルいことをしない」と、開店8時間前から仕込みを始める毎日だ。「私も串は刺せますが、息子は気に入らないみたい」という登美子さんに、「母は刺し方がゆるい」と笑う聰さん。きたろうさんは、「お母さんにそういうことさせたくないんだよね」と察するのだった。
最後の〆は、創業時から人気の「鶏なべ」を。3種類の鶏肉(もも、レバー、つくね)を割り下で煮込み、溶き卵にくぐらせて、すき焼き風に味わう。ふたりは、「テンション上がる! 〆なのにグイグイいけちゃう!」と大興奮だ。
酒場を継いで、「父親の気持ちも少しは分かるようになった」と聰さん。「店を良くしたいという思いでしたが、ちょっと言い過ぎたかな。以前、常連さんから聞いたんです。僕が店に入って、親父に覇気が出たって。親父は言わないけど、一緒に酒場に立ててうれしかったのかも」
酒場とは、「ホッとして、明日も頑張ろうと思える場所」と穏やかに微笑む登美子さん。聰さんも、「その通り。それが正解」と、お母さんには頭が上がりません!?