世田谷区下北沢で創業49年目
変わりゆく街の風景を見つめながら
暖簾を守り続ける親子の物語
仕入れにこだわる「天然生本鮪」に感激!
東京都世田谷区下北沢にやってきた、きたろうさんと西島さん。小田急線地下化に伴う再開発で目まぐるしく変わる下北沢駅周辺の風景に驚きながら、さっそく向かったのは、昭和48年創業の老舗酒場「つ串亭」。ご主人の木村敏(さとし)さん(78歳)、長男の修(おさむ)さん(50歳)、次男の亮(あきら)さん(45歳)の親子3人が切り盛りしている。落ち着いた雰囲気の店内で、ふたりは焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「天然生本鮪」の刺身。「ホテルや一流寿司店にしか入らないような、いいものを分けてもらってます」と胸を張るご主人。豊洲市場の仲卸「まぐろ内藤」から仕入れるそうで、担当の竹田秀人さんも、「ご主人とは長い付き合い。味に厳しいので、いいものをいつでもだせるように心掛けてます」と互いに信頼を寄せ合う。きたろうさんは喉をゴクリと鳴らし、一切れ口に入れて、「うまい!」を連呼! ご主人は、「お客様にはいいものを食べてもらいたい。酒場の多い下北沢で、もう一度行きたいと思われる店でありたい」と思いを語る。
ご主人は、22歳から光学器械メーカーの営業マンとして働いていたが、28歳で酒場の世界に転身した。「子供を授かり、自分の力で未来を切り開いていきたいと思ったんです。会社だと自分一人の努力ではどうにもならないこともありますから」と、会社を辞め、知人の焼き鳥店で修業を始めた。「その日から、毎日、鶏を解体し続けました。1日12時間働いて給料は3分の1になりましたが」。
そんな厳しい修業で身につけた「焼き鳥」が次の料理。創業時から継ぎ足す秘伝のたれで焼いた「つくね」と、自家製にんにくみそで味わう「ねぎま」。「たれもお肉も旨味がすごい! 甘めのみそとネギもよく合う」と、ふたりは舌つづみ!
2年間の修業を終え、調理師免許を取得したご主人は、昭和48年、30歳で「つ串亭」を開業。店名には、「お客様に“尽くす”」との意も込めた。「当時、下北沢はまだ暗い感じの街で草もボーボー。今は変わり過ぎちゃった」とご主人は振り返る。16年前からは2人の息子も店を手伝い、長男の修さんは焼き場を、次男の亮さんは主に魚料理を担当している。
絶品! 熊本地鶏「天草大王」の鶏刺盛り
さて、次の料理は、修さんが作る「塩牛すじトロトロ煮」。6時間煮込んだ牛すじは感動的な柔らかさで、あっさりしたスープも上品なお味。きたろうさんは「お見事!」と絶賛し、西島さんも、「牛すじがプルプル〜! お肌ツルツルになっちゃう(笑)」と大興奮だ。
高校時代から父親を手伝い、店を継ぐことを決めた修さんと亮さん。現在、店長の修さんは、「最初の数年間は怒られない日はなかった。仕事の難しさを学びました」と話し、他店での修業を経て店に入った亮さんは、「店の舵取りをする父の姿を見ると、見習わなきゃと思います」と尊敬の眼差しだ。きたろうさんは、「素直な息子たちだな。漫画みたい」と感心し、ご主人も、「仲間から羨ましがられます」と幸せそう。息子たちは反抗期もなかったそうで、「私も親に反抗したことなどない。兄弟げんかもないし、私が女房とけんかしたり、怒鳴ったりすることもない」ときっぱり。目を丸くして驚くきたろうさんに、「カミさんにはお世話になりっぱなしですから。私なんて家では何もできず、水も汲めないくらい。そんな世話を全部やってもらってるんです。文句なんて言えませんよ」。西島さんは、「その言葉、毎日ラジオで流したい(笑)」と感銘を受け、きたろうさんは、「反省します」と、うなだれるのだった。
ここで、「天草大王鶏刺盛り」が登場! 熊本県の地鶏「天草大王」の、ささみ、白レバー、砂肝、はつの4種。白レバーは、「雌鶏240羽のうち6羽程度しか取れない」という希少さで、「めちゃくちゃおいしい!」とトロけそうな西島さん。きたろうさんも砂肝をコリコリ噛んで、「すべてがおいしい」と唸るしかない。
「創業49年目。いつまでできるかは体力勝負ですが、店を辞めたいと思ったことはない」とご主人。今では、開業当初のお客さんの子供や孫も来てくれるそうで、「若い世代にも喜んでもらえるお店にしたい」と、おススメメニューも、「かみなり豆腐」、「大判トロほっけ焼」、「ジャーマンポテトシーズ焼」など幅広い。
〆には、「じゃこ入り焼きおにぎり」を! 「もう一杯飲みたくなるおにぎり」とご主人が言うとおり、じゃこたっぷりのおにぎりを出汁入り醤油でこんがり焼き上げれば、もうたまらない! こちらも修さんが作っていると聞いて、きたろうさんは、「大将、もう引退して大丈夫!」と太鼓判。「私は何すりゃいいでしょう?」と笑うご主人に、「料理の説明係でいいよ!」。
「酒場とは?」の質問に、修さんは「娯楽の場」、亮さんは「大人の社交場」、そして、ご主人は「本音を語る場」。酒場で過ごす幸せを改めて実感させてくれる一軒だった。