江戸川区小岩で創業91年目
地元で愛される老舗人気酒場
暖簾を守り続ける三代目夫婦の物語
代々受け継ぐ自慢の味「もつオイル焼」
今宵の舞台は、東京都江戸川区小岩。JR小岩駅から、きたろうさんと西島さんが向かったのは、創業91年目の「木村家」。現在、小岩駅周辺は再開発の真っ只中で、「木村家」も移転の依頼を受け、仮店舗で営業中だ。店内の厨房で腕を振るうのは、三代目女将の棚池幹枝さん(57歳)。ご主人の尚征(なおゆき)さん(51歳)が主に接客を担当している。きたろうさんと西島さんは、地元で愛される老舗酒場に期待をふくらませながら、さっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
まずは、店自慢の「まぐろ」の刺身をいただく。「完璧な赤身! 歯応えがいい。やっぱり、通は赤身だね(笑)」と、きたろうさん。西島さんも、「分厚く切った、角のあるお刺身。最高じゃないですか!」と大満足だ。
創業は昭和6年。女将・幹枝さんの祖父・棚池勇さん(享年67)が、浅草で開業し、当初は大衆食堂として営業していた。しかし、東京大空襲で店が焼失し、昭和21年に小岩へ移転。再開した店を引き継いだのが、創業者の息子で幹枝さんの父・進さん(享年83)と母・笑子さん(享年79)だった。二代目を継いだ両親から伝授された自慢の一品が、次の料理。「もつオイル焼」だ。はつ、レバ、しろもつと玉ねぎを炒めた一皿に、「匂いだけで飲める!」と大はしゃぎの西島さん。「にんにくと胡椒も利いてる! ごはんも欲しくなる〜」と止まらない。きたろうさんも、「いろんな部位が入ってて、つまみにぴったり!」とチューハイをグビグビ。
18年前、父親の引退を機に三代目を継いだ幹枝さんは、昭和39年、二人姉妹の次女として生まれた。高校卒業後はメーカーに就職し、当初は稼業を継ぐ気は全くなかったという。しかし23歳の時、「父が心臓を悪くして、姉か私のどちらかに店を手伝ってほしいと言ってきたんです。でも、姉も私も働いていたから、どうする?となって。で、じゃんけんで負けました(笑)」と幹枝さん。「えっ、じゃんけんで!?」と驚くきたろうさんたちに、「最初は少し手伝うくらいの気持ちだったんです」と明かすが、徐々に自分が店を継ぐしかないと自覚するようになったのだとか。
ここで、次のおすすめ「ニラ玉」が登場! しっかり焼いたニラ玉に天つゆベースの餡をたっぷりかけた“餡かけスタイル”。きたろうさんは、「最高だな、これ!」と絶賛し、西島さんも、「餡がちょっと中華料理っぽくて、めっちゃおいしい」とたまらない様子。ご主人の尚征さんも、「妻の料理はうまいです」と太鼓判!
たらの旨みに喉が鳴る! 絶品「たらちり鍋」
賑わう店を夫婦2人で切り盛りするため、尚征さんはいつも忙しく店内を走り回っているが、「お客さんが手伝ってくれるんです。終わったお皿を自分で下げてくれたり」と話し、きたろうさんは、「いいね、小岩の雰囲気だ」と納得。それでも間に合わない時には、常備している駄菓子をサービスするそうで、なんともアットホームな光景だ。
もともと尚征さんは、幹枝さんが働く店に毎日のように通う常連客だった。先代女将の「うちの娘どう?」という一言がきっかけで、ふたりは交際を始。1年後の平成15年に結婚した。尚征さんは、「常連客の頃から、あたたかく迎え入れてくれるような店でした。でも自分が店に入って、ちゃんとやっていけるかは不安だった」と言うが、先代女将とも15年間共に働き、店の雰囲気をしっかりと守り続けている。料理については、「見て覚えろ、一回言ったことは覚えておけ」と、厳しく仕込まれたという幹枝さん。「肉豆腐」や「レバニラ炒め」、「なすしぎ」など、店のおススメメニューは常時40種類以上を揃えている。
さて、次は「あつあげ」を。「酒場には、あつあげがなくちゃ!」ときたろうさんは大喜び。半分にスライスしたあつあげの中にねぎとかつお節を挟んであり、西島さんは、「上にのせるより圧倒的に食べやすいし、味もよく滲みる」とパクパク。
「母は、何でもハッキリ言うタイプでした。『材料を無駄にするな』というのが教えで、食材をどう使い切るか常に考えて料理してます」と幹枝さん。母・笑子さんが亡くなったのは、父・進さんが亡くなった翌年だったそうで、「やるべき事に追われて、寂しさに浸る間もなかった」と振り返る三代目夫婦。「これからの夢は、あと10年は店を続けること。創業100年までは頑張りたい」と口を揃える。“四代目”について話を向けると、「先日、学校の先生から、高2のひとり息子が商売の勉強をしたいと言ってると聞きました」と頬を緩ませた。
最後の〆は「たらちり鍋」を。「そういう季節かぁ〜」と、スープを一口飲んだきたろうさん。「出汁が出てる。旨いっ」と喉を鳴らし、「やっぱり鍋は、たらだね!」と味わい尽くす。
酒場とは、「くつろげる場所」とご主人。女将は、「自分にご褒美をあげる場所」だと言う。「そうやってずっと見守ってきたんですね。三代続くってホントすごい!」と、きたろうさんと西島さんは頷きあうのだった。