夕焼け酒場が訪れるのは、これで2度目となる葛飾柴又。その駅の西側、小さな踏切の近くに今回の酒場「さくら」がある。暖簾をくぐると、女将の福島八重子さんがお出迎え。「そういえば、さくら(倍賞千恵子が演じた寅さんの妹)にちょっと似てますね」と、きたろうさんが言えば、「姥ざくらでしょ(笑)」と女将。いつものように焼酎ハイボールを頼むと、運んできてくれた店員さんが、これまた美人! 思わず「女将とはどういうご関係?」と訊くと、女将の娘だと言う。「女将、若い頃はこんなにキレイだったんだね」と、きたろうさんが言えば、女将がさも悔しそうに身をよじる。こんなやり取りはいつもの事なのだろう、明るく飾らない女将の醸し出す空気が、店中を包みこんでいて心地良い。
最初の料理は米ナスのしぎ焼き。しぎ焼きの由来には諸説あり、かつてはナスの果肉をくり抜いて鴫の肉を入れて食べていたから……などと言われる。しかし、少し甘めの味噌が絡まったナスもまた、実に美味だ。スプーンでナスをすくって頬張った2人は、焦げた味噌の香ばしさ、柔らかくアツアツのナスに感激。さぞかし腕のいい料理人がいるのだろう、「板さんはどんな人なの?」と、興味はそちらの方へ。板長の中堀忠雄さんは、女将が常連だった店の板前さんからの紹介で創業時から働き、調理場を一手にまかされている。高級料亭などで、長年振るってきたその腕は確かだ。そんな板長が、次に出してくれたのが豚バラベーコンブロック焼き。ベーコンの豚は肉質がきめ細やかで柔らかく、かつ甘みがあるやまと豚。そのベーコンを分厚く切り、じっくり丁寧に焼いた一皿は、老若男女、幅広い層に人気の一品だ。もちろんお酒のつまみに最高なのは言うまでもない!
女将が店を始めたのは6年前。飲食店でのアルバイト経験さえ無い状態からの挑戦だった。「こんなに飲食店が大変だと思わなかった。立ち仕事だし、しんどいでしょ?」。8年前に最愛のご主人が亡くなり、何も手につかなくなったという女将。「でも、仏壇を見て暮らすのはヤですから。何も失うものが無くなったら怖いもの無しですね」と言う。63歳からの一念発起、第二の人生はこうして始まった。
次の一品は、かにグラタン。グツグツでアツアツのグラタンには、かにの身が驚くほど入っていて、西島さんは「こんなに!」と大喜び。サクサクっとした表面の焼き加減も絶妙で、女性に人気のメニューなのだとか。女将さんの人柄もあるのだろうが、常連さんには女性が多く、友達が友達を呼び、人の輪が広がって今の繁盛につながったという。最後に、これだけは食べて帰って欲しいというメニューをお願いすると、アイナメの姿煮が登場。新鮮な旬の魚を使った煮付けは、板長さんの得意とするところ。味付けはカツオだしに醤油、砂糖、酒のみを使用。絶妙のバランンスで整えられた、この煮汁で柔らかなアイナメの身を柔らかいままに、しかもしっかり味を浸透させて煮る。その腕前は“さすが”の一言だ。「煮付けうまい! それに新鮮! この煮汁がさぁ、魚の味を全然邪魔しない、素晴らしい」と、きたろうさんも大絶賛。
第二の人生を好調に踏み出した女将に、何か始めようという人へのアドバイスを貰うと「私達、団塊の世代でしょ? 元気出さないとダメになっちゃうじゃないですか。洒落た事は言えませんけど、ただ夢中になって働くだけ。やって出来ない事は無いですよ」と言う。「その第一歩はどうすればいいの?」と、きたろうさんが訊くと「悩み抜くんですよ。う〜んと悩んで苦しんで、胃が痛くなって、それでもやるしかないと思う。そうなれば碇はあがって船は進むんです。船は前に進むしか無いんですよ」。洒落た事は言えないと言いながら、洒落た事を言ってしまう女将。そんな女将に励まされるお客さんが、柴又にはたくさんいるに違いない。
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太った立派な米ナスを半分に切り、味噌を塗って焼いて、仕上げにゴマをふりかける。米ナスしぎ焼き500円(税込)
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分厚い豚バラベーコンを、ロースターでこんがり焼いた一品。粒マスタードを少しつけていただく。豚バラベーコンブロック焼き800円(税込)。
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食材を豪勢に使うさくらの料理の一例。かにの身がたっぷり入ったグラタンを、絶妙のカリカリ焼き加減でどうぞ! かにグラタン500円(税込)。
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寒くなるほどに脂がのるアイナメ。その素材の持ち味を生かすため、板長は最低限の味付けで姿煮を作る。アイナメ姿煮1,000円(税込)。
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都葛飾区柴又1−43−15
03-3609-7340
11:30〜14:00、17:00〜23:00
火曜日、日曜日夜
- ※ 掲載情報は番組放送時の内容となります。