中央区人形町で平成18年創業
ジュエリーデザイナーから転身し
人気酒場を作り上げた女将の物語
“いわ瀬流”お造りの美しさと旨さに感動!
東京都中央区人形町にやってきた、きたろうさんと武藤さん。新旧様々な飲食店が軒を連ねるグルメタウンに期待を膨らませながら、今宵の酒場「美酒味肴 いわ瀬」へ。風情ある渋い雰囲気の扉を開けると、江戸時代にタイムスリップしたような店内で和服姿の女将がお出迎え。ふたりは、さっそく、焼酎ハイボールを注文して、「今宵に乾杯!」。店を切り盛りするのは、女将の小泉一絵(かずえ)さんと、共に店を立ち上げた初代主人の石井道雄さん(72歳)。そして、二代目を継いだ女将の甥・望月洋介さん(38歳)が厨房で腕を振るう。店内を飾る大きな日本画は、大将の叔母で日本画家の岩瀬歌肖(かしょう)さん(享年92)が描いたものだそうで、「老舗って感じ。相当長いの?」ときたろうさん。女将は、「まだ創業15年で老舗ではないんですよ。築90年の日本家屋を借りて改装しました」と教えてくれた。
さて、最初の料理は、「特選お造りおまかせ五種盛」。塗りの箱に美しく盛り付けられた刺身は、まぐろの漬け、藁で燻したさわら、からすみを散らした雲丹いか、土佐酢ジュレを乗せたたこ、煎り酒(日本酒と梅干を煮詰めて作る日本古来の調味料)でいただく平目など、どれも醤油を使わないのが“いわ瀬流”。まずは、平目をいただいたきたろうさん。おいしさに悶絶しながら、「醤油に慣れてちゃダメだね。これだよ、日本料理は!」と絶賛。武藤さんは、燻したさわらに「いい香りが鼻に抜ける〜」とうっとりし、たこを食べては、「コリコリですね!」と食レポ。きたろうさんは、「それだけじゃダメだよ」と手本を見せるべく、たこを食すも、あまりのおいしさに「旨いっ!」と絶句。しばらく味わってから、ようやく「手間暇かけてるのが味に伝わってくる。ひとつひとつがすごく丁寧」とコメントするのだった。
ここで、大将の道雄さんが登場。女将とは“パートナー”の関係だという。23年前、一絵さんは最愛のご主人を突然亡くし、深い悲しみにくれる中、道雄さんと出会った。そして、道雄さんの夢が彼女を立ち直らせるきっかけとなった。「大将はもと大工で、料理も大好き。集大成として自分の店を造るのが夢だったんです」と女将。道雄さんは、「店舗改装をたくさん手掛けましたが、最後に自分の店を自分で造りたかった」と振り返る。それまで40年間ジュエリーデザイナーとして働いてきた一絵さんは、経験をいかして店の内外装すべてをデザイン。それを道雄さんが3ヵ月かけて造り上げ、平成18年、ふたりで理想の店を開業したのだ。
里芋で作る「こだわり和風コロッケ」
次のおすすめは、「こだわり和風コロッケ」。「何でできてるか分かるかしら?」と聞かれ、武藤さんが「舌ざわりがなめらかで、フワっとしてる。何だろう?」と考えていると、きたろうさんが、「里芋だ」と大正解! 里芋を使い、西京味噌や山椒などで味付けするそうで、女将が考案した一品だ。
「開業当初は、渋い店構えで敷居が高く感じられたのか、お客さんが全然入らなかった」というが、「料理の値段が分かるように店の前に品書きを出したら、一気にお客さんが増えました」と女将。現在、料理を担当するのは女将の甥・望月洋介さんで、19歳から静岡県の割烹料理店で修業していたところを女将がスカウトしたという。そんな洋介さんの腕が光る「銀だら西京味噌幽庵焼き」が次の料理。柚子と醤油、みりんを混ぜた西京味噌に1週間漬け込み、じっくり焼き上げた一品に、武藤さんは、「柔らかい〜。優しくて上品なお味」と感激だ。
両親が共働きで子供の頃から料理を作っていたという洋介さん。高校卒業後は迷わず料理の道へ進み、24歳で上京。「いわ瀬」で働き始めた。開業から一年後、洋介さんが厨房に入ったことで、店は見事に軌道に乗り、それを裏付けるかのように、「いわ瀬」は、ミシュランのビブグルマンを2014〜17の4年連続で獲得している。
次に登場したのは、「雲丹茶碗蒸しパルメザンチーズ」! 雲丹とあんかけをあしらった茶わん蒸しの上から、さらにパルメザンチーズを削りかける。「雪が降ったみたい。もう別次元の料理だ」と感心しきりのきたろうさん。他にもおススメメニューには、「海鮮ポテトサラダ」、雲丹といくらをのせた「だし巻き玉子」、「〆さば棒寿司」など、手間をかけた垂涎ものの料理が並ぶ。
最後の〆は、「黒毛和牛ほほ肉和風カレーライス」を。8時間煮込んだほほ肉は、「スプーンでふわっと崩れる!」と武藤さんも驚く柔らかさ。余分な脂がなくヘルシーながら、旨みたっぷりのマイルドなカレーに、「うまいなぁ。カレー専門店のカレーだよ」と思わず唸るきたろうさんだった。
「お客様が、『今日もおいしかったよ』と笑顔で帰られるのが一番うれしい」と女将。「酒場とはコミュニケーションの場所。和気あいあいと楽しんでもらえれば」。丁寧に作られた料理に、間違いなく笑顔になれる一軒である。