歌舞伎座のすぐ近く、飲食ビルの地下一階にある「石松亭」が今回の酒場。階段を下りて左手、暖簾をくぐると正面に白髪、白髭の大将が包丁を振るうカウンターが見える。「銀座のイメージがないですね」と、きたろうさんが言うとおり店は雑然としているが、“ここは銀座”と萎縮する必要も無い分、落ち着けるというもの。常連さんと焼酎ハイボールで乾杯すると、大将が「お通しです」と皿を出してくれる。このお通しがうまい。香りの良い牡蠣の柚子煮に、殻まで食べられるソフト海老の唐揚げ。そして季節を先取りした菜の花のおひたし。「牡蠣がうまいねぇ」と唸るきたろうさん。大将は高校卒業後に、川口市の結婚式場を皮切りに六本木や赤坂の店で修行を重ね、腕を磨いた庖丁人。次に出てくる料理が待ち遠しい。
期待の次なる料理は、3種の魚介を盛りつけたゲタ盛り。「うわぁ、盛りつけがうまいな」というきたろうさんの言葉は、ただその美しさを褒めた訳ではない。まるで刺身一切れ一切れが光って見えるような、勢いを感じさせる盛りつけなのだ。北海のたこ、千葉は房州産のブリ。そして「トロトロですよ」と西島さんが声を上げたブドウ海老。その濃厚な味は、毎朝築地に仕入れにいく大将の目利きの賜物。「ウチの父ちゃん、3時くらいから働きますからねぇ」とは、女将の房子さん。この店のもう一人の主役だ。常連さんに「ココのご夫婦は美男美女ですから」と言われるお二人の出会いは、大将が六本木の天ぷら屋で修行していた25歳の頃。「道ばたで拾ったようなもんです、いや拾われたのかな(笑)」とは大将の弁。天ぷら屋の近くの定食屋で働いていた房子さんと意気投合し、2年後に結婚。それから3年後に支援者の後押しもあり、この店をオープンさせた。
「次のオススメは?」と西島さんが訊くと、大将が木の桶に入ったものを見せる。「あ、どぜう!」と顔をほころばせるきたろうさんと、表情がこわばらせる西島さん。この店一番の稼ぎ頭のメニューという「どじょうの唐揚げ」は、西島さんの言葉を借りれば「ずいぶんとスキニー(細身)。この小ささがちょっと怖い」という見た目。そんなことはおかまいなしのきたろうさんは、「香りがいいやぁ。全くどじょうじゃないよ。お酒にも合う!」と大満足。おっかなびっくりの西島さんも、一口食べると「パリパリだぁ。正直第一印象最悪だったんですけど、すごく美味しい。びっくり! いい出会いしちゃいました」と、感激のご様子。「そうでしょ、そうでしょ」と大将も嬉しそうだ。
30歳で飲食の激戦区、銀座に店を出したご夫婦を待っていたのは、早朝から深夜まで働きどおしの毎日だった。しかし、それより辛かったのは……。「生まれて半年の子供がいたんですよ。人なんて雇えないですから、子供を3歳半まで茨城のおばあちゃんのところに疎開させたんです。大変だったですよ。まだおっぱいが出てるうちだから。夜帰るとカミサン、涙流してたもん。罪作りなことしたかなと思ったけど、生きていくには仕方ないじゃないですか……」と、大将は言う。「子供の顔を見て帰って来ると、やっぱり切ないですよね。お風呂でしくしく泣いてました」という女将。しかし今では、その子供が元気に店を手伝っている。辛い思い出もいつかは癒されるものなのだ。
最後の一品は、番組初登場となるすっぽん鍋。「そんな高級な!」と、きたろうさんは絶句しつつも実に嬉しそう。すっぽん一匹丸ごと入った鍋は、開店当初からの名物料理で、なんとその頃からお値段据え置きの1万円! 「儲かってませんよ!」と大将は嘆くが、お客さんにはうれしい限り。すっぽんといえば、お肌がツルツルになるといわれるコラーゲンがたっぷり。西島さんは「これはいいですね。それにものすごく味が濃くて、こんなに美味しいものと思わなかったです! 見た目で躊躇しちゃダメですね」と興奮気味。
大将にとって“酒場とは何か”を訊くと、こう答えてくれた。「酒場は出会いの場所。酒場には日本全国の、それも生まれも育ちも違う人が、ポッと入ってくるでしょ。それで美味しいの不味いの言って憂さ晴らしをしていく。だから私は若い人に“こういう止まり木のあるところへ来て、一人でお酒を飲みなさい、料理を食べなさい”って教えてんの。そうすれば、頭のいい方がすぐ近くにいっぱいいるから」。そんな出会いの場所を司どるのは、やっぱりこの店の大将や女将のような苦労人の方がいい。なぜなら、きっと街の賢者たちが集まってくるに違いないからだ……。
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築地市場が近いため、魚介の新鮮さには自信あり。この日は生だこ、ブリ、ブドウ海老の3種盛り。3,600円(税別・2人前)
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どじょうが苦手な人でも、この唐揚げを食べると素材の印象が変わるかも。パリパリとした食感で、焼酎ハイボールとの相性もピッタリ! 500円(税別)
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こんなに美味しいすっぽんが食べられるというのが銀座という街の底力。しかも1万円で、というのは破格! すっぽん鍋 1匹10,000円(税別)
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酒場は“出会いの場”だという持論の大将。特に若い人は、世代を超えた出会いをすべきだと、酒場に一人で通う事を勧める。
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住所
電話
営業時間
定休日 -
東京都中央区銀座3−10−14
東銀1ビルB1
03-3543-1647
11:00〜14:00、17:00〜23:00
日曜日、祝日
- ※ 掲載情報は番組放送時の内容となります。