品川区大井町で創業50年!
鶏料理とおでんが名物の老舗酒場
伝統の味と暖簾を守り続ける三代目の物語
地養鳥の「鶏刺身三種盛り」に舌つづみ!
放送開始9年目を迎えた「夕焼け酒場」。きたろうさんと武藤さんが訪れたのは、東京都品川区大井町だ。「食通のサラリーマンがいっぱいいそう」と期待しながら、JR大井町駅からすずらん通り商店街を歩いて、今宵の酒場「八幸(はちこう)」へ。昭和48年創業、新鮮な鶏料理とおでんが名物の老舗酒場を三代目ご主人の中野政広さん(43歳)が切り盛りしている。ふたりは、さっそく、焼酎ハイボールを注文して、「今宵に乾杯!」
最初のおすすめは、鰺の「なめろう」。「なめろう」とは、房総半島沿岸発祥の料理で、「“皿をなめるほど旨い“から命名されたとも言われてます」とご主人。旬の魚の旨味を活かす絶妙なバランスで糀味噌と白味噌をブレンドし、ネギや生姜、ニンニクなどを加えて刻み和える。海苔で巻いても絶品で、「これはお酒がすすむね」と早くもペースが上がるきたろうさんだ。
創業50年目を迎える「八幸」は、政広さんの父・中野晃男(てるお)さんと母・美枝子さんが昭和48年に開業した。夫婦で店を切り盛りしていたが、19年前に美枝子さんが55歳で他界。当時、大学を中退してラーメン店で働いていた政広さんも、平成18年から「八幸」を手伝い始めた。
「最初は、魚をさばいたこともなく、戸惑いました。自分の仕事を覚えるので精いっぱいだった」。それでも、休日には食べ歩きをして、「おいしい料理に出会えば、自分なりにアレンジして新メニューを考えた」そうで、「鶏むねとアボカドのタルタル」もそのひとつ。他にも店のオススメメニューには、「いぶりがっこのポテサラ」、「豆腐ステーキ」など、おいしそうな料理が並ぶ。
続いては、「鶏刺身三種盛り」(レバー、むね肉の湯引き、むね肉のたたき)。鶏刺し好きの武藤さんは、まずはレバーをにんにく醤油で食べ、「臭みも全然なくて、新鮮!」と大興奮。湯引きは、わさび醤油でさっぱりと食し、「おいしくて幸せ〜」と夢見心地だ。きたろうさんも、「家庭では絶対食べられないね」と感激。ご主人は、「地養鳥というハーブ鶏で、臭みがなく、ビタミンや鉄分が豊富で低脂肪。ヘルシーなんです」と説明してくれた。
令和2年に41歳で三代目を継いだ政広さんだが、店を手伝い始めた頃は、初代主人の父・晃男さんと、二代目主人の兄・忠晃さんに挟まれ、「父と兄でやり方が違うから、兄のやり方をすると父に怒られ、父のやり方では兄に怒られる。兄と父はけんかばかりで、僕が仲裁に入る感じでしたね(笑)」と振り返る。
とろける大根に感激! 名物「おでん」の味
さて、お次は、お待ちかねの「おでんおまかせ盛り合わせ」を! この日は、大根、東京揚げ、玉子、ちくわぶ。創業当時から約50年継ぎ足し続ける秘伝の出汁で煮込んだ看板メニューだ。濃い出汁がしっかり染み込んだ大根に、「これはもうスイーツだね(笑)」ときたろうさん。「食感が生クリーム! これが大根か!? と思うくらい旨い」と大絶賛。そして、人気の玉子にはちょっとした仕掛けがあり、2個の黄身がひょうたん型に連なっている。ご主人は、「使うのは3Lサイズの卵。だいたい双子なんです」と、その秘密を教えてくれた。
ここで、創業者の父・晃男さん(77歳)が登場。「僕は10年くらい『お多幸』で修業してたんです」と明かす。きたろうさんは、「あの『お多幸』(大正12年創業の関東風おでんの名店)で!?」と感心し、「店名の『八幸』もそこからもらったんだね!」と納得。晃男さんは、「開業当初はカウンターだけのかわいい店でしたが、母ちゃんとふたりで楽しかった。立ち退きになった時に母ちゃんが死んじゃって。もう辞めようかと思ったけど、息子が『やるよ』って言うんで、それなら続けようと。うれしいような、不安なような気持ちでしたね」と当時の心境を語る。政広さんは、「店で一番楽しそうにしてるのが父なんです。楽しく仕事する姿をお客さんに見せることで、お店の雰囲気もよくなる。父を見て学びました」と、父の姿勢をしっかり受け継いでいる。
次に出てきたのは、「地養鳥の岩塩焼き」。「地養鶏自体がおいしいので、その旨味を一番引き出すためのシンプルな味付けを」と、イタリア産の岩塩だけで味付けして焼き上げる。こんがり焼けた表面をパリっと噛めば、中からジュワリと脂があふれ出し、武藤さんは頬が落ちそう!
最後の〆は、「とうめし」を。おでん出汁で真っ黒になるほど煮込んだ豆腐を地養鳥の炊き込みご飯の上に乗せる。豆腐に味を染み込ませるため、煮て冷ますを3日間繰り返すそうで、1日5食限定も納得だ。染み染みの豆腐と炊き込みご飯の相性に、「優しい味〜」と目を細める武藤さん。きたろうさんは、「昔、サーカスでピエロをやってた頃、おかずが白い豆腐一丁だけで、悲しくなっちゃったの。これは、もう別世界だよ!」と泣き笑い。
ご主人にとって酒場とは、「自分以外の人生に触れる場所。お客さんからいろんな話を聞いて、知らない世界に出会える」。きたろうさんは、「お客さんにとってもそうだよね。素晴らしいじゃん、酒場って!」と、気分上々〜。