新宿区新宿で昭和11年創業!
時代を越えて愛される老舗酒場を
64歳で引き継いだ元高校教師のご主人
旬の美味を堪能! 「ホタルイカのふき味噌和え」
今回の舞台は、東京都新宿区新宿。きたろうさんは、「新宿は俺の“青春”!」と言いながら、武藤さんと一緒に意気揚々と今宵の酒場「居酒屋 千草」へ。創業87年目を迎えた老舗酒場を切り盛りするのは、三代目主人の杉本茂さん(73歳)だ。ふたりは、さっそく焼酎ハイボールを注文して、「今宵に乾杯!」
最初のおすすめは、「里芋の浸し揚げ」。京都の料理だそうで、「里芋を昆布出汁に浸して味をつけてから揚げます」と話すご主人は京都生まれ。料理長の篠塚和弥(49歳)さんも京都出身だという。武藤さんは、「外はサクサクで、中はホクホク。優しい味〜」と感激し、きたろうさんも、「なんともまろやかな味。これは家では作れないな」と舌つづみ。
「千草」の開業は昭和11年。創業者の息子であり、二代目主人だった眞船道朗(まふねみちろう)さんは、もともと舞台役者として活躍し、今は狂言師として活動を続けているという。現在のご主人・杉本さんは、店の常連客だったそうで、「10年ほど前に、二代目が引退を決めて、店を閉めるという話になったんです。でも常連さんたちは、店をなんとか残したくて。それで、定年を控えていた私が、『じゃあ、やるか!』と(笑)」。そう聞いて、「でも、やるって言ったって、業界のこと何も知らなかったでしょ?」と驚くきたろうさんに、「飲むのはプロなんですけど(笑)。やるのは大変でした」。それまで30年以上、都内の高校で社会科教師を務めていたご主人は、「子供たちを教えるのはとても面白かった」と、充実した日々を送っていたが、64歳で全く新しい第二の人生を歩み始めたのだった。
さて、次の料理は、「ホタルイカのふき味噌和え」。「大人の味だね。実に美味!」ときたろうさん。武藤さんも、「お酒にあいますね〜」とチューハイが進む。神奈川県北西部の山地・丹沢産の新鮮なふきのとうを使い、「灰汁が出る前に茹でて、自家製味噌と擦り合わせてふき味噌を作ります」。そう話す料理長の篠塚さんは、30年近くフレンチのシェフとして腕を振るっていたが、3年前、知人の紹介で千草の厨房を仕切ることに。「最初は、飲食業に関して素人のご主人と、うまくやっていけるか微妙だった」と言うが、「一生懸命取り組んでいるご主人の力になりたいと思って。ここは大衆酒場の素敵さがあるし、86年間継いできたものがある。そこに、僕がやってきたことを活かして、もっと盛り上げていけたら」。一方、ご主人は篠塚さんのことを「頑固そうでちょっと扱いづらい、というのが第一印象でした。実際、強烈にぶつかることもあるけれど、彼は自分が間違っていたと気づいたら、ちゃんと謝るのがえらい。これならやっていけると思いました」。
受け継がれる名物「千草巻き」
続いていただくのは、篠塚さんが、食材にこだわり、ひと手間加えた「キタアカリポテトフライ」。北海道産のじゃがいも「キタアカリ」をくるみのチップで燻してから揚げる。「燻製の香りが鼻に広がる! キタアカリのネットリした食感もおいしい」と武藤さんは箸が止まらない。
ご主人は、店を継ぐにあたり、家族や友人に猛反対されたが、「どうしてもこの店を残したい」と想いを貫き、「何があっても5年は続けよう」と心に決めたという。「その5年間が本当に大変だった。僕は素人だから、板前さんの気持ちが分からず、ぶつかることも多い。板前さんがいなくなってしまった時期もあってね」と苦笑い。しかし、今では、昔からの常連さんも、「引き続きこの店で飲めるのがうれしいし、料理もおいしい」と喜んでくれるそうで、オススメメニューには、「牡蠣の醤油バター焼き」、「あぶり〆サバ」、「納豆オムレツ」など、絶品料理が並ぶ。
ここで、「牛タン入りつくね串」が登場! ご主人自ら、宮城県石巻で選んできた逸品で、「コリコリした食感で、タレもおいしい」ときたろうさんも舌つづみ! 地方とつながり、地方の食材を使っていきたいというご主人は、「産地に出向いて、工場を訪ね、直接お話を聞くんです。ぬくもりを感じますよね」と話し、きたろうさんは、「素人が玄人になったねぇ」と呟く。
最後の〆は、名物「千草巻き」を! 一見、巻き寿司のようだが、海苔で巻いてあるのは、とろろとマグロだ。一口でパクリといった武藤さん、「とろろが口いっぱいに広がって、贅沢〜」と大満足。「千葉県多古町(たこまち)のやまといもです。こちらも畑を見に行きました。現地に足を運ぶと、料理にも愛情が湧くんですよね」とご主人。きたろうさんは、「学校の先生から酒場のプロになったね。そこまでやる人、めったにいないよ」と感心するばかり。
ご主人にとって、酒場とは「触れ合いの場所。この店を次の世代にも継いでもらって、何年も続けていってほしい」。その想いに、料理長の篠塚さんも「期待に応えられるように頑張りたい」と返し、「いい関係じゃないですか」と、きたろうさんも、ほっこり幸せ〜。