東京都北区王子で昭和52年創業
素朴で家庭的な老舗酒場で
安くて旨い絶品料理に舌つづみ!
大人気! こだわりの「ハムフライ」
今宵の舞台は、東京都北区王子。桜の名所として知られる飛鳥山公園を後に、きたろうさんと武藤さんが向かったのは、JR王子駅から徒歩約3分の「大衆酒蔵 宝泉」。2つのコの字カウンターが並ぶユニークな造りの店内で、二代目主人・濱嘉孝(はま よしたか)さん(55歳)に迎えられ、ふたりは、さっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」
最初のおすすめは、「やわりめ」。年配の常連客のために、あたりめを少し柔らかくした一品で、干したスルメイカを調味液に3日ほど漬け込んで炙る。「しっとりして、味もしっかり。おいしいですね!」と武藤さん。きたろうさんも、「チューハイに合うね〜」とグビグビ。
店は昭和52年創業。嘉孝さんの父・守利さん(享年78)と母・政子さん(83歳)が、44年前に開業した。「脱サラです。もともと喫茶店をやりたかったみたいですが、隣がすでに喫茶店だったので、酒場に」とご主人。2つのコの字カウンターを配置する間取りは、開業にあたり、大工さんから、「効率的に接客できる」と勧められたそうで、きたろうさんは、「この開放感は、一度来たら、また来たくなるよね」と気に入った様子。武藤さんも、「みんなの顔が見えて楽しいですね!」。
「父はもう亡くなりましたが、母はいまだに“看板娘”(笑)」とご主人が言うとおり、先代女将の政子さんは、83歳にして現役。カウンターに立って接客しているという。この日はすでに帰宅したとのことで、「会いたかったなぁ」と残念そうなきたろうさんだ。
次に登場したのは、「ハムフライ」! 分厚いハムを揚げたボリューム満点の一品に、「贅沢だなぁ〜。ハムも柔らかいし、何もつけなくてもおいしい」と感心するきたろうさん。ご主人は「ハム本来の味です。いろいろ食べ比べて、このハムが一番合うと思った」とこだわりを見せる。
ご主人が二代目を継いだのは、30代半ば。「恥ずかしながら、それまで、フラフラしてたもので」と頭を掻き、「親父のスネかじってたの?」と聞かれて、「しゃぶり尽くしました……」と笑う。高校卒業後、定職につかず、喫茶店でのアルバイト生活を送り、その後はカメラアシスタントや出版社など職を転々とした。見かねた両親の勧めで、店を手伝い始めたのは、36歳の時。「当時は板前さんがいたので、最初は接客だけ。でも、板前さんが引退することになって、覚悟を決めた」と、料理を教わり、今では、「肉ジャガ」、「やげん串」、「馬力豆腐」、「磯辺焼き」など、様々なオススメメニューを揃え、料理の腕を振るう。
〆には名物「肉どうふ」を!
続いては、「ニラ玉いため」を。絶妙な火加減でふんわりと仕上げたニラ玉は、シンプルながら、おいしさと安さで人気の一品。ご主人が店に入った25年前から、同じレシピ、同じ値段(税込330円)だとか。「両親が開業した当初は、料理もドリンクも“オール150円”だった」そうで、今でも安さにこだわり、約80種類のメニュー全てを税込500円以下に抑えている。
ところで、店内の棚には、ご主人が趣味で収集したたくさんのフィギュアがズラリ! きたろうさんが、「すごい数! 子どものまんまだね」とツッコむと、「は、はい。そ、そうですね……」とタジタジ。そんな様子に、「大将と話してると、蛭子(能収)さんと話してるような感じがするよ。謙虚だしね」と、楽しげなきたろうさん。
気取らないご主人との愉快な会話に、「お客さんとコミュニケーションとることも多いですか?」と武藤さんが聞くと、ご主人は、「グループのお客さんは仲間同士で話したいから来られてることも多い。意識して距離をおくようにしています」と、プロらしい一面も! 以前は、年配の男性客が多かったそうだが、今は女性同士のグループやカップルも増え、約4割が女性客。誰にとっても居心地がいい酒場のようだ。
ここで、「ポテサラコロッケ」が登場! きたろうさんは、「大衆的でいいなぁ〜」とうれしそうにパクパク。武藤さんも、揚げたてアツアツにかぶりついて、「サックサク! 中がポテサラだと、ひと味違っておいしい〜」と舌つづみを打つ。
「お母さんから何か言われる?」と尋ねるきたろうさんに、ご主人は、「言われまくってます。しっかりしろって。母の名前は、北条政子の“政子”、とにかく強くて……」と苦笑いしながら、「親父はおっとりしていて、母はしっかり者。バランスとれてたんでしょうね。母が一番のやり手です。まだ現役で仕事を続けるのも、僕が頼りないのと、本当に仕事が好きだからでしょう」。
最後の〆は、先代から受け継いだ名物「肉どうふ」! 昆布と鰹の合わせ出汁で甘めに仕上げる。「お豆腐に味がしっかり染みて、優しい甘さ」と目を細める武藤さん。きたろうさんも「なんとも言えず旨い! 人柄が出てる感じだよ」と大満足だ。
「酒場とは?」の質問に、遠慮がちに、「“我が人生”ですかね」と言ってから、「どうしましょ! お客さんに、からかわれそう」と、恥ずかしがるご主人。そんな素朴な人柄も、多くのお客さんから愛される理由に違いない。