西東京市田無町で昭和55年創業
安くて旨い料理が評判の大衆酒場
二代目を受け継ぎ暖簾を守る男の物語
「コンビーフ揚げ」はなつかしい味!?
今宵の舞台は、東京都西東京市田無(たなし)町。西東京市は2001年に保谷(ほうや)市と田無市が合併して誕生した。きたろうさんと武藤さんが向かったのは、西武新宿線田無駅から徒歩約3分の「大衆酒場 三六(さんろく)」。創業42年目を迎えた店を二代目主人の山岡徹さん(45歳)が切り盛りしている。約80種類ものメニュー書きがずらりと並ぶ店内で、さっそく、ふたりは、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「牛もつ煮込み」。徹さんの父で、店を創業した初代主人の巌(いわお)さんが、当初から提供していたメニューだ。その味を引き継いだ味噌仕立ての煮込みに、「酒場に来たって感じがするよ〜」と、うれしそうなきたろうさん。コクを出すため、隠し味に黒糖を加えているそうで、「味噌の味がしっかりしていて、お酒にあう!」と、武藤さんは早くもチューハイをグビグビ!
先代の巌さんが「三六」を開業したのは昭和55年。それまでは喫茶店を経営していたそうだが、「当時、この辺りは住宅街。酒場なんてなかったので、それならやってみよう、となったらしい」と徹さん。その狙い通り、開業後はたちまち大勢のお客さんで大盛況になったという。
さて、次は揚げ物を。「何の揚げ物かは、食べてから! きたろうさんは分かるはずですが、武藤さんはどうかな……」とご主人。きたろうさんは一口食べて、「コンビーフだ!」と即答し、なつかしそうにコンビーフ缶の開け方を説明しだすが、案の定、武藤さんはキョトン!? 世代の違いが分かる「コンビーフ揚げ」なのだ。
店名「三六」の由来は、先代が36歳で開業したから。「面白いね! センスあるじゃん」ときたろうさん。約80種類のメニューのうち、約半分は先代からの料理を受け継ぎ、残りはご主人が考案したそうで、「自家製〆さば」、「鮭ハラスの岩塩焼き」、「チーズ納豆巾着」など、おいしくてリーズナブルなおすすめメニューが目白押しだ。
大学卒業後、医療品メーカーに就職したご主人が店を継いだのは、「父は、直接説得してこないものの、『継いでほしい』というオーラがすごくて(笑)」。その想いを汲んだ徹さんは、26歳で会社を辞めて父親の元で働き、4年間の修業を経て、30歳で二代目を継いだのだった。そんな父であり先代の巌さんは、今もご健在。迷惑にならないようにと、店に来ることはあまりないというが、二代目はしっかりと店の暖簾を守り続けている。
食べてビックリ! 「お好み焼き三六味」
次にいただくのは、ご主人が考案した「えんがわ柚子胡椒」。脂ののった平目のえんがわを醤油と柚子胡椒で味付けした一品は、ピリっと辛く、さっぱりとした味わい。「コリコリしておいしい〜」と武藤さん。きたろうさんも舌つづみを打ち、「チューハイが進んでしかたがない!」と、二人そろって「おかわり!」。ご主人は、「一つの食材からヒントを得て、安くて美味しいメニューを試行錯誤して考案する」そうで、新作メニューは、必ず妻の愛実(えみ)さんにも味見してもらい、意見を聞くのだとか。「お客さんが、心から『おいしい!』という表情を見せてくれる時は、本当にうれしい」と目を輝かせるご主人。一方で、「人さまが口に入れるものを扱う責任の重さを実感します。こんなに重いとは、継いでみるまで分からなかった」と真剣な眼差しで語るのだった。
ここで、「熱々チーズまいたけ」が登場! 舞茸をオリーブオイルで炒めて塩麹と黒胡椒で味付けし、仕上げにモッツァレラチーズを乗せて炙る。お酒がすすむ一品に、武藤さんは、「期待を裏切らないおいしさ! いくらでも食べられる」と、もう止まらない。
ご主人が先代から学んだのは、大衆酒場としての心得だ。「うちは、20時までサービスタイムで飲み物が安くなるんですが、コロナ禍の時短営業では閉店も20時。収入のことを考えると、きつかったけれど、その時、父の言葉を思い出して……。『大衆酒場を名乗るなら、サービスタイムは短くするな! 財布を気にしながら入るような店は大衆酒場じゃない』と。私もそれを守るように意識しています」。
ところで、ご主人は、オカメインコに惚れ込んだ愛鳥家。店内のあちこちにご主人が飼っているオカメインコの写真が飾られ、エプロンにはブローチまで! インコの話題を振ると、「大好きなんです! 可愛いですよ〜。癒されますよ〜」と大はしゃぎ! 意外な一面をのぞかせた。
最後の〆は、「お好み焼き三六味」。見た目はお好み焼き風だが、食べてみると、「小麦粉じゃない!?」ときたろうさん。白米と玉ねぎ、ばら肉、プロセスチーズを混ぜて焼き上げ、ソースと粉チーズをかけてある。きたろうさんは、「素材はバラバラなんだけど、なぜか口の中で統一感が出るんだよな」と味わいながら、感心しきり!
ご主人にとって酒場とは、「“リラクゼーションルーム”のようなもの。お客さまにいかにストレスをなくして帰ってもらえるか、じゃないでしょうか」。誠実な人柄の二代目が守り続ける、癒しの大衆酒場に出会えた。