父と娘が心をつないで切り盛りする
東京都国立市の串焼き酒場
鮮度にこだわるオリジナル肉料理が大人気!
タレの旨みもしっかり! 「しろ」の串焼き
今回は、東京都国立(くにたち)市にやってきた、きたろうさんと武藤さん。以前住んでいたことがあるきたろうさんは、「いい街なんだよ」と懐かしみながら、今宵の酒場へ。JR国立駅から徒歩数分の「串焼 暖(だん)」は、創業22年目を迎えた人気酒場。焼き台の前で腕を振るうのは、ご主人の内野有三(ゆうぞう)さん(48歳)。店を手伝うのは、長女の美夢(みゆう)さん(21歳)だ。きたろうさんと武藤さんは、さっそく焼酎ハイボールを注文して「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「ゆでタン」。ご主人が修業した牛タン専門店で学んだそうで、牛タンを6時間ほど茹でて塩胡椒で味付けする。「あんまりないメニューだよね」と言いながら食べたきたろうさん、「さっぱりしてて、いい香り」と感心し、武藤さんも「お箸ですっと切れて、おいしくて食べやすい」と気に入った様子だ。
大学に通いながら店を手伝う娘の美夢さんは、「父から『お願いします』とアルバイトを頼まれました。ずっとケンカ中だったんですけど」と笑う。父娘は、4,5年間、口を利いていなかったそうで、「娘のわがままが許せず、僕が口を利かなくなった」と言うご主人に、きたろうさんは、「子供じゃないんだから!(笑)」。
そんなご主人は、「父親が寿司屋だったので、自分は飲食業はやりたくなかった」と、高校卒業後、一度は飲料メーカーに就職した。しかし、学生時代のアルバイトで経験した料理の楽しさが忘れられず、2年で転職。20歳から本格的に料理の修業を始めた。「嫌だったのに、なぜかまた戻っちゃった。本当は好きだったのかな」と振り返るご主人。きたろうさんは「どこかで親父の背中を追いかけてたのかもね」と頷くのだった。
次のおすすめは、「串焼き盛り合わせ(タレ)」。豚トロ、しろ(豚の大腸)、ハラミ(牛)を、創業時から継ぎ足すオリジナルのタレでいただく。しろに自家製の辛みそをつけてパクリといった武藤さん。「やわらかい〜」と感激し、豚トロには辛子をつけて、「脂の甘みがおいしい」と止まらない。
20歳の頃から牛タン専門店と焼き鳥店で修業を積んだご主人は、平成13年、27歳の若さで独立し、まずは小平市に「串焼 暖」を開業した。両親からは、「急がなくても」と反対されたが、「若いから失敗しても怖くない」と心を決めたという。小平市から現在の国立市に店を移転したのは12年前。「小平の店は1F、2Fに分かれていて、2Fの様子を見ることができなかった。だから、ワンフロアで全体を見渡せ、お客さんの顔が見えるお店にしたい」と移転に至った。
謎の「PC巻」に舌つづみ!
さて、次のおすすめは、「串焼き盛り合わせ(塩)」。トッポギ巻、PC巻、アボカドの3種類だ。「PCって何?」と不思議そうなきたろうさんだが、「何か分かんないけど、旨い!」と舌つづみ。ご主人は「サクサクした食感がPC。ポテトチップスです」と、タネ明かし! 豚バラ肉で砕いたポテトチップスを巻いた、創業当時からの人気メニューだそう。ごま油をつけて食すトッポギ巻は風味豊かでカリカリもっちり。オリーブオイルで焼き上げたアボカドも旨味が引き立ち、驚くほどのおいしさだ!
料理のこだわりを伺うと、「もちろん、肉は新鮮なのが一番ですが、毎日、気持ちを新たに料理することを心がけてます。作業をこなすのではなく、心を込めて作りたい」とご主人。店のおすすめメニューには、「鶏のたたき」、「ジャガバター」など、お客さんを飽きさせない、幅広い料理も揃えている。
続いて登場したのは、「自家製シューマイ」。千切りにした皮をまぶして蒸したシューマイは、味に深みを出すため一晩寝かせた餡が絶品!「ジューシーでスパイシー。おいしいですね!」と武藤さんも大満足だ。
「父とはもう一生口を利かないと思ってました」と言う美夢さんだが、酒場が親子の心をつないだ。働く父親の姿を見て、美夢さんの心境も変化。「実際にバイトでお客さんと接すると、その難しさを実感します。何年も続けている父はすごい」と尊敬の念が垣間見える。そんな美夢さんによると、「父はよく酔っぱらって、愉快になる」とか。「愉快になるのはいいね。そのためにお酒がある!」と頷くきたろうさんだが、「娘が一緒に働いてくれて感謝はしてるけど、仕事はもうちょいかな……」とぼやくご主人に、「いいんだよ! いてくれるだけで!」と一喝! そして、武藤さんは、管理栄養士を目指しているという美夢さんに、「やっぱり食べ物の道なんですね。親から子へ受け継がれているのが素敵!」と心和むのだった。
最後の〆は「塩角煮」を。「いろんなものが食べられる」とうれしそうなきたろうさん。武藤さんも「塩の角煮も珍しい」と言いながら、一口食べて、「ほっとする味。お肉が柔らかい〜」と頬が落ちそう!
酒場とは「暖かい笑顔が一番似合う場所。ちょっとでも笑顔になってもらえれば」というご主人。「できるだけ長く店を続けるのが夢」だそうで、美夢さんも「頑張って!」と暖かい笑顔で応援している。