東京都大田区蒲田で創業3年
15歳から和食一筋で修業を重ね
究極の出汁料理で人気酒場を作った男の物語
素材の旨味を活かした「おばんざい」に舌つづみ!
今宵の舞台は、東京都大田区蒲田。町工場が多く、物作りの街として知られるエリアだ。京急蒲田駅からきたろうさんと武藤さんが向かったのは、創業4年目を迎えた「だし 和食 福もと」。白を基調としたおしゃれな店構えの暖簾をくぐると、清潔感あふれる店内でご主人の福本裕司さん(44歳)が迎えてくれた。ふたりは、さっそく、焼酎ハイボールを注文して、「今宵に乾杯!」
店のロゴは、4つの器が並んだ丸いお盆とお箸を家紋風にデザインしたもの。看板メニューの「おばんざいおすすめ盛り合わせ」をイメージしたそうで、この日は、「肉じゃが」、「明太しらたき」、「クリームチーズのポテトサラダ」、「ワラビと浅利のおひたし」の4種類。単品での注文も可能で、おひたしを選んだきたろうさんは、カツオ出汁とあさりの旨味に喉を鳴らす。武藤さんが選んだポテトサラダは、いぶりがっことクリームチーズで和えてあり、新玉ねぎのシャキシャキ食感もアクセント! ご主人は、「旨味の全てがお出汁だと考えているので、いわゆる“出汁”を使わないポテトサラダも、それぞれの素材から出る旨味が合わさっておいしくなる。それがお出汁なんです」。きたろうさんは、「説得力あるね。かつおや昆布だけが出汁じゃないんだ。出汁専門家だね!」。
15歳から和食の世界に飛び込んだ、徳島県出身のご主人。最初の修業先は、香川県高松市の店だった。きたろうさんが「修業は厳しかった? 包丁が飛んできたりする時代じゃないよね?」と聞くと、「そういうことも少しありましたね」と苦笑い。その後は、「京都の親方を紹介してもらい、料理指導に招かれることが多かった親方と一緒に様々な土地を巡りました。楽しかったし、勉強になりましたね」。日本各地で厳しい修業を重ねる中で身につけた出汁の知識が、素材の味と出汁を大切にする料理の礎となった。きたろうさんは、「出会いってすごいな。誰に出会うかで一生が変わるね」と、しみじみ頷くのだった。
続いては、ご主人の故郷・徳島県から毎日直送される新鮮な魚介を使った「旬の刺身盛り合わせ」を! 日本酒と梅干し、鰹節、塩を煮出した調味料「煎り酒」で食すのは、繊細な味と香りの白身魚や貝類。まずは、鳴門鯛を食べて、「鯛の旨味をすごく感じる。醤油で食べるのとは全然違う」と感激する武藤さん。きたろうさんは、ハモの卵のふわふわ食感に驚き、「雲を食べてるようだ。旨いねぇ〜」と唸る。藻塩で食すハモやカツオも絶品で、「これはお酒がすすむ」とふたりはチューハイをゴクゴク!
魚の旨味が凝縮された絶品「出汁カレー」!
ご主人が上京したのは29歳の時。都内の一流ホテルに就職し、10年以上にわたり腕を磨いた。しかし、「ホテルでは料理長の味をコピーして作るのが仕事。自分がおいしいと思うものをお客さんに出す機会がなく、自分の料理にかけてみたい、という思いが強くなった」と、平成31年、「福もと」を開業したのだ。
次にいただいたのは、プリプリした歯応えが特長の徳島県ブランド地鶏「阿波尾鶏 塩唐揚げ」。塩のみのシンプルな味付けで、鶏本来の旨みが味わえる。武藤さんは、「ジューシーでおいしくて、カラっと軽い!」と箸が止まらない!
「日本人にも外国人にも、和食を味わってもらうために、お出汁の大切さを知ってほしくて」と、和食と出汁がメインの店にしたというご主人。「稚鮎の南蛮漬け」、「鰺フライ」など、数多いオススメメニューの中、外国のお客さんに特に人気なのは、「丸茄子の揚げ出汁仕立て」だと教えてくれた。
ところで、店のある柳通りについて、「ちょっと寂れた雰囲気だね」ときたろうさん。ご主人は、「開業当時は本当に暗い通りでした。バブル期は歓楽街だったそうで、女性はほとんど通らない。『この店がなかったら一生来ることなかった』と言われたこともあります」と笑う。そんな通りで開業してわずか3年。ご主人は、究極の出汁料理で街に新たな風を吹き込んだのだ。
ここで登場したのは、「だし巻き玉子」! 新潟県産の自然卵と自家製合わせ出汁を堪能できる一品だ。湯葉のような白っぽい色味は、自然卵ならでは。ご主人によると「温かいうちは出汁が香り立ち、冷めると卵の香りや甘みが出てくる」そうだが、「みなさん、冷めるまで我慢できない」とも! 武藤さんも、あまりのおいしさに、「ふわふわで優しい味〜」と夢見心地。
最後の〆は、「出汁カレー」。料理の際に出る魚のアラを使って煮出した出汁に、カレー粉、味噌、醤油、スパイスなどで味付けする。「カレーも出汁!?」と驚くふたりだが、一口食べれば、「魚の旨味がすごい!」、「出汁おそるべし!」と、感動するばかり。
「いつもお客様の気持ちを一番に考えています。おいしいかな? 笑顔かな? と、毎日、ハラハラ(笑)」と話すご主人の夢は、海外出店! 「50歳までにスペインかフランスで開業したい」と目を輝かせる。「酒場とは?」の質問には、「みんなが集う癒しの場所」と答え、きたろうさんは、「『酒場とは出汁だ!』って言ってくれよ〜!!」。