品川区立会川で創業16年
地元で愛される大衆酒場を
二人三脚で作り上げた男たちの物語
新鮮な「もつ焼き」は2本で250円!
東京都品川区立会川(たちあいがわ)にやってきた、きたろうさんと武藤さん。大井競馬場の玄関口、京浜急行電鉄立会川駅から徒歩10秒! 「もつ焼き居酒屋 いっぱちや」が今宵の酒場だ。昭和レトロな雰囲気の店内で、三代目ご主人の唐澤将司(まさし)さん(48歳)と厨房で腕を振るう店長の阿部直之さん(40歳)に迎えられ、さっそく、ふたりは焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「大根煮」。もつ煮と一緒に3日間炊いた大根は、旨みをたっぷり含み、「すごいよ……」と唸るきたろうさん。武藤さんも、「やわらかくて、出汁がしみしみ!」と目を細める。店は創業16年目を迎えたそうで、「いい場所だね。駅出てすぐにフラッと寄りたくなるね」ときたろうさん。ご主人は、「そうですね。大井競馬場が近いので、競馬帰りのお客さんも多い」と言い、店長の阿部さんは、「ウチは安いんで、負けた人が来る」と笑う。
ご主人の唐澤さんは、都内の高校を卒業後、様々な飲食店で料理や経営を勉強し、40歳の時に「いっぱちや」の三代目として暖簾を受け継いだ。「当時、上野にも店舗があって、僕はそこで修業していたんです。そしたら、先代社長に、『おまえ、やってみるか?』と言われて。喜んで引き受けて、もう8年です」。
続いては、新鮮なモツを使った「もつ焼き」を! 創業以来継ぎ足す秘伝のタレで、かしら、しろ、レバーの3種をいただく。「タレがいい塩梅だ」と舌つづみをうつきたろうさん。武藤さんも「どれもおいしい! 臭みもなくて食べやすい」と止まらない。以前は2本で180円だったそうで、「今は2本で250円ですが、それでも安い」と阿部さんは言い、「僕は開業時からの常連客だったんです。当時は料理も飲み物も全部180円。2,000円あれば10杯は飲めた」と振り返る。きたろうさんは、「だから『いっぱちや』か!」と納得し、「“一か八か”も店名の由来らしい」とご主人から聞いて、「それもいいね!」と興奮気味だ。
現在店長を務める阿部さんは、15歳から33歳まで大井競馬場で働いていた。33歳で厩務員を辞め、次の仕事を決めかねていた時、ご主人が「一緒にやらないか?」と声をかけたという。「常連客だった彼が、手の込んだ本格的な料理を差し入れてくれて。それが本当に旨かった。それで誘ったんです」と明かし、昔から料理好きだった阿部さんは、「ありがたい話」と、料理人への転身を決めた。
阿部さんは、ご主人について、「とにかく優しくて、懐が広い」と言い、ご主人は、「阿部君はすごく真面目でストイック。しかも研究熱心」と信頼を寄せる。そして、「これからも、ずっと二人で?」と尋ねると、迷わず「はい!」と声を揃えた。
賞味期限は30秒!? 感動の「限定カツ」
次にいただくのは、「限定カツと玉ねぎの串カツ」。3時間低温調理を施し、旨みを閉じ込めた豚ロースをじっくり揚げる。美しいピンク色に仕上がったロース肉のジューシーでしっとりした食感を味わうため、「賞味期限は30秒。すぐに食べてください!」と阿部さん。ふたりは慌ててかぶりつき、「こんな柔らかいカツ、初めて」と感激する武藤さん。きたろうさんも、「食べてビックリする人、多いでしょ!」と頷きながら、「30秒ってのは、ちょっと不愉快だね(笑)」とツッコんで、みんなを笑わせる。
店を続ける秘訣は、「心地よい空間を作って、一度来たお客さんにまた来てもらうこと」とご主人。阿部さんも「お互い“楽しい”のが一番大事」とお客さんとのコミュニケーションを大切にする。毎日通う常連客も多いそうで、「来ないと、逆に具合悪いのかと心配になる(笑)。居心地と安さが魅力なんでしょうね。それに、常連さん同士も仲がいいですから」。
ここで、季節限定の「ひんやりトマトおでん」が登場! トマトを丸ごとおでん出汁で煮込み、しっかり冷やしたおしゃれな一皿だ。「一体、どんな味!?」と食べてみて、「うんっ、確かにおでん!」と武藤さん。きたろうさんも、「なんとも言えず旨い! すごいアイデアだね」と感心しきりだ。
料理のこだわりを伺うと、ご主人は「自分たちがおいしいと思っても、お客さんに出してみるといろんな反応がある。お客さんが笑顔になる料理を出したい」と、「ガリバタはらみ」、「目玉のしょうが焼き」、「自家製焼ギョーザ」など、安くて旨いオススメメニューを取り揃える。
最後の〆には、「アサリ焼きそば」を。麺をアサリやモヤシと炒め、醤油、中華だし、胡椒などで味付けする。きたろうさんは「旨っ!」と絶句して、もう箸が止まらない。武藤さんは「きたろうさん、すごい勢いで食べますね」と笑いながら、「スパイシーでアサリの旨味がしっかり。これ、私も好きです!」。
今後の夢を伺うと、「店を繁盛させて、店長の給料も上げられたら」とご主人。阿部さんは「僕は、この店がずっと続くように、ということだけ。ここが大好きなので」。ふたりにとって酒場とは、「居心地が良く、勉強する場所」。お客さんとの出会いを楽しみ、腕を磨き続ける、ご主人と店長の名コンビである。