自家製珍味と絶品魚料理が自慢!
東京都墨田区曳舟で創業35年
たった一人で人気酒場を作り上げた男の物語
8種類の「自家製珍味」を一皿で堪能!
東京都墨田区曳舟にやってきたきたろうさんと武藤さん。今宵の酒場はスカイツリーも近い、東武伊勢崎線曳舟(ひきふね)駅から徒歩数分の「地酒と珍味処 東西南北」だ。年季の入ったシブい雰囲気に、「かっこいい!」と期待が高まるふたり。店内には木工細工が所狭しと飾られ、ご主人の伊藤健治さん(74歳)が、「私が趣味で作りました」と、にこやかに迎えてくれた。ふたりは、さっそく焼酎ハイボールを注文して、「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「お店名物 付き出し」。自家製珍味を贅沢に盛り合わせた一皿は、店の一番人気! この日は、からすみ、ゆべし、子持ちやりいか煮、かにの酢漬け、明太じゃこ、ほたて煮、あわびの味噌漬け、数の子わさびの8種類だ。まずは、自家製からすみを食したきたろうさん、「ねっとりしてて旨い!」と感心し、武藤さんも、「おいしい〜。角が立ってなくて、優しい味」と舌つづみを打つ。ご主人は、「普通は塩漬けしますが、私のはちょっと違って、塩分控えめ。でも作り方は企業秘密」と笑う。自家製ゆべしは、柚子の皮に味噌を詰めて蒸し、干した保存食。完成まで約3ヵ月かかるそうで、「柚子の季節にしか作れないし、作っている人はあまりいないね」と胸を張る。武藤さんは、「柚子のいい香りに上品な味」と目を細め、きたろうさんも「他ではなかなか食べられない。どれもこれも、とにかく旨い!」と大満足だ。
店は創業35年。ご主人がずっとひとりで切り盛りしてきた。「ここは私の実家で、父と祖父は電気工事店を営んでました。でも、私はそれが嫌だった」と、家業を拒んで19歳で陸上自衛隊に入隊。北海道で2年間の任期を終えて退職すると、都内の喫茶店でアルバイトを始めた。昭和49年には自分の喫茶店を開業。結婚して2人の子宝にも恵まれ、順風満帆な日々を送っていたという。そんなご主人が酒場「東西南北」を開業したのは、昭和62年、49歳の時だった。「父が引退し、ここを建て直したんです。それで、長男の私が何かやることになって。それなら和食が面白そうだと、図書館で勉強しました」。「修業もなしで、図書館で!?」と驚くきたろうさんに、ご主人は「はい、図書館が師匠です!」。
「本日のあれ?」に悶絶!
次のおすすめは、珍味と並ぶ看板メニュー「刺身盛り合わせ」。この日は、平目、中トロ、真イカ、カンパチ。きたろうさんは、平目の昆布〆に「旨い……」とため息を漏らし、「中トロもイカも全部おいしい。珍味の後に正統派の刺身っていうのもいい」と絶賛。「魚の目利きはどうやって鍛えたの?」と聞くと、ご主人は、「最初は、随分いい加減なものをつかまされましたよ。それで、いろいろ勉強して、分からないことはちゃんと聞くようにしたら、だんだんといいもの出してくれるようになりました」。
仕込みから調理、接客、掃除まで、すべて一人でこなすご主人。74歳の今も、自ら足立市場に足を運んでいるそうで、15年の付き合いの仲買人・大内克則さん(58歳)も、「ご主人は、若いよね。一生懸命、魚を見て、良し悪しを見極め、真剣に魚と向き合っている」と話す。ご主人は、「東西南北」という店名に、「四方八方からお客さんに来てもらい、日本各地の魚を仕入れる」という2つの意味を込めたと言い、「釣り物きんき煮」など、オススメメニューには絶品魚料理が並ぶ。
ここで、「海老と帆立のかき揚げ」が登場! サクサクのかき揚げを粗塩でいただいて、「おいしい〜」とチューハイが進む武藤さん。「酒のつまみだから、出汁より塩がいいでしょ」と、酒好きの心をしっかり掴むご主人は、当然、いけるクチかと思いきや、「実は、飲めない(笑)」と言うから、ビックリだ!
さて、お次は、「本日のあれ?」を。「そのメニュー、気になってた!」と喜ぶふたりの前に出てきたのは、「国産焼きはまぐり」。常連さんを飽きさせないための日替わり料理なのだ。武藤さんは、大粒のはまぐりを口に運び、「身が大きくて噛むとじゅわっと味が広がる〜」と大興奮。一緒に出された「はまぐりスープ」も染み渡るおいしさで、もう感動が止まらない。
店を続ける秘訣は、「お客さんに喜んでもらえる商売をすること」とご主人。きたろうさんは、「俺は大将を見てて分かったね。大将が楽しく生きてるってのを見せることが、お客さんを喜ばせるんだよ」。その言葉に、ご主人はうれしそうに頷き、「跡継ぎはいないから、私の代で店は終わり!」と、迷いなく潔し!
最後の〆は、「うなぎ寿司」。自家製ダレで焼き上げた国産の鰻を押し寿司にした贅沢な一品に、「鰻がふわふわ! いくらでも食べられる」と大喜びのふたりだった。
「酒場とは憩いの場所。健康で、できるだけ長く続けたい」と言うご主人に、「80歳まで大丈夫!」ときたろうさん。ご主人が「それじゃ、後5年しかない」と反論すると、きたろうさんは、「贅沢言ってんじゃないよ!」と言いながら、「じゃあ90歳にしてあげる(笑)」。