神奈川県横須賀市で昭和32年創業
三代目を継いだ二人の男たちが
老舗酒場の暖簾を守る!
パンチの効いた横須賀流「湯豆腐」!
今回はちょっと足を延ばして神奈川県横須賀市にやってきた、きたろうさんと武藤さん。今宵の酒場は、京急本線横須賀中央駅から徒歩約1分。昭和32年創業の横須賀を代表する老舗酒場「酒蔵 お太幸」だ。三代目を継いだ2人のご主人・上原公一さん(59歳)と宮下栄一郎さん(50歳)が店を切り盛りしている。昭和の風情を感じる広々とした店内で、きたろうさんと武藤さんは、さっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。壁に貼られた約90種類ものメニューはどれもリーズナブルで、「昔からの店の方針です。一人2,000円いかないくらいですね」と上原さんが教えてくれた。
最初のおすすめは、蒸したて自家製「シューマイ」。豚肉とタマネギに帆立の貝柱をたっぷり入れて味に深みを出すそうで、武藤さんは「ジューシーでおいしい〜。パクパクいけちゃう」と大満足!
店は、三代目ご主人の祖父、上原宣人さん(享年87)と宮下栄次郎さん(享年84)がふたりで創業した。二代目を継いだのは、三代目ご主人のそれぞれの父である上原英雄さんと宮下武雄さん(享年56)。平成14年には、公一さんと栄一郎さんが三代目となり、65年にわたる、ちょっと不思議な共同経営が続いている。「祖父たちは、戦争からの引き揚げ列車でたまたま出会い、『生き残ったんだから、新しいことをやろう!』と意気投合したそうです」と上原さん。きたろうさんは、「小説みたい」と驚き、宮下さんが「お墓も隣同士(笑)」と付け加えると、「戦友の絆ってすごいね」と目を丸くするのだった。
次のおすすめは、「湯豆腐」。「横須賀流はちょっと違う」とのことで、合わせ出汁に漬け込んだ湯豆腐をお皿にのせて出すスタイル。豆腐にからしを塗るのも横須賀流で、「優しい味のお豆腐にパンチの効いた味付けが刺激的」と武藤さん。きたろうさんも「これは面白い。シンプルで旨い!」。
実は、開業当初は寿司店だった「お太幸」。「祖父たちは、横須賀で初めて『10円寿司』というのを始め、それが大繁盛して、酒場開業へとつながった」と上原さん。宮下さんは「ふたりは新しいものを見極める目があって、全国各地でおいしいものを見つけては、横須賀に持ち帰ったらしい」と話し、きたろうさんは、「代々、アイデアマンなんだね」と納得。店のオススメニューには、「激辛手羽揚げ」、「4種餃子天ぷら」(プレーン、辛口、海鮮、たこカレー)、「まぐろのぬた」など、ひと手間加えたアイデア料理が多いのも頷ける。
チューハイは濃いめ! それが横須賀ルール
次のおすすめは、三代目考案の「トン玉団子串」! シューマイの餡に青じそを加え、一度蒸してから軽く揚げた柔らかな食感の肉団子。武藤さんは、口の中に広がる青じそと帆立の香りを堪能しながら、「フワっとしてて、おいしい〜」と目を細めた。
約10歳の年齢差がある上原さんと宮下さん。上原さんは、父親の引退を踏まえて32歳でサラリーマンから転身。一方、大学卒業後、調理師専門学校で学んでいた宮下さんは、父・武雄さんの病をきっかけに、23歳で専門学校を中退し、別々の道を歩んでいたふたりは、偶然にも時を同じくして、祖父や父のように「お太幸」の暖簾を引き継いだのだ。
「最近は若い方や女性のお客さんも増え、客層が広がった」と上原さん。宮下さんは、「もちろん年配のお客さんも多く、僕らより店の歴史を知っている常連さんから、いろいろ教えてもらうこともある」と、老舗酒場ならではの交流も楽しんでいる。ところで、横須賀では、「お酒の濃さと、安くて旨い料理」が酒場のルールだとか!? 「チューハイの度数は濃いめ。安くておいしいものを出す。それが横須賀流」だそうで、武藤さんは、「お酒飲む人に優しい街!」と、満面の笑みでチューハイをグビグビ!
ここで、「うなぎの玉子とじ」が登場! カツオ、サバ、昆布の合わせ出汁が香り、脂ののった鰻の旨味を存分に味わえる一品に、きたろうさんは、「ひとつひとつ丁寧に作ってるね。儲けるだけじゃないっていうポリシーを感じる!」。
店を長く続ける秘訣は、「お客さんを大事にすることと、店の基本は変えずに世の中の変化に合わせて工夫していくことでしょうか」と、互いに頷きあう上原さんと宮下さん。「1日でも長く続けたい」というふたりだが、「娘しかいないので……」と、四代目はまだ決まっていない。きたろうさんは、「もったいない! 別に男じゃなくても。娘さんが継いでくれたらいいね」と願うばかりだ。
最後の〆は、「洋風あげまん」! 自家製の皮に鶏肉ベースの餡を詰め、注文を受けてから油で揚げる。アツアツにかぶりついて、「ピザっぽい!」と舌つづみを打つ武藤さん。宮下さんは、「ピザまん風の味付けです。鶏の軟骨を加えてコリコリした食感もプラス。意外と脂っこくなくて軽いでしょ!」。
酒場とは、「お酒を楽しむ人たちが行き交う、人生の交差点」と上原さん。宮下さんは、「先代からずっと色を重ね、これからも描き続ける油絵」と答えて、きたろうさんは、「またまた、ふたりともかっこいいこと言っちゃって! どこまで似た者同士なんだよ(笑)」。