大学を中退して飲食の世界へ!
32歳の若さで酒場を開業した男が作る
絶品創作料理に舌つづみ!
産地にこだわった贅沢「刺身盛り」
東京都渋谷区笹塚にやってきた、きたろうさんと武藤さん。「笹塚はおいしいところが多いよ!」とワクワクしながら、ふたりが向かった今宵の酒場は、笹塚観音通り商店街にある「麟」だ。バーのようなお洒落な雰囲気の店内で、若きご主人の林賢人さん(33歳)に迎えられ、さっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「お刺身の盛り合わせ」。この日は、クエ(長崎県産)、生本マグロ(鹿児島県産)、白イカ(山口県産)の3点盛り。高級魚のクエに、「口に入れただけで幸せになる〜」とうっとりする武藤さん。きたろうさんも、「贅沢だなぁ。どんどん食え(クエ)!って感じだね(笑)」と興奮気味だ。白イカは、塩とすだちがおすすめで、「ふわっと華やかで上品な味。思ったより柔らかい!」と武藤さんが感激すると、「口当たりを滑らかにするために隠し包丁を入れてます」とご主人が教えてくれた。
創業2年目を迎えた「麟」。店名の由来を伺うと、「僕の苗字は林(はやし)ですが、母が中国人なので、音読みして(りん)。それに『麟』の字をあてました」。ご主人は、大学入学のため18歳で故郷の長崎県長崎市から上京したが、20歳で大学を中退して飲食の世界へ飛び込んだという。「大学でやりたいことが見つからず悩んでいた時に、飲食の世界に出会ったんです。料理人は10代から修業している人も多く、とにかく早く料理の道に入りたかった」と、迷いはなかった。「店に来たお客さんが、みんな楽しい時間を過ごせるような、いい空間を自分も持ちたい」。そんな夢を見出した賢人さんだが、大学を中退したのにはもう一つ理由があった。「学費を稼ぐため、母親が親戚のいる香港に出稼ぎに行ってたんです。自分が大学を辞めて働けば、母も日本に帰って来られると思いました」。
次のおすすめは、「あら挽きえびしゅうまい」。蒸したてのえびしゅうまいを自家製すりごまダレでいただいて、「ふわっといい香りがして、おいしい!」と目を見張る武藤さん。細かく叩いたエビと角切りのエビ、コリコリしたキクラゲなどの異なる食感が楽しめ、五香粉(ウーシャンフェン)の香りが食欲をそそる一品だ。
〆は「鴨そうめん」で身も心もほっこり!
ご主人は、20歳から焼き鳥店や創作和食店などで修業を重ねる中で、ある人物に大きな影響を受けたという。「老人ホームで働く料理長の方と出会ったんです。その人が、『自分が作った料理が、それを食べる方たちの最後の食事になるかもしれない。そう思って大マジで作ってるんだ』と言っていて。その言葉に胸打たれて、老人ホームの厨房で3年間一緒に働かせてもらいました。出汁の引き方や包丁の研ぎ方など、一から教えてもらい、一食一食が最後だという気持ちで料理に向き合うことを学んだ」。そんな話に、きたろうさんは、「小説になりそうだね。若いのにいろんな経験をしてる。もう50歳って言ってもいいくらい(笑)」と感心するのだった。
次は、常連客にも人気の「里芋の揚げ出し」を。ホクホクの里芋にニンジンやたまねぎなどの野菜とズワイガニを使った優しい味の餡がかかり、「里芋がこんな繊細な料理になるなんて!」と大満足の武藤さん。
続いて、旬の高級食材を贅沢に使った「松茸の茶碗蒸し」が登場すると、 きたろうさんは、「素晴らしい……」と唸り、武藤さんも、「松茸の香りが鼻を抜けますね〜。しみじみしちゃう」と感激するばかりだ。
次々と登場する絶品料理に、武藤さんが思わず、「最初からこんなに料理が上手なんですか?」と尋ねると、ご主人は、「いいえ、はじめは全然!」と首を振る。「最初に働いた店で鉄鍋でチャーハンを作る料理人を見て、僕も家でやってみたものの、大失敗(笑)。それが悔しくて、毎日作り続けていたら、だんだんうまくなった。チャーハンが僕の料理の原点かも!?」。そんなご主人が腕を振るうお薦めメニューは、「国産豚バラ角煮」、「イトヨリダイの西京焼き」、「〆さばとガリの薬味海苔巻」などバラエティに富み、お客さんのお腹と心を満たしている。
最後の〆は「鴨そうめん」。ツルツルの島原手延べそうめんに、しっとりした鴨肉を合わせた温かい一杯に、喉が鳴るきたろうさん。昆布とカツオの合わせ出汁には、隠し味に焼き鳥のタレを加えるそうで、「ほっとする味で温まる。幸せ〜」と、武藤さんも頬を上気させた。
1年半前、32歳の若さで自分の店を開業したご主人。「当時は、新型コロナ拡大の対応に追われる毎日で大変でした。不安はずっとありますが、とにかく一歩ずつですね!」と前を向き、「一番大切にしているのは、居心地のよさ。お客さんから、『落ち着く』とか『家にいるみたい』と言われるのがとてもうれしい」と穏やかに語る。ご主人にとって酒場とは、「現実を忘れ、一息つける場所」。旨い料理と居心地の良さに、必ずまた来たくなる一軒である。