ミュージシャンを目指した男が
料理の世界に転身し
手間をかけて作り上げる絶品鶏料理の数々!
ジューシーな「信玄どり」の焼鳥に舌つづみ!
東京都府中市にやってきた、きたろうさんと武藤さん。JR南武線・京王線の分倍河原(ぶばいがわら)駅から向かった今宵の酒場は、旧甲州街道沿いの住宅街にたたずむ「焼鳥 とりふく」。創業16年目を迎えた店を切り盛りするのは、ご主人の糸川武志さん(47歳)と妻の空(そら)さん(50歳)だ。木のぬくもりを感じる落ち着いた店内で、さっそくふたりは、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「のらぼう菜のお浸し」。のらぼう菜とは江戸時代から東京都西多摩地域などで栽培されている伝統野菜。初めて聞いたという武藤さんは、「苦みもなくて、さっぱりと食べやすい!」と気に入った様子。利尻昆布や椎茸、鰹節などでとった出汁に一日漬けて味付けするそうで、ご主人は、「まずは出汁と野菜の味でほっとしてもらってから、ゆっくり焼き鳥を召し上がっていただければ」と話す。
次は、「焼鳥(塩)」の「はつ(心臓)」と「もも」を。使用するのは、信玄どりという山梨県産の銘柄鶏。臭みが少なくジューシーな味わいで、「すごくおいしい! 臭みも全然ない」と武藤さん。「もも」は、皮と肉を別々に捌き、皮で肉を包み込むようにして串に刺す。そうすることで、皮はこんがり、肉はジューシーに焼きあがり、きたろうさんは、「そんなに手間かけてんだ」と感心しながら、「実に旨い!」と舌つづみをうつ。
中学生の時に音楽に目覚めたご主人は、20歳からプロのミュージシャンを目指して六本木のクラブで活動を始めた。しかし、「経済的には全くやっていけない状態」で、生活していくために音楽の道を断念。28歳からは、不動産の事務と清掃業をかけ持ちして開業資金を貯め、32歳でまずはフランチャイズの焼鳥店を開業した。「最初は、焼鳥が好きというより、生活のためだった」が、その4年後、店を買い取ってオーナーとなり、夫婦ふたりで暖簾を守ってきた。共に働く空さんとは、音楽活動中の25歳頃、出会ったそうで、「彼女がいなければ、絶対ここまでやってこられなかった」とご主人。空さんは「彼の誠実なところに惹かれたんです。結婚してよかったですよ」とサラリと答えてくれた。
ここで、音楽好きなご主人が自作のラップを披露! 「♪今宵すべての酒場の民にささげよう〜(中略)〜夕焼け酒場 出会いに感謝 Respect!」。ノリノリに歌い切ったご主人に、きたろうさんは、拍手をおくりながら、「まぁ、ミュージシャンにならなくてよかったね(笑)」。ご主人は「もうちょっと褒めてもらえるかと思ったのに……」。
想定外の大きさにびっくり!「ジャンボなめこ」
続いていただいたのは、武藤さんが「そんなに大きいことってあります!?」と絶句するほど巨大な「大なめこ」。串に刺して焼く様子を見て、きたろうさんも「もう饅頭だよ!」。希少な「飛騨ジャンボなめこ」は、しっかりした歯応えと濃厚な味わいが特徴で、「焼くとまた違った食感で、香ばしくておいしい! しいたけより軽い感じ」と堪能する武藤さん。合わせて出てきた「うずら玉子」も、「中が半熟で黄身がトロトロ。おいしい〜」と大満足だ。
料理のこだわりは、「手間をかけること。お店でしか味わえないものを出したい」と、オススメメニューには、「焼鳥」の他、「鶏味噌と旬菜」、鶏肉で作る「自家製ソーセージ」や「鶏わさ(生ハム仕立て)」など様々な料理を揃える。実は、この店を開業して6年後、料理のスキルを高めるため、ご主人自ら志願して、ある人物に弟子入りしたという。その人物とは、「芝パークホテル花山椒」で最年少料理長となり、現在は台湾で日本料理店の料理長を務める泉弘樹さん(41歳)。約5年間、休日返上で料理修業に励み、泉さんのもとで基礎を学び直すことで、「自分が出す料理への思いがものすごく変わった」と言う。
次の一皿は、ちょっと珍しい鶏節を添えた「揚げたて厚揚げ」。鰹節の製法を応用し、鶏むね肉で作る鶏節は、旨みが凝縮されて味わい深い。注文を受けてから木綿豆腐を揚げて作る厚揚げも、外はサクサク、中はフワフワ! きたろうさんは、「大将は客のことを考えてるねぇ〜。やっぱり料理には愛が大切」と感心するのだった。
最後の〆は、「奥久慈卵(おくくじらん)親子丼」(※月に数回の限定メニュー)。濃厚な旨みとコクがある奥久慈卵(茨城県産)を使い、割り下や火加減など、試行錯誤の末にたどり着いた自慢の親子丼に、「いやぁ、旨い! これは見事」と唸るきたろうさん。「おいしい〜、卵がトロトロ」と武藤さんもうっとりだ。
「僕はこの世界が合ってましたね。16年間やってて、全く飽きない」とご主人。最初はビジネスとして始めた焼鳥だったが、今となっては、「もっと上手になって、もっとおいしいものを1日でも長く提供したい」と想いを込める。「酒場とは?」の質問には、「ひらがなの“ほ”」と答え、「店に来て、“ほ”っとして、またがんばってもらえたら」と解説。インパクトのある言い回しは、「一応、ミュージシャンですから(笑)!」。