家業の精肉店から料理人に!
51歳で念願の酒場を開業した男が作る
優しい味わいの絶品料理に舌つづみ!
精肉店と洋食店で培った自慢の「メンチカツ」!
今宵の舞台は、東京都江東区毛利。きたろうさんと武藤さんがお邪魔したのは、メトロと都営地下鉄の住吉駅近くにある、安くておいしい料理が地元で評判の「大衆酒処 たなべ衛(え)」。常連客で賑わう人気の店を切り盛りするのは、ご主人の田辺佳浩(よしひろ)さん(61歳)だ。自分の似顔絵入りTシャツを着て、チャーミングに笑うご主人にふたりは、さっそく焼酎ハイボールを注文して、「今宵に乾杯!」。
さて、最初のおすすめは、「イカ漬け卵黄のせ」。醤油、みりん、酒で漬け込んだイカに卵黄を絡めていただけば、まろやかな味わいがお酒によく合う。「イカの味付けがちょうどいい。卵があると特別感が出ますね〜」とうれしそうな武藤さん。きたろうさんも、「旨いねぇ。ついつい食べちゃう!」と箸が止まらない。
店は創業11年目だそうで、「開業したのは51歳。もともと実家が肉屋だったので、大学卒業後は実家の肉屋に入りました」とご主人。30歳頃まで家業の精肉店を手伝い、立ち退きのため閉店を余儀なくされると、都内の洋食レストランの厨房で働き始めたという。そんなご主人が酒場を開業しようと思ったのは、「肉屋の向かいの八百屋の親父さんが、いつも言ってたんです。『小さくてもいいから、一国一城の主にならなきゃだめだ』って。それでやっぱり自分の店を持ちたいと思ってね」。自分の店を開くため、さらに大衆酒場で約10年修業し、資金を貯めて、51歳で念願の一国一城の主となったのだ。
ここで、「ネギチャーシュー」が登場! 豚の肩ロースを約1時間半ゆで、醤油、みりん、酒などに約3時間漬け込んで味付けし、たっぷりのネギといただく。きたろうさんは、「実に旨い! ネギの爽やかさと合うね。味付けが濃すぎず薄すぎず、ちょうどいい。肉屋時代のノウハウがあるからだね」と感心しきりだ。
続いては、ご主人自慢の「メンチカツ」と聞いて、「待ってました!」とばかり喜ぶふたり。サクサクの衣の中は、ふわっとジューシーで、 きたろうさんは、「あー、旨い! 中にちゃんと空気が入ってる感じがいい。何もかけなくてもおいしい!」と絶賛。ご主人は、「メンチカツは昔から好きなんです。でも肉屋の頃とは味付けも違う。洋食屋でハンバーグとかいろいろ作ったから」と胸を張るのだった。
自家製チャーシュー入り! 絶品「チャーハン」
料理のこだわりを伺うと、「あんまり考えたことないなぁ……」とつぶやきながら、「自分で試食しておいしいと思ったら出します。実家は肉屋だったけど、自分は魚の方が好き(笑)。鶏肉は食べられないし、ホルモンもダメ。昔は焼鳥もやってたんですが、焼き台が壊れて止めました。たまにお客さんから、『前、焼鳥あったよね?』って言われる(笑)」と飾らない。店のオススメメニューも、「豚肉とキクラゲの卵炒め」、「厚揚げ納豆のせ」、「コンニャクのガーリック風味」、「お任せお刺身3種」など、気取らない料理が並び、飽きのこない優しい味付けでお客さんの胃袋を満たしている。
そんなメニュー写真が壁に貼ってあるのだが、写りが微妙であまりおいしそうに見えない!?きたろうさんは、「ご主人が撮った? 写真に変えたほうがいいよ(笑)」とアドバイス。ご主人は「バイトの子にも言われます。でも、大衆酒場っぽくないですか?」と、大して気にとめない。きたろうさんは、「それが狙いか」と頷きながら、「大将、意外と怠け者!?」と言うと、「基本はそう。働きたくない!」。そんなご主人だが、実際は、毎朝5時から仕入れ、仕込み、開店準備を一人でこなし、さらに閉店後はアルバイトの賄い飯を自ら作るというから、相当な働き者。
続いては、「マグロテールのステーキ」。塩コショウで下味をつけたマグロテール(尾肉)を輪切りのままバターで香ばしく焼き、酒と醤油でシンプルに味付けする。「柔らかくて全然パサパサしてない。味付けもおいしい〜」と頬が落ちそうな武藤さんだった。
店をやる上で大切にしているのは、「一生懸命やること。お客さんにどうやったら再来店してもらえるかを考えてます。個人店は、初めてのお客さんには、どういうお店か分からない。だから、外から中の様子が見えるように、扉をガラス貼りにしたりね」と話す。店をやっていくのは、「大変なこともあるけど、自分の好きなことやってるから、やっぱり楽しい」と朗らかに笑い、きたろうさんは、「大将と話してると落ち着くよ。自然体で気取らないところがね」とすっかりリラックス!
最後の〆は、特製「チャーハン」。先ほどのチャーシュー入りで、仕上げにはタレをさっとかける。「おいしいね! なんか、大将の料理、幸せな気分になれるよ」と言いながら、存分に味わうきたろうさんだった。
独身のご主人は、跡継ぎはいないものの、「あと20年は続けたい!」と充実した様子で前を向き、酒場とは、「明日への活力を養う場所。また明日から頑張るぞ! と思ってもらえれば」。ご主人の気さくな人柄と旨い料理にほっと癒される一軒である。