東京都荒川区日暮里で約半世紀!
先代の父親が作り上げた人気酒場を
二人三脚で守り続ける夫婦の物語
脂の甘みがたまらない! 「本まぐろ脳天刺し」
今宵の舞台は、東京都荒川区日暮里。きたろうさんと武藤さんが向かったたのは、JR・京成日暮里駅の東口から歩いてわずか30秒。創業からおよそ半世紀を迎える「五所車(ごしょぐるま)」だ。昭和49年創業の店は、駅前エリアの再開発のため、平成19年に現在のビルに入居し、二代目主人の青田大吉さん(58歳)と妻の美奈子さん(55歳)が店を切り盛りしている。明るく清潔な店内で、きたろうさんと武藤さんは、さっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「本まぐろの脳天刺し」。贅沢な厚切りの脳天刺しは見た目も美しく、口に入れれば、脂の甘みがじゅわりと広がる。きたろうさんは、「すごいね! 脂がのってて。旨いっ」と絶賛。武藤さんも「脂が甘い〜。おいしい〜」と感激し、女将の美奈子さんは、「大トロや中トロの脂とはまたちょっと違って、味がありますよね」と胸を張った。
店を開業したのは、大吉さんの父・富雄さん。「チャレンジャーだった!」と二代目夫婦が声を揃えるように、富雄さんは、青果店や自転車店、眼鏡店など様々な商売を手掛けたのち、41歳で「五所車」を開業。それまで飲食店の経験はなかったが、料理人を雇って調理法を学び、妻の聿子(いつこ)さんとともに二人三脚で人気酒場を作り上げた。子供の頃、母親から借金の話も聞いていたという大吉さん。不安もあったが、「最後に残ったのがこの店。楽しそうだったよね」と美奈子さんと頷き合う。そんな波乱万丈な人生を送った富雄さんは、67歳の時に病に倒れ、帰らぬ人に。大吉さんは、「親父は顔は厳しいけど、心は優しかった。店を残してくれてありがたい」と思いを馳せた。
次のおすすめは、「鰯のしそ巻き揚げ」。鰯を2枚におろし、青じそを挟んで巻き、衣をつけて揚げる。武藤さんは、アツアツにかぶりついて、「サクサクでホクホク。ポン酢がさっぱりしていて、いくらでも食べられる!」と興奮気味。「鯵とはまた違うね」と舌つづみを打つきたろうさんに、女将も「鰯の方が味が濃い。香りもあって、チューハイに合いますよね!」。店のメニューは魚料理が中心で、調理は夫婦二人で担当し、「炙り〆サバ」、「鯛のカブト焼」、「生だこバター炒め」など、垂涎もののオススメメニューを揃えている。
絶品「鯨のニンニク炒め」に舌つづみ!
ところで、店名は先代が「御所車」(平安時代、貴人に使われていた牛車)に乗る夢を見たのが由来だそうで、「御」を「五」に変えて店名にしたという。大吉さんが店を手伝おうと思ったのは、「親父から継いでほしいというオーラが出ていたから(笑)」。20歳の時に父のもとで修業を始め、「業者を泣かすな」、「笑顔を絶やすな」、「あいさつを忘れるな」という教えを受けたという。親子で働き始めて16年後、富雄さんが亡くなり、店を継いだ時は、「常連さんが離れてしまわないか、不安でいっぱいだった」とご主人。きたろうさんは、「それを奥さんが助けてくれたんだね」と納得し、ご主人も「自分ひとりじゃできなかった」と美奈子さんに感謝するのだった。
続いては、美奈子さんが作る特製「肉豆腐」を。豚肩ロースを使い、鰹出汁を利かせた一品は、「子供時代に母がよく作ってくれて。すごく好きだった」と美奈子さん。武藤さんは、「おいしい〜! 甘すぎず、辛すぎず、ほっこりする味」と大満足だ。
結婚して約35年が経ったお二人。ご主人が美奈子さんに惹かれた理由は、「器量よしだし、料理はおいしいし」とストレートな答え。一方、美奈子さんは、「主人は、私の兄の親友だったんです」と明かし、「高校時代によく家に遊びに来てた頃から、カッコいいなと思っていた」とか! 美奈子さんの20歳の誕生日には、お兄さんが、「五所車」に初めて連れていってくれたそうで、その頃から互いに意識し始め、お義父さんの後押しもあって結婚を決めたのだそう。
さて、ここで「鯨のニンニク炒め」が登場! 一口食べて、「旨い! 鯨って分かんないね。牛肉みたいだ」と、きたろうさん。武藤さんも「柔らかくて、タレもおいしい〜」と箸が止まらない。美奈子さんは、店のメニューはすべて作ることができるそうで、「主人が草野球で骨折して入院した時は、ひとりで店を切り盛りしました。しかも1年後また骨折して!」と呆れ気味。「喧嘩は年がら年中」というふたりだが、「お客様を大切にする」という思いは同じ。店を長く続ける秘訣である。
〆は、「海鮮丼」を。この日は、ニシン、〆サバ、ホタルイカ、いくら、エビ、脳天まぐろ、まぐろ赤身、生だこ、ホタテ、真鯛、とろろ、納豆がのった、モリモリの豪華な丼(仕入れにより内容は変わる)。「これは幸せな気持ちになりますね〜」と歓声を上げる武藤さん。きたろうさんは、「一つ一つの魚が新鮮だし、納豆が入ってるのがいいなぁ!」。ご主人も「乗ってる刺身でお酒を飲んで、最後に納豆でご飯を食べる方もいますね(笑)!」。
ご主人にとって酒場とは、「自分とお客さんが楽しめる場所。これからも、この店を守っていきたい」と、穏やかにほほ笑んだ。