安くて旨い大盛り家庭料理の数々!
東京都大田区蒲田で創業46年目
人気酒場を守り続ける夫婦の物語
炭火で焼き上げる自慢の「もつ焼き」!
東京都大田区蒲田にやってきた、きたろうさんと武藤さん。ふたりがお邪魔する今宵の酒場は、昭和53年創業の老舗酒場「くり平」だ。年季の入った古い扉をガタガタと開けると、店内は気取らない昭和レトロな雰囲気で、「いい感じ。映画でも撮りたくなっちゃうな!」ときたろうさん。笑顔で迎えてくれたご主人の栗原尚市(なおいち)さん(73歳)と妻の由美子さん(68歳)に、二人はさっそく焼酎ハイボールを注文して、「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、お店自慢の「もつ焼き」。塩でいただく「かしら」(豚のコメカミ)はコラーゲンたっぷりで、「お肉がふわっとしてますね」と武藤さん。「れば」と「しろ」は、45年間継ぎ足してきた秘伝のタレで焼き上げてあり、「“しろ”はプリプリ! “れば”もパサパサしてなくて、おいしい〜」と感激する。
尚市さんと由美子さんは、お二方とも北海道出身だそうで、51年前、尚市さんが働いていた都内の北海道料理店で出会い、交際を始めた。そして、「いつか自分たちの店を持ちたい」という夢を抱き、交際から2年後、一緒に北海道料理店を辞め、同じもつ焼き店で修業しながら開業資金を貯め始めたという。それから4年後、二人は結婚し、ここ蒲田に念願の店を構えたのだ。
「俺と一緒に来い!」と由美子さんに声をかけたというご主人。由美子さんは、「今考えると、世間知らず!? でも、真面目そうだなと思って」と尚市さんに魅かれた理由を明かし、きたろうさんも「優しそうだよね」と頷く。一方、ご主人は、「誰でも良かっただべさ……」とつぶやいて、「そういうこと言うなよ!」と、きたろうさんに一喝されるのだった。
続いては、名物「から揚げ」を。ボリューム満点の一皿に、「なんでこんなに多いの!?」と驚くきたろうさん。武藤さんは、さっそくかぶりついて、「噛んだ瞬間、ジュワーっとなる〜」と頬が落ちそう。食べ切れなければ、持ち帰り可能だが、2皿食べた人もいるとか!
ここで、「牛すじ煮」が登場! 水を使わずビールと赤ワインで約3時間煮込むという。一口食べた武藤さん、「柔らか〜い」と目を細め、「脂の部分も全然、くどくない」と舌つづみ。由美子さんが考えたメニューだそうで、「やっぱ、旦那じゃ無理だね。女将さんは創作能力がある!」と感心するきたろうさんに、ご主人は「グレてやる!(笑)」。
ほっとする家庭の味「とまと玉子炒め」
昭和53年の創業以来、ずっと一緒に店を切り盛りしてきた二人。「24時間一緒です。若い時は喧嘩もしたけど、今はもうね……。やっぱり、お互い、いないと困りますよね」と由美子さん。仲良くやっていく秘訣は、「考え方を変えるんです。健康で働いてくれれば、それでいい」と気張らない。この場所を選んだのは、「隣がお風呂屋さんだったから。当時は銭湯通いのお客さんも多くて、お風呂帰りに寄ってもらえる。『神田川』の世界ですよね」と振り返り、ご主人も、「こういうエリアだから、気楽にやっていける。毎日お客さんが来てくれて、気軽に声かけてくれるのもうれしいやね」と、穏やかな表情を浮かべた。
さて、次に登場したのは、これまた大盛りの「とまと玉子炒め」。「これも女将の料理だね。見た目もきれい」ときたろうさん。武藤さんも、「トマトの酸味がいい。お肉たくさん食べた後にぴったり!」と箸が止まらない。飽きのこないシンプルな味付けの料理は常連客にも大人気で、オススメメニューには、「ぶり薬味和え」、「自家製キムチ」、「なすしそ炒め」、「チーズ揚げ」など、どこかほっとする家庭料理がズラリ! 何十年と通い続けるリピーターのお客さんはもちろん、20代のお客さんも多く、「昨日は若い女性のお客さんが一人で来られてね。こういう昭和的な店が好きだと言ってくれる人もいて、うれしいよね」と充実した様子のご主人だ。
夜な夜な酒好きが集まる人気酒場となった今、後継ぎについて伺うと、「息子たちには、小さい頃から、『お前たちは好きなことやっていい。後なんて継がなくていい』とずっと言ってきた」とご主人。由美子さんも、「あと何年できるか分からないけれど、私たちが二人で始めて、二人で終わる。もう決めてます」と、迷いはない。
最後の〆は、「茶そば」だ。こちらもやはり大盛りで、「足りるかなと思って、だんだん多くなっちゃう」のは、由美子さんの優しさゆえ。きたろうさんと武藤さんは、うれしそうにズズっとすすって、「さっぱりしていて、〆にぴったり」、「驚く旨さだね」と頷きあった。
酒場とは、「自分に戻れる場所」と由美子さん。きたろうさんは、「なんか、深いなぁ……。飾った自分を剝ぎ落して、もう一度自分に戻れるってことか」「大将、これ以上の言葉出てこないよね」とニヤニヤ。ご主人は、苦笑いしながら、「昭和ロマンちゅうか……」と口ごもって、「何言ってるか分かんないよ!」ときたろうさんにツッコまれるのだった。