江戸時代にタイムスリップ!?
情緒あふれる浅草の老舗酒場
囲炉裏を囲んで江戸料理に舌つづみ!
好きな食材を選べる! 「囲炉裏炭火焼き」
東京都台東区浅草を訪れたきたろうさんと武藤さんは、浅草名物の人力車に乗って今宵の酒場へ。到着したのは、創業46年目を迎えた老舗酒場「江戸料理 櫻田(さくらだ)」だ。渋い佇まいの入口を入ると、映画のセットのような日本情緒あふれる店内で、ご主人の櫻田勝彦さん(78歳)さんが出迎えてくれた。白髪を後ろに束ね、作務衣を着こなす風貌に、「仙人さんみたい。かっこいいねぇ!」ときたろうさん。雰囲気ある建物に感心していると、「三条富小路という京都のど真ん中。江戸時代、文久2年に建てられた町家を改築のために壊したんですね。その廃材を東京に持ってきて、柱と建具、欄間、障子を入れたんです」とのこと。ふたりは、囲炉裏を備えたテーブル席に座り、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「囲炉裏炭焼き」。大きな籠に並ぶ20種類以上の食材から、3品選んで自分で焼く。「贅沢だなぁ〜」と、きたろうさんが選んだのは、椎茸、猪のハツ、鮎の塩焼き。武藤さんは、山芋、まぐろの醤油漬け、シャモの手羽だ。目の前の囲炉裏に食材を乗せて焼き上がりを待つ間、風流な盛り付けの「お通し&小鉢」が! 「シカのたたき」、「煮あさり」、「玉子焼き」、「もずく酢」と、絶品の前菜を味わえば、そろそろ炭火焼きもいい具合!
椎茸には、酒に塩、梅干し、かつお出汁を加えた江戸時代の調味料「煎り酒」を垂らし、「ちょうどいいねぇ〜」ときたろうさん。武藤さんは、シャモの手羽にかぶりついて、「皮がパリパリ、お肉もジューシー!」と頬が落ちそうだ。続いて、きたろうさんは、鮎の塩焼きに「最高だね!」と舌つづみを打ち、「鮎からジビエまで、食材のバランスがすごい」と感心するばかり。
お客さんから「えびす様」と呼ばれるご主人は、浅草育ちの生粋の江戸っ子。大学を卒業後、勤めた銀行を6年で退職し、28歳から料理の世界へ。都内の寿司店で修業したのち、昭和52年、33歳で浅草に「櫻田」を開業した。「最初は寿司屋のつもりだった」というが、店の前は“すしや通り”という寿司店の激戦区。「4年くらいの修業では太刀打ちできない」と、急遽、炭火焼きの店に変更したとか。そんな話を聞きながら、きたろうさんは、「なんかいいねぇ。囲炉裏を囲んで、えびすさんと話すの。もう、大将が“つまみ”みたいなもんだね!」。
モットーは“料理を楽しむ!”
さて、お次は、江戸時代から伝わる「ふわふわたまご」を。出汁の入った土鍋を炭火にかけ、メレンゲに卵黄を加えて泡立てたものを流し込み、ふわふわと膨らんできたら出汁と一緒に食す。「これが江戸料理? すごく“今どき”な感じ」と驚く武藤さんに、「東海道五十三次の袋井宿の名物料理でした」とご主人。様々な江戸時代の文献を参考にして、“江戸料理”(江戸時代、江戸で発達した料理、またはその流れをくむ郷土料理)を再現するそうで、オススメメニューの「はまぐり田楽」、「きじのしぎ焼き」、「ジビエ味噌煮(鹿・猪)」など、「うちで出してるお料理は全部、江戸時代にあった食材。だから、白菜だとか玉ねぎだとかピーマンは使えないんですよ」。
開業当初はお客さんが入らず困ったというが、翌年、「櫻田落語会」を始めると、噺家や落語ファンが常連客となり人気店に! 45年目の現在も続く「櫻田落語会」には、主に二ツ目の噺家さんが出演し、真打に上がると卒業するそうで、柳家小里さんや春風亭小朝さんも出演したとか。ご主人は、「志朝さんだとか、小三治さんだとか、毎日のようにうちに来て、夜遅くまで飲むんですよ(笑)」と振り返り、「1年たつと、何もしなくてもお客さんに来ていただけるようになった」とのこと。きたろうさんは、「浅草だなぁ。芸人を育てる街なんだよ」と納得するばかり! 店の常連で、櫻田落語会にも出演する噺家さんに話を聞くと、「大変な登竜門。本当に大先輩たちが出てらっしゃった聖地みたいな所」と言い、「大将はこの辺りの生き字引的なところがありますし、いろんなことをご存じで、楽しいですね」と話してくれた。
さて、次に登場したのは、「鍬(くわ)焼き」。鍬形の鉄板で鹿や猪などのジビエを焼き、割り下で軽く煮る。この日は合鴨で、「さっぱりしてるけど、脂が甘い!」と武藤さん。ご主人が本格的にジビエ料理を始めたのは約1年前だそうで、全国の猟師さんに実際に会いに行き、厳選したという。常に新しいことに挑戦し続けるご主人は、「進化がないとおもしろくない。失敗したものもいっぱいあります。でもそれが楽しい」と、えびす顔だ。
最後の〆は、「竹鍋(はまぐりのお吸い物)」。「パフォーマンスがあるんです」と言うと、ご主人は、お吸い物の入った竹筒の中に熱した炭を投入! ジュジューっと音を立てて湯気があがり、ふたりは「石焼きみたい!」と大喜び。出汁の利いたお吸い物に喉を鳴らし、炊き立てのつやつやご飯「天皇陛下献上米」もいただいて、大満足。「えびすさん、料理を遊んでるね!」と言うきたろうさんに、「じゃなきゃ、楽しくないじゃないですか!」と返すご主人。酒場とは、「お客様に愛されて、楽しく過ごしてもらう場所」。“えびす様”の遊び心を満喫し、江戸時代にタイムスリップ!!