東京都品川区南大井で創業43年目!
夫の脱サラをきっかけに
第二の人生を謳歌する夫婦の物語
ほっとする家庭の味「鯖の味噌煮」
東京都品川区南大井にやってきた、きたろうさんと武藤さん。ふたりが向かった今宵の酒場は、昭和56年創業の「居酒屋 かっちゃん」だ。繁華街のはずれにあるにも関わらず、夜な夜な酒好きが集まる人気店を切り盛りするのは、ご主人の森一夫さん(81歳)と妻のヤエ子さん(79歳)。気取らない昭和レトロな雰囲気の店内で、きたろうさんと武藤さんは、さっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは「ギョウザ皮包み焼き」。ヤエ子さんが「餃子じゃないんです。包み焼き」と言う一品は、こんがりきつね色の焼き上がりで、パリッと齧れば、「カレーの風味!」と武藤さん。鶏ササミや玉ねぎを使った餡は、カレー粉やヨーグルト、チーズなどで味付けしてあり、おつまみにもぴったりだ。
店は創業43年目。ここは、ご主人が70年以上住んでいる自宅だそうで、大井町で生まれ育ったご主人は、高校卒業後、大手商社で約20年間勤務していたという。「酒場は39歳の時、全く素人で始めました。商社勤務で、あちこち飲み歩いて、いろいろお手伝いみたいなこともしてたのでね。意外と違和感なかったんだよな」と振り返り、「ずっと二人で、愛し合ってやってます」とサラリと口にする。そんな二人が結婚したのは、今から54年前。出会いは、「会社がお互い近かったの」とヤエ子さん。「付き合ってる当時から、一生サラリーマンを続けることはないって言ってたんですよ。だから酒場開業にも全く反対しなかった」。結婚から12年後、商社を退職したご主人は、「かっちゃん」を開業し、ヤエ子さんと共に第二の人生を歩み始めたのだ。
次の料理は「鯖の味噌煮」。味の滲みた鯖は身も柔らかく、「家庭的な味で旨いな〜」と、きたろうさん。「修業はしてません。家庭料理の延長です」というヤエ子さんが、ほとんどの料理を作るそうで、オススメメニューにも、「豚肉生姜焼」、「子持ちカレイ煮付け」、「長芋正油バター焼」など、“お母さんの味”が並ぶ。一方、ご主人は、「僕は広報係」と陽気に笑い、「実は、奥さんの方がしっかりしてるんだよ!」と言うきたろうさんに、「そうなんです! 当たり!」。
店の一番人気! 名物「マカロニグラタン」
店名の“かっちゃん”は、一夫さんの愛称だ。「“ヤエちゃん”でもよかったけど、一応、俺が旦那だからね」とご主人。ヤエ子さんは、「私ね、この人に恥をかかせちゃいけないって気持ちがあるの。それだけは、肝に銘じてる」と夫婦円満の秘訣を語り、「いい女だねぇ!」ときたろうさんを唸らせる。ご主人も「涙がでるね〜」と喜ぶが、武藤さんに、“元気の源”を聞かれると、「やっぱり女性が好きなんだよね。異性の目を意識するのは大事。だからカッコつける!」と目を輝かせた。
ここで、居酒屋では珍しい「マカロニグラタン」が登場! ヤエ子さんが一から作るグラタンは、しっとりとクリーミーで、店の一番人気。武藤さんも、とろけるようなホワイトソースに、「う〜ん、おいしい!」と頬が落ちそうだ。
「南大井は情のある街」と言う主人は、幼少の頃から、毎年、地元のお祭りで神輿を担ぎ、80歳を超えた今でも現役! 店には、共に神輿を担ぎ、ご主人を慕う地元の後輩たちがたくさん訪れる。「お神輿ってね、担ぎ方があるんですよ。それを若いのに教えないと!」と熱く語り、武藤さんを見て「担がせたいなぁ」と、前のめり!?
さて、チューハイをお替わりしたふたりが、続いていただくのは、「鳥ももとまとソース」。塩胡椒で味付けした鶏モモ肉をフライパンで焼き上げ、自家製トマトソースをかける。「皮がパリパリ! トマトソースのさっぱり感が合いますね」と、舌つづみを打つ武藤さん。きたろうさんは、「もう、どんな料理を出してくれても、この店は、ふたりがいればいいよ!」と、お腹も心も大満足!
一番大切にしているのは、「やっぱりお客さんだよね」とヤエ子さん。「いろんな人と知り合えるのがすごくいい。サラリーマンの女房として過ごしてたら、全くこういう世界もないだろうし、やってよかったなと思いますね」と充実した様子で話し、常連さんも、「夫婦仲良くて、アットホーム」、「ママが作ってくれる料理が美味しい」、「最高ですね! 明日の活力になる」と絶賛だ。
最後の〆は、「スペイン風オムレツ」。ウインナーや玉ねぎ、ミックスベジタブルなど具沢山の手作りオムレツに、「お母さんの優しさを感じるね」と、ほっこり気分を堪能するきたろうさんと武藤さんだった。
出会いから60年。ご主人はヤエ子さんのことを「優しいですよ。俺も悪いことばっかりしてたから……。それを許してくれて」と感謝の気持ちを滲ませる。ヤエ子さんは、「この人、見た目と違うんですよ。すごくいい人。私に対する思いやりがある。結婚してよかった!」と言い切って、ご主人は「困ったなぁ(笑)。こんなに褒められて」と照れるばかり。そんなふたりにとって、酒場とは「お客さんと一緒に楽しむ場所」。仲良し夫婦とお客さんが和気あいあいと集い、笑顔があふれる人情酒場である。