東京都台東区清川で大正15年創業!
約一世紀続く歴史の重みを背負い
老舗酒場の暖簾を守り続ける男の物語
新鮮! 絶品!「おまかせ刺し身三点盛り」
東京都台東区清川にやってきた、きたろうさんと武藤さん。日本唯一の「靴の神社」を名乗る玉姫稲荷神社(760年創建)でお詣りをすませ、さっそく今宵の酒場へ。お邪魔したのは、きたろうさんもプライベートで訪れたことがある、大正15年創業の名店「遠州屋髙尾」だ。店を切り盛りするのは、五代目主人の髙尾太一さん(44歳)。ふたりは、創業97年目を迎えた老舗酒場の歴史を感じながら、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」
最初のおすすめは、「おまかせ刺し身三点盛り」。この日は、カツオ、赤貝のひも、ブリだ。旬の戻りガツオは洋がらしをつけていただいて、「さっぱりしておいしい。合いますね!」と武藤さん。きたろうさんは、コリコリとした食感の赤貝のひもに、「新鮮! 贅沢だなぁ〜」と感激する。
店の創業者は、太一さんの曽祖父・浅野秀光さん(享年86)。二代目を祖父・浅野浩二さん(享年82)が、三代目を叔父・浅野正一さん(享年70)が継ぎ、平成19年には、父・正行さん(73歳)と母・陽子さん(71歳)が四代目を受け継いだ。太一さんいわく、「曽祖父は僕が小学校低学年頃まで健在で、優しくて、いなせなおじいちゃんでした。二代目は本当に真面目な印象で、三代目はとにかくハイカラだった」。そして、太一さんが五代目を継いだのは、今から12年前、32歳の時だった。
ところで、店の天井には、なぜかミラーボールが! 太一さんが去年設置したそうで、天気が悪い日や不幸なニュースがあった時など、お客さんの気持ちを晴らすための演出に使用するとか。せっかくなので、回してもらうと、なんと手動!? 五代目主人のチャーミングな一面が垣間見え、思わず吹き出すきたろうさんだ。
次のおすすめは、自家製トマトソースをかけた「ポテトサラダ」。代々受け継がれる味をご主人がアレンジした一品に、「酸味があるかと思ったら、意外と甘くて、フルーティー!」と、武藤さんも気に入った様子だ。現在、メニューは約50種類。昔からの味を引き継ぎつつ、少しずつアレンジを加えて提供し、「鳥唐」や「ニラ玉」、「自家製味つきコロッケ」など、定番料理もしっかりと揃える。
老舗の味! トロトロの「なす特製みそ炒め」
太一さんとともに、厨房で料理の腕を振るうのは、弟の正太さん(36歳)。3年半ほどカナダの飲食店で働いたのち、去年帰国し、太一さんのもとで働き始めたそうで、「兄は優しいですね。生意気な口きくとたまに怒られますけど」と笑顔を見せた。さらに、この日は、4年前にリタイアした四代目女将(母)の陽子さんも来店中で、「私は、息子が店に入るのは反対でした」と話す。なんでも、太一さんは30歳まで都内の洋食レストランでウエイターとして働いていたそうで、「なんでやめちゃうの!?」と思ったとか。しかし、太一さんは、「お世話になった方に、『長男のおまえが継ぐのが筋では?』と言われて」、心を決めたという。陽子さんは、「揉め事もあるかもしれませんが、兄弟で意見を言い合って、尊重しあってやっていってもらえれば」と息子たちにアドバイスを贈った。
続いては、「なす特製みそ炒め」を。代々伝わる老舗の味に、武藤さんは、「なすがトロトロ。これはお酒がすすむ!」と、チューハイをゴクゴク! そして、ご主人は、お口直しにぴったりな「パプリカぬか漬け」を用意してくれた。先代から「恋人だと思え」と教わったという糠床は50年以上受け継がれ、「糠が主張しすぎず、謙虚な感じがするな」と、きたろうさんもその味に納得するばかり!
次に登場したのは、「牛はつステーキ」! 太一さん考案の人気メニューで、ピーナツバターとニンニク醤油の2種類の薬味でいただく。一口食べて、「ピーナツバターの香ばしさと合いますね」と舌つづみを打つ武藤さん。きたろうさんも、「これがハツ!? 旨いなぁ……」と唸るばかり!
創業から97年。中には40年以上通う筋金入りの常連さんもいて、最近は女性客や若いお客さんも増えたという。ご主人は、「店を継ぐ時は、そこまでプレッシャーを感じませんでしたが、継いでからじわじわと……。『おいしくない』とか『昔はこうだったのに』とか、いろいろ非難もあった」と明かす。それでもしっかりと五代目を継ぎ、今では、常連さんたちから、「大将と店の雰囲気が魅力」、「安心感が違う。料理もおいしいのが当たり前!」、「僕はここのご飯で育ったので、実家みたいなものですね」と、お店への愛があふれる。
最後の〆は、「チャーハン」。赤と白の2種類あり、武藤さんは赤、きたろうさんは白をチョイス。白チャーハンは、昔ながらの味わいで、「いいね〜」と、うれしそうなきたろうさん。赤チャーハンは、福神漬けと紅生姜をたっぷりと混ぜてあり、武藤さんは、「紅生姜のさっぱりした風味がいい。これもお酒が進む!」と、チューハイをゴクゴクと飲み干した。
「まずは、創業100年を目指したい」と言うご主人にとって、酒場とは、「人と人をつなぐ場所」。大正、昭和、平成、令和と4つの時代を見つめてきた老舗酒場の暖簾をこれからも守り続けていく。