創業者の父から三代目を受け継ぎ
47歳で主婦から酒場世界へ!
第二の人生を歩み始めた女将の物語
創業の味をアレンジ! 「塩もつ煮込み」
今宵の舞台は、東京都新宿区中落合。新宿区と中野区の区境に位置し、都営大江戸線と西武新宿線の中井駅から少し離れると閑静な住宅街が広がる落ち着いたエリアだ。きたろうさんと武藤さんがお邪魔するのは、創業36年を迎えた「居酒屋 田(でん)」。2年前に三代目を継いだ女将の熊谷理江さん(49歳)が、ひとりで店を切り盛りしている。古き良き大衆酒場の雰囲気が漂う店内で、ふたりは、さっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、「くじら刺(赤身)」。くじら大好きなきたろうさんは、「まさか、くじらが出てくるとは! チューハイに合うんだよ!」と大喜び。塩とごま油で食して、「これは幸せだ〜」と至福の表情を浮かべる。
店は、昭和62年に、女将・理江さんの父・教司さんが創業した。一人娘だった理江さんは、高校を中退後、25歳で結婚。人材派遣会社で働きながら、主婦として家庭を守っていた。店を継ぐ気は全くなかったそうだが、「父は九州男児。強引な性格で、根負けした」という。「70歳で引退すると決めていた父に、『居酒屋はいいぞ! 毎日楽しくて、儲かって、言うことない!』と誘われて(笑)。でもまだ子供たちに手のかかる時期で断り続けてたんです。そしたら、父は、当時働いていた礼子ママ(下坪礼子さん)に、『2年後は、絶対、理江に継がせるから!』と二代目を任せて、押し切って……」。そんな父の引退から3年後、子育てがひと段落した理江さんは、三代目女将として、第二の人生をスタートさせたのだった。
次のおすすめは「塩もつ煮込み」。事前にモツだけ煮込んでおき、注文を受けてから、その都度仕上げる。昔は、塩・胡椒だけの味付けだったが、「お客さんからイマイチとの声をいただいて」と、女将がしょうがを加えてアレンジ。そのさっぱりとした味わいに、「お母さんの味って感じ」と、うれしそうなきたろうさん。武藤さんも「これは体が温まって、女性も好きそう」と喉を鳴らした。
実は、このもつ煮は、地元のお祭りでも振舞われているとか! 父・教司さんが20年前から始めたサービスで、お神輿の担ぎ手に、もつ煮と焼鳥を無料で提供している。「お店は地域の方がいないと成り立たない。たくさんの方に食べていただき、喜んでもらえてありがたい」と女将。祭りの時は、毎回、常連客も手伝ってくれるそうで、祭りの後は、地元の人たちが店に集まるのも、父親の代からの変わらぬ風景。地域との温かいつながりが、店の人気を支えているのだ。お客さんからは、“理江ママ”と呼ばれている女将は、「夜の女になった気分!」とおちゃめに笑い、「店をやってて楽しい。父の言ったとおりでした。ちょっと悔しいけど、今のところ、父の思いどおりですね!」。
〆はボリューム満点の「そばめし」!
さて、ここで、「豚バラ味噌漬け焼き」が登場! 青唐辛子や生姜などをブレンドした特製味噌に丸一日漬け込んだ豚バラをこんがりと焼き上げる。「後からピリっとした感じがあって、おいしい〜」と武藤さん。きたろうさんも、「旨いっ! 豚が高級食材になってるよ」と大満足だ。
主婦として家庭料理は作ってきた女将だったが、「お店ではおいしい料理を毎回同じ味で出さないといけない。それまで経験がなかったので不安だらけでした」と振り返り、「コロナでお客さんが全く来ない時もありましたが、徐々に戻り、父の頃からのお客さんも通い続けてくれている。ありがたいことです」と感謝の思いを口にした。そんな女将の料理へのこだわりは、使う食材と味付けのバランス。オススメメニューも、「せせりニンニク醤油」、「季節のピザ(チョリソー&トマト)」、「ねぎ玉」、「きのこ酒蒸し」など、味の幅も広い様々な料理が並ぶ。
続いては、女将の代から始めた新メニュー「牛タケノコ炒め」を。特製醤油だれが味の決め手! 武藤さんは、アツアツを頬張って、「ご飯が欲しくなる! タケノコとピーマンとお肉の食感が全部違って、楽しい!」と止まらない。
「今となっては、父親の手際よさやお客様への気配りも、私なんかよりきちんとやっていたな思う」と女将。そんな教司さんは、75歳を超えた今も地元のお祭りで神輿を担いでいるそうで、毎週金曜日には店に飲みにやって来る。理江さんの働きっぷりを伺うと、「私よりいろいろ考えて料理を作っている点もあるし、よく勉強してる。いいんじゃないですかね!」と太鼓判を押した。
最後の〆は、「そばめし」。細かく刻んだそばめしの上には半熟の目玉焼き! きたろうさんは、「長い人生で、そばめしは食べたことないな」と言いながらスプーンで口に運び、「旨い! 味付けにお母さんの優しさがでてるね」と気に入った様子。武藤さんも「屋台を思い出しますね」とうれしそうに味わった。
女将にとって、酒場とは、「人と人が出会う場所」。地元に根差し、お客さんに愛されてきた店だからこそ、「せっかく継いだのにすぐ潰してしまったら、父も悲しむ。できるだけ長く続けたいし、三代目を継いで後悔はない!」と、うれしい言葉を聞かせてくれた。