番組初の1時間スペシャル。しかも東京を離れ、京都で2軒のはしご酒に気合いが入る、きたろうさんと西島さん。その1軒目は京都の台所、錦市場の入口近くにある松川酒店。京都の酒好きには、つとに知られる名店中の名店。いつも店はいっぱいで、一人飲みのサラリーマンや、ご近所の黒帯級酒好きご老人、はては外国人観光客までが、等しく品の良い飲み方をしている。その空気を直ちに察知したきたろうさんは、「いいよ、これはいい!」と、店に入るなり上機嫌。
酒屋の立ち飲みは初めてという西島さんが、五代目ご主人の松川禮三さんに「どういうシステムなんですか?」と訊くと、「酒はここにありますから勝手に出して、お盆(トレー)のあるところで。つまみはまぁとりあえず、そこにある乾き物をお食べ下さい」とのこと。酒屋だけに酒の種類はなんでもござれ。昔の駄菓子屋か、パン屋といった風情の、年季の入ったショーケースには、定番の乾き物が並ぶ。そしてお勘定は、そのトレーに残っている缶や瓶で行う。そのざっくばらんなシステムに、西島さんは目を白黒させつつ、毎日通っているという常連客と焼酎ハイボールで乾杯。
松川酒店は明治21年の創業で127年の歴史があるが、その前は造り酒屋で、時代はさらに江戸時代まで遡る。「いつもお客さんでいっぱい? 立ってりゃ50人くらい入るよね」と、きたろうさんが言うと「そうですね。人間、割とキレイなところってダメなんですよ。こういう所でさ、肩をつつきあわせながら飲んでるのがいいんだよ、やっぱり」と五代目。それを聞いて、ソーセージと焼酎ハイボールのコップを持ち、ウンウンと頷く西島さん。「五代も続けてこんな事やってんだから、真面目に商売やってりゃ、蔵が建つだろうと思うんですけどね」と笑う五代目に、「商売より酒を飲む方が好きなんじゃないの」と、ゆで卵を頬張るきたろうさん。「昔はつまみも何も無かったですよ。そこに塩と味噌が置いてあってね、みんな味噌に指突っ込んでアテにして飲んでたよ」。そう言われると、ちゃんとしたおつまみは無いのかと思いきや「あるよ、すじ肉を炊いたのが」。それを訊いて「しっかりした料理が出てきてびっくりしちゃった!」と、きたろうさん。しかもこのすじ肉の煮込みが実に旨い! こんなに自由で意外性に溢れる酒場が、ほかにあるだろうか……。
五代目の経歴を聞くと、これまた実に面白い。先代と喧嘩の末、家出同然で飛び出した五代目。「飛行機に乗りたくってね、運輸省の養成所に入ったんだけど、私は真っすぐ飛んでるつもりが、どうも左の方に行っちゃう(笑)。お前を乗せておくと危ないから降りろと言われて。でも、飛行機の近くにいたいって言ったら、航空自衛隊を紹介してもらえて、ずーっと管制官ですよ」という。「でも、店に戻ってきたんだ」と、きたろうさんが言うと「だってしょうがないよ、親の具合が悪くなったからね。だから店は古くても、私がやり始めて15年くらい。新参者ですよ」と笑う五代目。きたろうさんが「若い人がここに来て、ご主人に悩み相談とかしない?」と訊くと、「僕みたいなちゃらんぽらんが、人の人生なんか教えられへん。“ちゃらんぽらんでも、何とかなるよ”とか……、無責任に言えないよね。“真面目に働きなさい”とも、よう言わへんしね(笑)」。
最後に、あるかどうかちょっと不安になりながら、必ず食べて欲しいメニューを訊いてみると、「おでんの餃子天かな」とのこと。「餃子天? そんなのがあるの。じゃあ俺は椅子。椅子を注文したいなぁ」と、きたろうさんはすっかりご機嫌。餃子天を食べて「旨い! 旨いけど自分で作ってる訳じゃないんでしょ」と突っ込むと、五代目も大笑い。いやいや、餃子天は買ってきたものかもしれないが、出汁をとったり、煮込んだりしてのこの旨さ。「評判がいいの、分かるよ。」と、いい気分のきたろうさん。
最後に五代目は言った。「人間、そんなにキチンキチンと生きられへんでしょ。だから酒場に行くわけで。飲まへん人には、無駄な時間やもん」。そんな五代目の酒吞みへの優しさに包まれた松川酒店は、やっぱり名店なのだ。
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自分の飲みたい物を、棚から出して自由に飲むスタイル。酒屋だけに、品数の充実度は、普通の酒場とは比べ物にならない。
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お会計は、トレーに残っているお酒の缶や瓶、おつまみの袋や皿で行われる。
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牛すじとこんにゃくを丁寧に煮込んだ、松川酒店の名物。お好みで七味をかけてどうぞ。すじ肉の煮込み450円(税込)
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餃子天、串団子、糸こんにゃく、がんもどきなど。おでん各種150円(税込)
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お金儲けをしようとすると、お客さんが引く。悪口言いながらでも“長く来てもらうのが一番”というのが五代目の考え方。
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酒を飲まない人には、酒場の時間は無駄な時間でしかないが、酒を飲む人にとっては、ご飯を食べるような大切な生活の時間。酒呑みなら、この話、頷けるはず。
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住所
電話
営業時間
定休日 -
京都府京都市中京区高倉通錦小路上ル貝屋町569−2
075-221-0817
16:00〜23:30
日曜、祝日
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