“千ベロ”の聖地・東京都葛飾区立石!
53歳で酒場の世界に飛び込んだ女将が
お客さんに支えられて守り続ける人情酒場
手作りの日替わりおばんざいがズラリ!
今宵の舞台は東京都葛飾区立石。大衆酒場が建ち並び、呑兵衛に愛される“千ベロ”の聖地だが、現在、京成立石駅北口地区は再開発工事が進む。そんな立石で、きたろうさんと武藤さんがお邪魔したのは、立石仲見世商店街にある「たみちゃん」。店をひとりで切り盛りするのは、“たみちゃん”こと女将の佐藤民子さん(76歳)だ。古き良き昭和レトロな雰囲気の店内は常連客で賑わい、「立石らしい!」とテンションが上がるふたり。さっそく、厨房を囲むカウンターに座って、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」
カウンターに並ぶ大皿には、女将が手作りする10種類以上の日替わりおばんざいがズラリ! 「ハンバーグ」、「里芋とがんも」、「すき焼き煮」、「海老とニラの玉子炒め」、「ひじきの煮物」など、目移りしつつも、まずは、具だくさんのポテトサラダをいただいて、「たみちゃん、味付け上手いね!」、と感激するきたろうさんだ。
立石で生まれ育った女将の民子さんは、19歳で結婚し、3人の子宝に恵まれるも25歳で離婚。離婚後は、父親が営む家業のうどん店を手伝いながら、保育園の補助などアルバイトを掛け持ちし、必死で働いたという。そんな苦労を感じさせない若々しい女将に、「たみちゃん、苦労が顔に出ないタイプだね」ときたろうさん。女将は、「忙しかったけど、楽しかった。苦労とは思ったことないの」と振り返った。
続いては、開業以来の名物メニュー「おでん」! 玉子としらたきをいただくも、「大根はないの?」ときたろうさん。女将は、「売れちゃって……。ごめんなさいね」と申し訳なさそうに笑い、武藤さんは、「でもおいしい。お出汁が滲みてる」とほっこり。きたろうさんも「旨いなぁ」と喉を鳴らした。
店は創業23年目。女将は53歳の時、経営方針の違いで28年勤めた実家のうどん店を退職し、平成12年に「たみちゃん」を開業。第二の人生をスタートさせた。「開業当初から、バイトしていた保育園の先生方やお母さん方が来てくれて。そういう人たちに支えられてきました」と女将。保育園でお世話した園児が、大人になって人生相談しに来ることもあるそうで、「たみちゃんは、頼れるお姉さん」、「たみちゃんが元気に働いているところに行けるのが幸せ」と、常連さんたちにとって、女将は心の拠り所になっている。
きたろうさんが命名!? 「キツネの贈り物」
ここで登場したのは、ピーマンとハム、油あげ、椎茸の炒め物。まだ名前がないそうで、「よかったら考えて下さい」と女将。きたろうさんは「旨いっ! 油あげがキモだね」と味わって、「キツネの贈り物」と命名。そのセンスあるネーミングに大喝采が巻き起こった!
ところで、「再婚は?」ときたろうさん。女将は、「好きな人はできたけど、死んじゃったんです……」。カウンターの端に飾られた写真には、優しそうに微笑む佐藤博さん(享年73)の姿が写っている。40年前に実家のうどん店で知り合い、「たみちゃん」開業以来の常連さんだったそうで、「ずっと仲良しでした。でも3年前にガンになって。私はそばで看病してあげたくて、毎日通ったんですけど、書類に“友人”と書くのが嫌で。博さんと籍を入れようって話して、すぐに婚姻届けを出しました」。そんなふたりに、常連さんたちは結婚指輪をプレゼント。今でも女将の左薬指にはその結婚指輪が大切にはめられ、博さんの写真の隣には、喪中ハガキ用に撮影したというウエディングドレス姿の女将の写真が並んでいる。
続いては、「チーズ入りコロッケ」を! 常連さんも絶賛するコロッケは、サクサクのホクホクでチーズがとろ〜り! 「ポテサラもだけど、じゃがいもが旨い!」ときたろうさんを唸らせるじゃがいもは、近くの八百屋さんで購入している。常連さんは、「食材は、全部、たみちゃんが立石近隣の専門店をあちこち回って仕入れてる。だから、ここに来れば立石全部が食べられるんです!」と熱く語ってくれた。
最後の〆は、「穴子ご飯」。本返しや酒などを入れて炊き上げた米に、刻んだ国産穴子をたっぷり混ぜ合わせた贅沢な〆に、「穴子がふっくら。甘くておいしい!」と思わず笑顔になるふたりだった。
現在再開発が進む北口地区に続き、「たみちゃん」がある南口西地区も令和9年度に再開発工事が着工予定だという。「お客さんたちは、長くやってほしいと言ってくれるんです。それが励みなので、店を続けたい。再開発で形がかわっても、立石の良さが残ることを願っています」という女将。酒場とは、「心を売るところ。お互いに心を通じ合わせて、信頼を築き、ステップアップできる場所でありたいですね!」。
訪れた人の心が温かくなる、下町の人情酒場である。