東京都世田谷区赤堤で44年!
変わりゆく街で愛され続ける老舗酒場
二人三脚で暖簾を守る男達の物語
創業当時からの名物「いわし梅揚げ」
本日の舞台は、東京都世田谷区赤堤。きたろうさんと武藤さんは、東急世田谷線・下高井戸駅を中心に延びる下高井戸商店街(通称 日大通り)を歩いて、昭和55年創業の「居酒屋たつみ本店」へ。店を切り盛りするのは、二代目主人の前田義朗さん(54歳)と厨房で腕をふるう店長の佐々木博正さん(64歳)だ。店内は1階から3階まで合わせて約160席あり、お客さんが思い思いの時を過ごせる広々とした造り。きたろうさんと武藤さんは、カウンター席に陣取って、さっそく、焼酎ハイボールで「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、豊洲市場から仕入れた鮮魚の「刺身盛合せ5点盛り」。この日は、マグロ赤身、生サーモン、マダイ、ブリ、ホタテ。きたろうさんは、マグロを食べて、「やっぱり赤身旨いな!」と舌つづみ。武藤さんは、「マダイの上品な甘みがおいしい〜。ブリも脂がのってる!」と感激する。
「居酒屋としては44年目。もとは、たいやきと甘味の店だったんですよ」とご主人の義朗さん。昭和43年に義朗さんの祖父母が創業した甘味処「たつみや」を先代である父・勝弘さんが改装し、昭和55年に佐々木さんと「居酒屋たつみ本店」を開業したという。店長の佐々木さんは、「私は青森から16歳で上京して、甘味処時代から働いています。先代の勝弘さんとは49年の付き合い」と話し、義朗さんは「僕が幼稚園の時からずっと一緒。もう、お兄ちゃんみたいなもんですわ」と、家族同然!? そして、現在も店の隣には、「たつみや」があり、義朗さんの母親と妻が名物のたいやきを受け継いでいる。
次のおすすめは、創業当時からの名物、「いわし梅揚げ」。梅肉と大葉を挟んだいわしを串に刺して揚げる。武藤さんは、豪快にかぶりついて、「ほくほくでジューシー! 梅がさっぱりしていて、あっという間に食べちゃう!」と幸せそうにモグモグ。きたろうさんも、「梅の香りがすごい! めっちゃ旨っ!」と絶賛だ。
酒場への転向にあたり、先代の勝弘さんは下北沢の日本料理店で1年間修業。佐々木さんは独学で料理を身につけたという。勝弘さんは70歳で引退し、現在は80歳を超えて健在で、佐々木さんは、「先代は人のために一生懸命頑張ろうという方」と尊敬する。一方、都内の大学を中退し、22歳から先代のもとで修業した義朗さんは、「僕にだけ特に厳しかった」と苦笑い。二代目として期待されていると感じつつも、修業を始めて10年後、「あまりの厳しさに、現金20万だけ掴んで飛び出して。昔うちで働いていた人が札幌で店をやっていたので、そこに転がり込んだんです」。すべてを投げ出して家出したご主人は、そのまま札幌で修業。店に戻ったのは5年後の37歳の時だった。そして、「その5年間が、店を継いでいく力となった」と、平成24年に43歳で二代目を受け継ぎ、「プレッシャーはすごくあります。従業員も約30人いて、全部背負っているので、責任は重大」と、全力で邁進している。
〆には「たいやき姿揚げ」を!
ここで、次のおすすめ「おまつり納豆」が登場! 納豆の上には、マグロやイカ、たくあん、山芋、オクラ、卵黄など、具材たっぷり! 豪快に混ぜてズズズーっといただけば、「旨いっ! お祭りしてるよ(笑)」ときたろうさん。武藤さんも「口の中が楽しいですね」と大喜びだ。
現在、下高井戸駅周辺は再開発計画が進んでおり、昭和31年開場の下高井戸駅前市場も今年3月に閉場予定。街は大きな変化を迎えようとしている。ご主人は、「ここは大丈夫なんですが、いろんなことを教えてもらった場所が、どんどんなくなっていく」と、寂しさを滲ませる。
そんな変わりゆく街の老舗酒場で、続いていただくのは、「牛すじ鍋」。40年以上変わらぬ味で常連客から愛される一品に、きたろうさんは、「これは温まるなぁ」とほっこり。武藤さんも「お肉トロトロ。贅沢だけどほっとする味」と目を細めた。また、昔からのメニューに加えて、新しいメニューも随時追加。「ジャンボオムレツ」、「自家製焼ギョーザ」、「自家製厚あげ」、「自家製生ハム」など、安くておいしい様々な料理が揃っている。
最後の〆は「たいやき姿揚げ」を! 「たつみや」のたいやきをそのまま揚げたデザート感覚の一品は、「昔、常連さんが、隣でたいやきを買ってきて、油で揚げてほしいと言うので」と作り始めたとか。武藤さんは、「ドーナツみたい」とうれしそうに口に運び、「外側はカリっとして、おいしい〜」と大満足だ!
酒場開業から44年。“縁の下の力持ち”として、二代にわたり支え続ける佐々木さんと、それを心からリスペクトする義朗さん。お互い尊敬しあい、意見を出し合って店を続けるなかで、義朗さんが大切にしているのは、「お客さんのことを一生懸命考え、誠実に前を向いてやっていくこと。酒場とは、お客さんと触れ合える大事な場所であり、お客さんが心を休める場所ですね」。佐々木さんも、「お客さんにとっての憩いの場であってほしい」と話し、きたろうさんは、「再開発があっても、酒場はつぶしちゃダメだね」と、しみじみ感じ入るのだった。