魚市場の仲買人だったご主人が
63歳で酒場の世界に飛び込み
親子3人で守り続ける人気酒場!
プロの目利き! 絶品「お刺身盛り合わせ」
今宵の舞台は、東京都足立区北千住。江戸時代には「千住宿」と呼ばれ、江戸近郊最大級の宿場町として賑わった街で、きたろうさんと武藤さんがお邪魔したのは、宿場町通り商店街(旧日光街道)にある「創作和食 粋心亭」。店を切り盛りするのは、ご主人の菅原建三さん(81歳)と息子の宏さん(50歳)だ。黒い板前服に身を包み、口ひげをたくわえた建三さんに「カッコいいねぇ」と見とれながら、ふたりは、さっそく、焼酎ハイボールを注文して、「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、手作りの「嶺岡豆腐」。千葉県南房総発祥の郷土料理で、牛乳や生クリーム、ねりごま、葛粉を火にかけて混ぜ、冷やし固めて作る。大豆の豆腐とは違い、もっちりとした食感にチーズのような風味もあり、「おいしい! 女性が好きそう!」と舌つづみを打つ武藤さんだ。
店は創業18年目。オススメメニューには、「銀ムツの西京焼き」、「和風ひとくちピザ」、「揚げ出し豆腐」などの絶品料理が並び、料理は主に宏さんが作り、建三さんは刺身を担当している。「大将は何もしないでしょ! お店の看板って感じだもんね」と言うきたろうさんに、建三さんは「いやいや、看板はうちの母ちゃん」と、妻のトモ子さん(84歳)を紹介。6年前に怪我で足を悪くしたが、週末には元気に店に立ち、接客を担当している。きたろうさんが、「大将は若い頃、相当いい男だった!?」とたずねると、「そうですね!」と即答するトモ子さん。54年前に結婚したふたりは、「社交ダンスで知り合った」と宏さんが教えてくれた。
ところで、建三さんは、酒場を始めるまでは足立市場の仲買人だったとか!トモ子さんの実家が営む仲卸会社に約30年勤務し、定年退職後、平成17年に、トモ子さんと宏さんとともに「粋心亭」を開業。63歳で第二の人生を歩み始めたのだ。
そんな建三さん自慢の「お刺身の盛り合わせ」が次の一皿。81歳を迎えた今も、毎朝、足立市場に仕入れに行くそうで、仲買人時代から約48年通い続ける。仲卸業者からも、「菅原さんは僕らなんかより大先輩!」、「逆に良いものしか出せない」と一目置かれる存在なのだ。そして、この日の盛り合わせは、ズワイガニ、マグロ赤身、中トロ、カンパチ、コウイカ、タコ。大きくて厚めに切った刺身は、どれもこれも鮮度抜群の絶品! とにかく「おいしい!」という言葉しか出てこないふたりであった。
肉のプロが作るドイツ料理「アイスバイン」
魚のプロ建三さんに対し、宏さんは、調理師専門学校を卒業後、都内の精肉店に就職したという肉のプロ。いくつかの店舗で店長として働いたが、「父がやりたいと知ってたので」と、父親と酒場を開業するために29歳で退職し、酒場で修業。開業に備えたという。今では店の経営管理も引き継いだ宏さん。建三さんは、「息子が手伝ってくれて、助かりっぱなしです」と感謝するのだった。
次のおすすめは「黒毛和牛の肉じゃが」だが、出てきたのは、洋風の一皿!? 驚くふたりに、宏さんは、「ポテトは揚げて、色合いにトマトを入れた、“肉じゃが風”です」と説明。「珍しい!」と興奮気味に食べた武藤さんは、「確かに肉じゃがですね! おしゃれ〜」と感激し、「家庭料理だけど、お家では食べられない!」と大喜びだ。
ここで登場したのは、豚の骨付きスネ肉やソーセージなどをコンソメベースのスープでじっくり煮込んだドイツ料理「アイスバイン」! 「初めて食べる」という武藤さんは、「お肉の旨みがすごく出てて、おいしい〜」と目を細め、きたろうさんは、「お肉が柔らかい! ちょっとしたレストランだね」と感激だ。
親子3人で開業して18年。今では多くの常連客に愛される人気店となった「粋心亭」。開業以来通う女性の常連客は、「家族の絆や、お人柄に魅かれて来ています。私はいつもお母さんとお話しして、すごくほっとする」と笑顔を見せる。そんな常連さんたちに感謝しながら、宏さんは、「お互い言いたいこと言いあってますが、元気なうちは、親子3人でやっていきたい」と話す。それを聞いて、きたろうさんが、「親父、うれしい?」と聞くと、建三さんは、「はい」と静かに頷き、「多くをしゃべらない寡黙な感じがまたカッコいい」と唸るきたろうさんに、「かっこいい男性というのは、顔じゃない。仕草かな」とつぶやくのだった。
最後の〆は「焼きおにぎり茶漬け」。土瓶からアツアツの出汁を焼きおにぎりに回しかけていただけば、「柔らかいところと、パリッとしたところがあって楽しい!」と大満足の武藤さん。刻んだ梅干しに、しらす、しそを混ぜたおにぎりをオーブンで焼いてあり、すっきりした風味もたまらないおいしさなのだ。
建三さんにとって、酒場とは、「みんなが幸せになれる場所」。宏さんは、「一日の疲れが取れる場所。次の日もがんばってもらえるような、お酒や料理が提供できれば」と話し、きたろうさんは、「いいじゃないですか! お客さんのことを考えてくれてるね」と満たされた気分で店を後にした。