海外で修業を重ねたイタリアンシェフ
大衆酒場に魅了され43歳で転身!
人気酒場を作り上げた男の物語
絶妙なレア感! 「黒毛和牛炙りカルパッチョ」
東京都板橋区上板橋にやってきた、きたろうさんと武藤さん。さっそく今宵の酒場、「酒場ワタナベ」に向かうが、到着した店の入り口には、「フィリピン風居酒屋」という別の店の看板が!? 「どういうこと?」と首をかしげながら店内に入るふたりをご主人の渡邉裕之さん(44歳)が笑顔で迎えてくれる。「去年の6月に居抜きで入ったんですが、お金かけたくなくて、看板は以前の店のまま……」。今後も変える予定はないとか! そんなご主人に、ふたりは、焼酎ハイボールを注文して、賑やかな常連さんたちと一緒に「今宵に乾杯!」。
最初のおすすめは、前菜「ナベサラ」! おすすめの前菜8種をサラダ仕立てにしたワンプレートだ。タコさんウインナーやレバーの生姜煮、蓮根チップやポテサラなどが美しく盛られ、「カラフルでかわいい!」とうれしそうな武藤さん。ひとつずつ味わって、「おいしい! しっかりした味でお酒がすすむ」と目を輝かせた。
ご主人の渡邉さんは、もともとイタリアンのシェフ。「若いうちに海外へ」と、24歳で単身ドイツに渡り、イタリアンレストランで働くうちに、イタリア料理に魅了され、一年後、本場イタリアでの本格的な修業を開始した。「ナポリとローマの間にある田舎街でした。修業はつらくはなかったですが、最初は言葉が分からなくてケンカもできなかった。だから悪口から覚えました(笑)」と振り返る。
続いてのおすすめは、「黒毛和牛炙りカルパッチョ」。薄くスライスした牛肉を軽く炙り、削りたてチーズをたっぷりかけた一皿に、「和牛が雪に埋もれてる!」と驚きの声を上げるきたろうさん。一口食べれば、「お肉がレアで旨い! これはなかなか食べられないよ」と感激し、武藤さんも「ペロっと食べちゃう」と止まらない。「カルパッチョは、日本では魚が多いですが、イタリアでは基本的に生の牛肉なんです」とご主人が説明してくれた。
28歳でイタリアから帰国した後も、都内のイタリア料理店で修業を続けたご主人だが、徐々にある思いが芽生え始めたという。「もともと、やきとん屋が好きで、いろいろ巡るうちに、大衆酒場や下町にどんどん行くようになった。そしたらイタリアンよりも酒場をやりたくなって」と、43歳の時に、イタリアンのノウハウを活かした「酒場ワタナベ」を開業するに至ったのだ。「イタリアンの要素と酒場的な料理を取り入れた、僕にしかできない料理を出したい」とこだわりをみせるご主人。旬の食材を使ったメニューは日替わりで、毎日、オープン前に手書きでメニュー表を作成。この日も、「薩摩鶏レバーペーストクロスティーニ」、「スズキのマリネ」、「ガツポン イタリア人が作ったらこんな感じ」、「太郎ちゃんからの贈りもの 高知太郎トマトと兵庫ホタルイカのサラダ 和からしヴィネグレットソース」など、思わず食べたくなる料理がズラリ!
「ナポリのモツ煮」はイタリアンと和の融合!?
次に登場したのは、イタリアンと酒場の定番メニューを融合させた自慢の一品。その名も「ナポリのモツ煮」だ。チーズと黒胡椒がかかったモツ煮にパンを添えた、おしゃれな一皿に、「これが煮込み!?」と衝撃を受けるきたろうさん。玉ねぎやニンジン、セロリを炒め、数種類のモツにイタリア産トマト、ハーブなどを加えて煮込むそうで、「イタリアでもモツ煮は庶民の食べ物なんですよ」とご主人。武藤さんは、「お肉食べると確かに煮込み。でもスープはおしゃれな味!」と、すっかり気に入った様子である。
この日は看板娘の“あかねちゃん”こと従業員の青山茜音さん(21歳)もアルバイトに入っていて、話を聞くと、「大将は優しいし、賄いも美味しい。私は直接お店に食べに来て、ここで働きたいと直談判したんです」とキラキラした笑顔で話してくれた。開業して10カ月ながら、店内は多くの常連客で賑わい、「料理も旨いし、マスターの人柄が魅力」、「居心地が良くてついつい来ちゃう」と口々に絶賛する。約20年修業を重ねたイタリアンを武器に、常連客やスタッフに支えられ、人気店を作り上げたご主人なのだ。
続いては、「トリュフ風味のオムレツ」を。卵と生クリームにトリュフ入りマッシュルームペーストを混ぜて焼き、仕上げにトリュフオイルとチーズをたっぷり! 「めっちゃトリュフ〜! 贅沢な味」と目を細める武藤さん。ご主人は、「高いイメージがあるイタリアンですが、本来はもっと安く出せるんです」と胸を張った。
最後の〆は、平日限定の日替わりパスタ。この日は、ニンニクと唐辛子を利かせた「シラスとトマトのオイルパスタ」で、「ニンニクが利いてておいしい!」、「シラスもふわっとしてる」と大満足のふたりである。
「毎日が楽しいです。お客さんがたっぷり飲んでベロベロに酔うのを見るのが好きなので」と気取らないご主人。「酒場とは、いつでも行けて、みんなが仲良くなれる場所。この地域の方々に愛される店になれたらなと思います」。